第34話 どこか 暗い 洞窟で

 暗闇が包み込むように広がる洞窟。

 滴る水滴の音だけが時折響き渡り、その黒々とした空間には不気味な静けさが漂っている。


 鳥肌を立てるほど冷たい空気が漂い、闇の中に点在する数々の岩石が洞窟の広大さを物語っていた。

 その奥深くに立つ二つの影。


 一つはフードを深く被ったシルエット、その顔は闇に飲まれ姿は定かでない。

 彼の立ち姿はしっかりと地を踏みしめ、冷静な気配を放っている。


 もう一つは漆黒の影から突如として現れる異形の存在。

 蠢くような闇そのものであった。


「フレイム・ケルベロスが倒されただと?」


 闇からくぐもった声が響く。

 その声は驚きとも怒りとも取れた。


「生徒側の被害は?」


 フードを被った男が静かに口を開く。


「ゼロ、です……」

「あり得ない」


 今度は明確に、驚愕を滲ませた声。


「誰だ、誰がやったのだ」


 影から鋭く問い詰められ、フードの男は唇を震わせて答える。


「ユフィア・ビシャスという女生徒です」

「ふざけているのか?」


 突如として暗闇から炎にも似た光が飛び出し、男の手首から先を吹き飛ばす。


「ぐああああ!!??」


 男は地面に倒れ込み苦痛の悲鳴を上げた。

 続け様に男の頭を影が踏みつける。


「本当です……! 信じてください!」


 男は涙と汗で顔を歪ませながら訴えた。


「確かに見たのです! 女子生徒が、フレイム・ケルベロスを倒すのを……!!」


 一瞬だけ静まり返る影。

 ようやく男の頭を解放し、何か触手のようなものを伸ばす。


 緑色の光が放たれ、男の手は見る見るうちに元の姿へと戻っていった。


「はあっ……はあっ……」


 手を押さえて、男が息を浅くする。


「ユフィ・アビシャス……」


 忌々しげな声。


「その者を捕縛しろ」


 反論は許さないとばかりに影が強く言う。


「そして、生徒会の人間は残らず抹殺だ。なんとしてでも計画を遂行するのだ」


 暗闇からの命令に、男は「わ、わかりました……」と返答を口にする。


「もし失敗したら」


 ヒュッと影が伸びて、男の首を岩壁に押さえつける。


「かはっ……!?」

「次は首ごと焼き落とす」


 それは冷酷な宣言であり、どうやっても避けられない警告だった。


 恐怖と酸欠で生きた心地がしない中、男がこくこくと首を縦に振る。


 会話はそれきりで、やがて静寂が到来する。

 後には時折弾ける不気味な水滴の音だけが残された。

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