第8話 イケメンの誤算 その1



王城内の、大城にあてがわれた寝室だった。

大城は、ベッドの上に座っていた。


大城の怪我けがが完治するまで2週間ほどかかった。


MPは比較的早く回復したが、大城の治癒魔法では治りきらない怪我があったのだ。


治癒系魔法に特化した大聖女エリサなら、より高度な治癒魔法が使用できる。


大城の怪我は、エリサの魔法なら、一瞬で治るようなものだった。


しかし、エリサは大城を王都に残したまま、丸田や高田、沙織と一緒に旅立ってしまっていた。


薄情はくじょうすぎないか……?」

自分が丸田を追放したことを棚にあげて、大城がいらだちながら唇をかみしめる。

大城の額が、青白くピクピクと痙攣けいれんした。イライラが止まらない。


どうして、こんなことになってしまったのだろう。

丸田を追放すれば、完璧な勇者パーティになると思っていたのに……。



「あんなFラン私大卒で万年平社員の役立たずのオッサンなんかに、僕が負けるわけがない。僕は、超エリートなんだぞ!」

大城は、ギリギリと歯を噛みしめた。


まさか、エリサ、高田、沙織の全員が、くたびれたオッサンについていくなんて、思いもしなかった。


これまで大城は、挫折を知らない人生を歩んできた。大城は高学歴なだけでない。スポーツもできたし、外見までもが、モデルができそうなイケメンだった。

当然だが、学生時代は女からモテモテで、何人もの女と同時に付き合っては、飽きたら捨ることを繰り返してきていた。


大城は、失敗や挫折に慣れていなかった。小さい頃から、いままで挫折など経験したことがなかったのだ。


だから、一度、挫折を失敗すると、なかなか気持ちの切り替えができなかった。

「…………」


しかし、まだ理性は残っている。

大城は興奮しやすい性格ではあるが、思考することはできる。


(そうだ。今回だけが、なにかの間違いだったのだ)

屈辱くつじょくにまみれた気持ちだったが、自分に言い聞かす。


「前向きに考えるんだ」


国王にちゃんと申し開きをしよう。一度の失敗くらい、今後の活躍でいくらでも挽回ばんかいできる。


(僕は、どんな世界でも成功する人間だ)


大城には、なぜか謎の確信があった。それは、まったく何の根拠もないものだったが、本人は気づいていない。


(自分は特別な存在なのだ。僕は誰よりも成功する。僕は特別な選ばれた人間なのだ)


「この僕こそが、魔王を討伐し、この世界の歴史に名を刻むのだ」

大城は、顔をあげ、決意するように拳を握りしめた。



☆☆☆



「誰でも失敗はあるものだ。さすがの私も、一度の失敗くらいで、そちを見捨てたりはしない」

玉座の間で、うやうやしくひざまずく大城に、国王が声をかけた。


「ところで、大城殿のミノタウロスとの戦いの詳細しょうさいな状況説明がまだだったな。詳しく説明してはくれまいか?」

「「「はっ」」」

王が声をかけると、そばにひかえていた、3人の戦士が前にでた。


戦士の3人は、ミノタウロス討伐部隊の隊長1人と、同じ部隊にいた各班の班長の2人である。

エリート部隊である王国近衛隊から選抜された者たちであり、彼らは王からの信頼もあつかった。


彼らは、大城と一緒になって、ミノタウロスと戦った戦士たちだ。そのため、大城の戦いぶりを、ずっと見ていた。


三人は、低い声で、ひそひそと王に耳打ちした。

「大城殿は、口だけは達者ですが、まったく戦力になりませんでした。そのせいで、特別に編成されたミノタウロス討伐部隊が、もう少しで全滅するところでした……」

「なんというか、大城は、雑魚というか、糞というか、超弱すぎて……」

「役立たず銀縁眼鏡は、クズで足手まとい」


小声での耳打ちだったが、大城は地獄耳だった。兵士たちの小声が、はっきりと聞こえていた。


(ぐぬぬ……)

くやしさいっぱいで、大城が唇を噛む。その額が青白くなり、ピクピクと震えだす。



戦士たちの報告を聞いて、国王が大城に向き直った。

「では、役立たず銀縁眼鏡……」

言ってから王は、あらためるように、コホンと咳をした。

「もとい、……大賢者の大城殿には、パーティメンバーとして、私の近衛部隊から、特に優秀な精鋭を提供するとしよう。新しいパーティで、魔王討伐を目指すとよいぞ」

「ありがたき幸せ。この大城、必ずや、陛下のご期待におこたえいたします」


大城の言葉に嘘はなかった。

次こそ、必ず成功してみせる。


そして、自分を悪く言ったミノタウロス討伐隊の戦士たちをギャフンと言わせてやる。もちろん、丸田にも吠え面をかかせてみせる。


(僕が本当の実力を出せば、奴らも僕のことを恐れおののき、びへつらってくるに違いない)


大城は、決意をあらたにした。

ぎゅっと、力をこめて握った大城の拳が震えた。


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