第33話 VSジャック③

「……三属性」


 ぽつりと、ライルが呟く。


(ユフィが火と水の魔法を使えることは確認してたけど……それに加えて土魔法も使えるとは予想外だったな……)


 攻撃魔法の基本属性は火・水・風・地・雷の5つ。

 通常は一つの属性に集中し、極めていくのが一般的だ。


 その中でも才能や魔法の鍛錬に相当時間をかけた者は二つの属性を使いこなせることができ、これはライルが該当する。


 三つや四つとなると希代の才を持つ者の中でも選び抜かれた者しか該当せず、大半は王城の上級魔法師団に所属し国の盾として名を馳せていく。


 ……ちなみに、五属性全てを使える攻撃魔法師は、歴史上未だ観測されていない。


(全く、ユフィには驚かされっぱなしだよ……)


 常識を超えた光景を見せてくれたユフィに、ライルはもはや乾いた笑いしか漏らせない。


(魔法学園一年生という若さで、三属性の魔法を操る女子、か……)


「いや、待てよ」


 ぴたりと、ライルの息が止まる。

 あまりにも馬鹿馬鹿しくて、思考することすらしなかった想像が頭に浮かんだ。


「まさか、これ以上の属性を持って……?」


 一方のジャックは、よろよろ起き上がりながら絶望を表情に浮かべていた。


「馬鹿、な……」


 十年近い時間をかけて極めてきた火の魔法。

 その集大成とも言える最上級の技を持ってしても、ユフィにかすり傷ひとつ付けることが叶わなかった。


 あまりにも圧倒的な差。

 しかもユフィはまだ、こちらに攻撃の手の内を明かしていない。


 その事実が受け止められる、ジャックは呆然としていた。


「だ、大丈夫ですか!?」


 ロック・シールド(岩石壁)をサッと消して、ユフィがジャックの方へ駆け寄る。


「来るなボケ!!」


 ジャックが叫び、ユフィはびくりと肩を震わせ立ち止まる。


「ご、ごめんなさい、少し出力を間違えてしまって……」


 おろおろしながら言うユフィの言葉に、ジャックのプライドがピシリと音を立てた。


「クソクソクソ!! 馬鹿にしやがって!」


 ジャックは激昂した。

 回復魔法しか使えない女子、平民上がりの見下すべき存在に、己の攻撃の全てを防がれた。


 自分が今まで築き上げてきた魔法の全てを否定されたような屈辱。

 胸中に業火の若き感情が爆発する。


(こんなふざけたやつに……認めねえ……認められるわけがねえ!)


 怒り、悔しさ、負けたくないという気持ち。

 それらの激情はジャックに力を与える。


 ジャックは立ち上がって、再び魔法を放とうとするが。


「ぐっ……」


 ふらりと、ジャックの身体が揺らぐ。

 焦点が定まらず、今にも倒れそうになっていた。


「やめろジャック! これ以上の魔法を使ったら反動が来るぞ!」


 観客席からエドワードが叫び、ユフィはハッとする。


(反動……! そういえば授業で習った……)


 魔法を使いすぎると『反動』と呼ばれる代償が様々な不具合によって身体に現れるらしい。


 らしい、というのはこの現象にユフィはまだ見舞われたことがないからだ。

 反動の症状としては頭痛や吐き気、ひどい場合は何日も寝込むことになり最悪は死に至ってしまう。


 己の魔力のほぼ全てをつぎ込んだ特大魔法によってジャックの魔力は枯渇し、反動が来ているのだろう。


「もう、戦わせるわけには……!!」


 聖女を目指すものとして、無理をさせるわけにはいけない。


「あ、あのあの! もうやめにしませんか? 身体もしんどそうですし……」

「うるせえ舐めんじゃねえ! こんなところで俺は負けるわけにはいかねえんだよ!」

(あああっ! 余計に火に油を注いでしまった!)


 ユフィの静止など聞く耳持たず、ジャックは掌を前に突き出す。


「ファイヤ……」

「サンダー・シュート(雷鳴弾)!!」

「あべしっ!?」

(あ! しまった! つい!)


 これ以上戦いを長引かせてはいけないと反射的に雷魔法を放ってしまった。

 出力をギリギリまで落として動けなくするくらいに止めるはずが、ジャックは立ったまま白目を剥いてしまう。


 しん、と再び静寂が舞い戻る。

一連の流れを見ていたエリーナとエドワードがもはや言葉を発せなくなっている中。


「ユフィ、君は……」


 ふらふらとライルがユフィの元へ歩きながら、尋ねる。


「四属性の魔法を使えるのかい……?」

「い、いいえ……」


 びくびくと怯えた様子で首を振った後。


「ソフト・ブリーズ(風乃守護)」


 意識を失ってぶっ倒れようとしたジャックを、ユフィは風魔法でゆっくりと横たえて言った。


「ぜ、全部使えます……」

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