第4話 スキル【ナデポ】が発動した


アリタニア王都近郊にある、魔の大森林の中を俺たちのパーティは進んでいた。



パーティ・メンバーは、以下の5人だ。

勇者女子高生(沙織)

大賢者 大城

剣聖 高田芽依

大聖女 女神エリサ

魔法使い 俺(丸田一輝)



鬱蒼と茂る木々が、ガサッと揺れた。

「なにか、大物が来るぞ! 気をつけろ!」

王からパーティリーダーに指名されていた大城が注意喚起した。


数メートルほど先の、大木の幹が数本、メリメリ…と音をたてる。


3本の木がほぼ同時に左右に折れて倒れた。

倒れた木々の向こうの視界がひらけ、身長6メートルはあろうかという、巨大な魔物がこちらを見下ろしていた。

「キングゴブリン!」

勇者沙織が叫ぶと同時に、巨大な魔物に突っ込んでいった。その後に剣聖の高田が続く。


キングゴブリンが、右手に持っていた巨大な棍棒を振り下ろした。

勇者沙織は、真っ向から盾で受け止める。

盾の硬質な金属音が、重厚に鳴り響いた。


さすがは、勇者といったところか。巨大なキングゴブリンの一撃にも、みごとに盾で耐えている。


「いっけぇえええ!」

両手持ちの長剣をもった高田が、すばやく斬り込んだ。

「グワッ……」

右手の前腕を深く斬られ、キングゴブリンの顔が苦痛にゆがんだ。


前のめりになった高田の身体を、キングゴブリンが左手でないだ。

「きゃっ」

高田の身体が吹っ飛び、地面に打ち付けられる。

「中ヒール!」

元女神の大賢者エリサが、すかさず治癒の魔法を、高田にかける。

「ありがとー! 助かるぅー!」

高田が、明るく笑って、

「よっと!」

脚の反動だけで、身軽に立ち上がった。


「呪文の詠唱が終わった。行くぞ沙織。避けてくれ!」

「オーケー!」

大城の声に、沙織が素早く脇へとよけた。


超炎熱地獄スーパー・ヘルファイヤー!」

叫びと同時に、かざした大城の杖の先から、猛烈な業火が吹き出した。

巨大な炎が、キングゴブリンの全身を包む。


「グワアアア!」

苦しみの表情を浮かべたキングゴブリンの巨体が、地面に崩れた。

「いただきーっ!」

飛び跳ねるように高田が、キングゴブリンの頭に駆け寄った。非常にすばやい動きだった。


躊躇ない仕草で、高田がキングゴブリンの眉間に長剣を突き刺す。

「ぐふっ……」

止めをさされたキングゴブリンは、あっさりと息絶えた。

俺たちのパーティは、一分とかからず、キングゴブリンを圧倒した。



盾役タンカー 勇者沙織

物理アタッカー 剣聖高田芽依

魔法アタッカー 大賢者大城

ヒーラー 大聖女エリサ



前衛が強敵を引き付け、時間稼ぎをしている間に、攻撃力は強大だが詠唱に時間のかかる攻撃呪文を完成させる。教科書に載せてもいいような、みごとなチームワークである。


王の庇護下、俺たちは、三ヶ月ほどの基礎訓練を続けていたが、バランスのとれた本当にいいパーティになった。

RPGもそれなりにやっていた俺が言うのだから間違いない。



「本当にすごいぞ、おまえたち!」

パチパチパチ……

俺は、拍手してパーティのみごとな戦いをたたえた。


「丸田先輩! あたし…、うまくやれましたぁー?」

顔を上気させた高田が上目遣いに俺に歩み寄ってきた。

「おう。おまえは、身体を動かす仕事に向いてたみたいだな。身のこなしとか、素晴らしかったぞ」

「本当ですかぁー?」

「本当だ」

俺は心から高田を褒めた。


転移前の世界では、俺が高田を褒めることはなかった。高田は本当に仕事ができなかったし、どこか浮ついた感じで、仕事に対しての真剣さが感じられなかった。

しかし、この世界では、しっかりと成長して結果を残している。


