第29話 これだけは、本物だ
「皆に集まって貰ったのは他でもない。ユフィ・アビシャスの、生徒会入りについてだ」
本題に切り込むライルに、ユフィが不安げな瞳を向ける。
「大丈夫。皆には朝に集まって貰って、すでにユフィのことは話してある。昨日のフレイム・ケルベロスの一件のことも、ユフィが超上級クラスの攻撃魔法を使えることもね。最も、信用してくれているかどうかは、さておきなんだけど」
肩を竦めるライルに、ジャックが「ハンッ」と馬鹿らしげに鼻を鳴らした。
「ライルよ、お前、自分が何言ってるのか分かってんのか?」
「僕はいたって正気だよ?」
「フレイム・ケルベロスとの戦闘で、頭を打っておかしくなったんじゃねえか?」
「そのフレイム・ケルベロスを、ユフィが一瞬にして討伐するところを僕はこの目で見た」
真剣な表情で淡々と言うライルに、ジャックは舌打ちをする。
「やっぱり信じられねえな。エドワードとエリーナも、俺と同じ気持ちだと思うぜ? なあ?」
「俺もジャックと同意見だ」
話を振られたエドワードは、腕を組んだまま平坦な声で言う。
「女である上に平民出身のユフィが攻撃魔法を使えるなど、俄に信じられん。しかも、ライルをも凌ぐ超上級魔法を扱えるとなると、よっぽどだ」
エドワードに冷ややかな眼差しが向けられ、ユフィは気まずそうに目を逸らす。
一方のエリーナは微笑みつつも、困惑を露わにしていた。
「ユフィちゃん、嘘つく子じゃないと思うんだけど、流石にこれは少し……手放しで信じるとは、言えないかな、ごめんね」
二人の反応に、ジャックはほれ見たことかと言わんばかりに頷く。
「当然だよな。女の癖に攻撃魔法使えるなんて、天地がひっくり返ってもあり得ないだろう?」
三者三様の言葉を聞いて、ユフィの心の中でしょんぼりとした。
ただでさえ猫背なのに、どんどん腰が曲がっていく。
(やっぱり、そうだよね……これが普通の反応だよね……)
一瞬、自分自身にも疑問が浮かんだ。
攻撃魔法を使えるなんて、実は全部自分の妄想で、本当は何も使えないんじゃないかと……。
(……違う、そんなわけがない!)
ユフィは頭を振った。
ぐにゃりと曲がった背中が定規を差したように伸びる。
芽生えかけた疑問は掻き消され、一途な思いに変わった。
(確かに私は、勉強も、運動も、人と喋るのも、何もかもダメダメ……でも……)
ぎゅっと、ユフィは拳に力を込めた。
(7年間、毎日のように攻撃魔法の練習をしたあの日々は、決して嘘じゃないっ……)
ユフィにも、決して否定できないものがあった。
あわや森ごと焼き尽くしかけた火魔法。
うっかり湖を創ってしまい川の流れを変えそうになった水魔法。
地響きが起こるほどの雷鳴を落としてしまい村の皆から『夕立が来る!』と勘違いされた雷魔法。
空に浮かんでいた雲全てを吹き飛ばし快晴にしてしまった風魔法。
ちょっぴり出力を間違えてこの国で一番高い山を作りそうになった土魔法。
それらは全部全部、本物だ。
ユフィの双眸に力が篭る。
(攻撃魔法が使えるという事実は、はっきりと伝えないと……!!)
人が一人以上いる場面で声を上げるのは苦手なユフィだったが、勇気を振り絞って口を開く。
「あ、あのっ……」
「じゃあ、確かめてみたらどうだ?」
ユフィの言葉を遮って、ライルが挑発するように言う。
「なんだと?」
眉を顰めるジャックに、ライルは悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
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