第41話 イケメンの誤算 その6 ホモゴブリンの恐怖、再び(前編)


うんこを漏らした大城は、追われるように、小さな街を逃げ出していた。


街をでて、しばらく歩くと小川を見つけた。うんこまみれになったズボンなどを洗ってから、木の枝にかけて干す。


あたりまえだが、大城の下半身は素っ裸だ。一方で、上半身はかっこいい高級装備で固めていた。


かなりマヌケな格好だった。


そうして、一人きりで体育座りしていると、なんだか物悲しくなってくる。



ややあって……


ぎゅるぎゅるぎゅるるるる……


「うっ……」


腹がまた鳴った。腹痛が襲いかかり、強烈な便意をもよおした。


大城は、木の陰まで走っていって、用をたす。紙がないので、尻は小川で洗った。


下痢が続いていた。しかも血便がでる。全身がだるく、悪寒がしていた。熱があるようだ。


明らかに、なんらかの病気だった。


医者か、詳しい人に症状を相談したいが、元来た街に戻るわけにはいかなかった。小さな街だから、大城がうんこをもらして逃げ出した話は、もう広まっているはずだった。



別の街を見つけなければならなかった。


「くそっ……。どうして僕がこんな目にわなければならないんだっ!」

大城は地団駄じたんだを踏んだが、どうにもならなかった。


頼れる人が一人もいない。大城は孤独だった。



地面に座り込み、しばらくすると、遠くから、魔物の鳴き声が、かすかに聞こえてきた。鳴き声は、どんどん近づいてくる。


甲高い魔物の声は、やがてはっきりと聞き取れるようになってきた。大城にとって、聞き覚えのある鳴き声だった。



「ウホッ!」「ケツアーナ! ケツアーナ!」「ヤラナイーカ!」「ヤラナイーカ!……」


それは、まぎれもなくホモゴブリンの鳴き声だった。


「まずい……」


まだ湿しめっていたズボンを、急いで穿いた。


大城は、装備の杖を手に持ち、逃げ出そうと、一歩踏み出す。


ガサッ。


背後で茂みを踏みしめる音がした。


振り向くと、そこに20匹以上のホモゴブリンの群れがいた。みな筋肉ムキムキで、身長も190cmくらいあった。

ホモゴブリンたちは、すぐに大城の姿を目にとめた。


「ウホッ。男だ。人間の男だ!」

なんと、そのホモゴブリンは、人間の言葉を話した。



「くうっ……」

大城が歯噛はがみする。


人間よりホモゴブリンのほうが、はるかに足が速く、長距離走にもすぐれていた。逃げ切れない。


「いやーん、お兄さん、よく見ると、結構イケメンじゃないのー。ヤラナイーカ!」

先頭を走っていたホモゴブリンは、オネエ言葉だった。もちろん、身体つきは筋肉隆々のガチマッチョ男そのものだった。身長も2m近くあった。


「ど、どうしてホモゴブリンが喋るんだ?!」

大城の言葉に、

「あたしたちは、ホモゴブリンの上位種、ハイ・ホモゴブリンよおーん。知能が発達したあたしたちは人間と同じように、言葉を話すことができるのよーん。ヤラナイーカ! ケツアーナ!」


「うわっ。こっちに来るなあああ! 超炎熱地獄スーパー・ヘルファイヤー!」

大城は、自分が持つ一番強力が攻撃呪文を唱えた。


しかし……


出るはずの猛烈な業火がでない。


伝染病にかかり、体力が落ちていることが原因だった。


「くうう……」

大城はうめいて、初心者レベルの魔法を唱えた。「ファイヤー・ボール!」


大城の手の平から、小さな火の球が出現した。火の球は、ホモゴブリンに飛んでいき、左胸に命中する。


「きゃあ。ついっ」

オネエ言葉のホモゴブリンは、ファイヤー・ボールが命中した左胸を撫でた。「ウホッ! ちょっとやめてよ。ケツアーナ! 熱いじゃないのー。お兄さん。あたしの綺麗なお肌に、ヤケドの跡が残っちゃったら、どうしてくれるのよ! ヤラナイーカ!」


「やめろおおおっ! 僕に近寄ちかよるなあああ!」

やたら、体格のいい20匹以上のホモゴブリンが大城をとりかこんでいた。


ホモゴブリンたちが大城を押さえつけ、ズボンと下着をずらす。


「あらー、お尻を突き出したお兄さんの姿、とーっても、ス・テ・キ! ウホッ!」

「最近、ごぶさただったから、これは興奮するぜ。イヒヒヒ……。ケツアーナ!」

オネエ言葉のホモゴブリンの後に、別のホモゴブリンが言った。


「やめろおおおおおっ!」

大城の痛烈つうれつな悲鳴が、小川近くの河原にこだました。


大城を取り巻くホモゴブリンの目は、ギラギラとあぶらっこく輝いていた。


前回と違って、大城を助けてくれる人はいなかった。



ホモゴブリンは、人間の男の性器そっくりの産卵管を持っている。その産卵管を、肛門に差し込んで、卵を産むのだ。卵から生まれたホモゴブリンの幼生は、宿主の内蔵を食い破りながら、成長していく……




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る