第51話 突然の轟音

 それからしばらくジョンを探すも、一向に成果はなかった。

 既に日は傾き、夕暮れ時といって差し支えない時間になっている。


「見つからないわね……」


 エリーナが気落ちしたように言う。


「子犬どころか、野生動物一匹出くわさないな……」


 ライルの表情は険しげだ。

 言葉の通り、犬はおろか動物一匹すら巡り合えていない。


 どことなく、不気味な感じがする。


(結局、今回も役に立たなかったな……)


 成果といえば、錆び付いた古い金属ナイフと、綺麗なちょうちょを見つけたくらい。


 ナイフは危ないので生徒会の清掃活動と称して回収しユフィが持っているが、ずっこけてエリーナに回復魔法を使わせた点を考慮すると迷惑分の方がずっと大きいだろう。


(ダメだなあ、私……)


 とぼとぼと、肩を落として歩いていると。


『にゃあ……』


 肩の上でシンユーが弱々しく鳴き声を上げた。


「どうしたの、シンユー?」

『ユフィ、もう帰ろう? なんだか嫌な予感がするよ』

「嫌な予感……?」


 今までずっと、ポジティブなことしか口にしてこなかったシンユーの弱気な発言に、ユフィは眉を顰める。

 冷静に考える。


 シンユーはイマジナリーフレンドで、いわば自分の自我の一つだ。


 つまり……。


(私自身が、何か嫌な予感を……?)


「今日はそろそろ切り上げるか」


 ライルが言った、その時だった。


 ──ドンッ!!


 そう遠くない場所で、地面を揺らすような轟音。


『なん……!? どうなっ……!?』

『……げろ! ……ジャ……ック!』


 そしてどこからか、ジャックとエドワードの切羽詰まった声が途切れ途切れに聞こえていた。


「な、なに……!?」


 エリーナが驚声を上げると共に、再び轟音。

 今度は夕日の方向から炎が上がる。


「どうやらただ事ではないようだね」


 ライルが額に汗を滲ませて言う。


「えっと、これってあの炎が上がった所に急いで行った方がいいんですよね?」


 ユフィが確認するように訊く。

 何故かユフィは、シンユーをぎゅっと胸に抱いていた。


「もちろん! ユフィ、エリーナ、早く行こ……」

「ゲイル・グライド(疾風滑翔)」

「「へ?」」


 ライルとエリーナが素っ頓狂な声を漏らしたのは、突如として自分の体がふわりと浮いたからだ。

 どこからともなく発生した風が3人を薄く包み込んで軽やかに持ち上げる。


「なっ……なっ……」

「う、浮いてる……!?」


 ようやく状況を理解した二人がジタバタするも、風の拘束からは逃れられない。


「目を閉じていてくださいね」


 ばびゅん! 


 ユフィが言葉を放つと同時に、空気を裂くような音。


「うおっ……!?」

「きゃっ……!!」


 二人の短い悲鳴を置き去りにして、ユフィたちは目にも止まらぬ速さで空を駆けた。

 叩くような風が髪を乱し、衣服をはためかせる。


「わ、私……空を飛んで……いやあああああああっ……!!」


 エリーナの驚声に構わず、風は明確な意思を持って3人を運ぶ。

 ほどなくして目的の場所に近づくと、ユフィは風を操りゆっくりと地面に降り立った。


「着きました! 恐らく今取れる手段の中で一番速い移動方法……って、大丈夫ですか!?」


 顔を真っ青にし息を浅くしているライルとエリーナに、ユフィが駆け寄る。


「だ、大丈夫よユフィちゃん、でも私、生きてる? 生きてるよね……?」


 エリーナがペタペタと自分の身体を触りながら言う。


「風魔法を応用すれば空を飛べると噂には聞いていたが、まさか実現させるとは……」


 ライルは息を浅くして、信じられないものを見たような顔をしていた。


「ご、ごめんなさいっ、ちょっと速すぎましたかね? もう少しスピードを落とせば……」

「いや、よくやったよユフィ」


 ──思わず顔を顰めてしまいそうな焦げ臭さが鼻先をくすぐった。


 平静を取り戻したライルが前方を見つめ、つられてユフィも顔を上げると……。


「ジャックさん! エドワードさん!」


 目の前に広がっていたのは、炎と煙に包まれた木々。


 そして地面に倒れ伏し呻き声を上げる、エドワードとジャックの姿だった。

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