俺は、褒められる価値のあることをした人間は、ちゃんと褒める主義だ。

価値のあることをした人間にはにっこり笑顔。

これが俺の方針である。


そのため、スキル『ニコポ』を持っているにもかかわらず、一ヶ月ほどまえに、おもわず高田に微笑んでしまったのだ。

当然だが、俺のスキル、『ニコポ』が発動してしまっていた。


それ以来、俺に対する高田のアプローチが非常に強いものとなっている。

……うーん。

どうしたものかと悩んでいるが、未だに解決する方法は見つかっていない。


「だったら……」

頬を染めた高田がもじもじしはじめる。身体が微妙に揺れることで、大きなオッパイがプルプル揺れた。

「頭を撫でてもらっていいですかぁ……?」

高田が、潤んだ目で俺を見上げる。

「仕方ないなあ……」

俺がため息をついて、頭を撫でてやる。


《スキル『ナデポ』が発動しました!》

なにもない空中から、ナレーションの声が聞こえてきた。この声は、どうやら俺にしか聞こえないらしい。


三ヶ月ほど、基礎訓練を積むことによって、俺は、Lv.13になっていた。

『ナデポ』は、俺のレベルがあがって、新しく得たスキルである。

効果を見ると以下のように書いてある。



スキル『ナデポ』

・対象が美少女に限り、効果が発動する

・頭を撫でると、対象が喜ぶ

・対象のあなたへの好感度が上昇する



「ああーっ、ずるい! 芽依っちだけ、丸田さんにナデナデしてもらってる」

女子高生勇者の沙織が、トコトコと俺の方に駆け寄ってきた。


沙織は、上目遣いで俺を見る。

「わたしも、ナデナデしてもらっていいですか?」

沙織の職業クラスは勇者だ。勇者は、物理・魔法、両方できるチート職業クラスである。

このパーティでは、専門の盾職がいないので、沙織は、主に盾役タンカーをやっている。


しかし、盾役タンカーが必要のない戦闘なら、一転して沙織は極めて優秀なアタッカーとなる。

勇者というチート職業クラスのみが行える、最高の立居振る舞いだ。


2週間前のことだった。俺は沙織のあまりにも素晴らしい戦い方を見て、思わず微笑んでしまった。

それで、当然だが、沙織に対しても、スキル『ニコポ』が発動してしまったのである。


沙織は、俺のナデナデに期待をふくらませながら、輝く瞳でじっとこっちを見つめている。

俺は、躊躇していた。

このまま、ラノベのハーレム主人公よろしく、流されるままに沙織の頭をナデナデしてしまっていいのだろうか?


「芽依っちは、戦闘でがんばったら頭をナデナデしてもらえるのに、どうして私はだめなんですかぁ……?」

俺の躊躇が伝わったのか、沙織の目が、悲しそうに涙目になってる。美少女の整った瞳が、うるうる潤んでいる。

超絶可愛い……。

いや、だからそんな目で俺を見るなよ。


「こらっ、抱きつくなって」

「なんでですかぁ……」

俺が拒絶すればするほど、沙織は俺の腕にしがみつく。

「距離が近すぎるって。ほら、おっぱいがあたってるって。手を離しなさい!」

「そんな、まるで童貞を35歳までこじらせたみたいな人が言うようなこと、やめてください……」

わるかったな。俺は35歳まで童貞をこじらせたオッサンだよ。


あまりにも悲しそうな顔をするので、根負けして頭をナデナデしてやる。

瞬間、沙織の顔が満面の笑顔に変わった。


《スキル『ナデポ』が発動しました!》

またもや、ナレーションの声が聞こえてきた。。


うーん……。どうしたものか。これをずっと続けていいものなのだろうか?

でも、他に、もっといい対応方法も見つからないしなあ……

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