第9話 ゴブリンを恐れる村と、『元祖』勇者パーティ



魔王の住む魔王城までは、まだまだ距離がある。


それに、まだ俺たちのパーティ・レベルでは、魔王には太刀打ちできない。

俺たち4人はレベリングがてら、魔物を倒しながら、森の中を進んでいた。


3日ほど進んだところで……、


突然、森が途切れた。

数百メートルはなれた向こうに、小さな村が見えた。


「今晩は、あの村で泊めてもらおうよー」

「やったぁー。3日ぶりにベッドで寝られるぅ。野宿はつらいよぉー」

村を見て沙織と高田が歓喜の声をあげる。


村に入ると、村人の男が出迎えてくれた。そのまま、村長の家に通される。


村長は、60歳手前くらいの白髪の小柄な男だった。やさしそうな顔をしている。


村長の家は、玄関入ってすぐのところが広い部屋になっていた。

おそらく村の話し合いなどが行われる部屋なのだろう。十人くらいが同時に座れる広いテーブルが置いてあった。


村長にすすめられるまま、俺、エリサ、高田、沙織がテーブルにつく。


「とおりすがりの旅の冒険者ですが、よかったら今夜泊めてもらえませんか? もちろん、適正な対価は払うつもりです」

俺が言うと、村長が困ったように眉をしかめた。


「どうかしたのですか?」

「泊まっていただくのは、いいのですがのう……。ただ、ひとつ問題がありますのじゃ」

俺の質問に村長が困ったように眉をしかめた。


「こんな平和そうな村に、どんな問題が?」

「それが……、最近、近くの森の中でゴブリンが大量発生しましてのう……。現在、この村はゴブリンの襲撃を恐れて、暮らしているというわけでして」

村長が困ったように肩をすくめた。


すると……、


バタンッ!


大きな音をたてて、村長の家の扉が勢いよく開かれた。


「ゴブリン討伐など、僕たちが責任をもって引き受けよう」

「あ、銀縁眼鏡だ」

「役立たず眼鏡……」

高田と沙織が振り返って言った。

「ちがぁーーーう! 僕は大城だ!」



 大城は、もう、名前も呼んでもらえなくなっていた。

「あなたたちは?」

いきなり入ってきた男に、村長が驚いて目をパチクリしている。


「僕たちは、元祖・勇者パーティだ!」

正式の暖簾のれんを誰が継ぐか、老舗の店でお家騒動が起こったみたいなパーティ名である。


大城は、新たにパーティ仲間として、二人の男を連れていた。

その顔には、見覚えがあった。国王の近衛隊にいた男たちだ。


「おおーっ。まさか、勇者様のパーティに来ていただけるとは……。この村も、まだ神に見放されてはいなかったようですじゃ!」

村長が、明るい表情で、大城たちを歓迎する。


「安心しろ。こっちが正真正銘の絶対本物、誰よりも信頼できる元祖・勇者パーティだ!」

大城が『勇者パーティ』というところを特に強調するように言う。


「では、あなたが勇者様で?」

村長が大城に質問した。

「僕は、大賢者だ」

大城の言葉に、村長はちょっと意外そうな顔をしたが、すぐに『元祖・勇者パーティ』の他のメンバーを見た。

「では、あなたが勇者様ですか?」

「わたしは、王国近衛隊第三班副長、剣士のジーンです」

「では、あなたが勇者様?」

「俺は、王国近衛隊第四班副長、弓使いのザックだ」

「どうだ。この3人パーティこそが、元祖・勇者パーティだ! わははははっ」

大城が腰に手を当て、背中をそらせて、誇らしげに笑う。


「勇者様はどちらですじゃ?」

村長が尋ねる。

「コホン……。そんなことはともかく、ゴブリン退治の話をしよう!」

大城は、見え見えのせきをして、村長の疑問をごまかそうとする。


大城を見る、村長の視線がジト目になっていた。

「勇者さまがいないのに勇者パーティとは、どういうわけですかな?」


村長に痛い所を追撃されて、大城の表情が、一瞬、固まる。

大城は、必死で平静をよそおいながら、声をあげた。

「と、ともかく、ゴブリンなど、我が、元祖・勇者パーティの手にかかれば、簡単に倒せるのは間違いなしだ!」


「まあ……、ゴブリン退治をしてもらえるなら、勇者様であろうとなかろうと、私どもとしては、どちらでもかまいませんのじゃが……」

「そうだろう、そうだろう。この元祖・勇者パーティが、ゴブリンの群れなど、かるく一掃してくれよう。大船に乗ったつもりで安心して見ているがいい」

村長の言葉に大城が自信満々に答えた。


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