第48話 ジョンを探して

 学園の背後に広がる裏山はリフレッシュの場として知られていた。


 木々の密集度はそれほど高くなく、山という割には明るく開けている

 先日、フレイム・ケルベロスが出現したエリアからは反対方向に位置しており、休日には生徒たちが運動がてら散策する光景がよく見られるだろう。


「くそっ、今日は早く帰れると思ったのによ」


 本来、訪れる際は楽しい感情になるはずの裏山で、ジャックは不満げに文句を溢していた。


「悪態ついてないでしっかりと探せ。たかが子犬探しといえど、れっきとした生徒会の仕事なんだからな」


 エドワードがちくりと言うと、ジャックは「わーってるよ」と渋々ながら答えた。

 目安箱の要望に沿って、ユフィ、ライル、ジャック、エドワード、エリーナの5人が手分けして子犬を探すことになった。


 ノア会長は書類仕事があるからという理由で生徒会室に残っている。


「裏山は結構広いからね、根詰め過ぎずじっくり探そう」


 先頭をゆっくり歩くライルが涼しい表情で言う。

 そんな中、ユフィはシンユーを頭に乗せて一生懸命子犬を探していた。


(私が一番乗りで子犬を見つけることができれば……)


 きょろきょろと辺りを見回し、目を凝らしながら想像する。


『ジョンを見つけました!』


 子犬を掲げるユフィを、生徒会の皆が取り囲む。


『おお、偉いぞユフィ!』

『よくやったわね、ユフィちゃん!』

『一番期待していなかったが、たまにはやるじゃないか』

『やったぜ! おかげでトレーニングが出来る! でかしたぞ、ユフィ!』

「うふふ……うへへ……」


 おっといけない涎が。

 口元をぐしぐしすると、『うにゃっ』と頭上でシンユーが鳴いた。


「本当、可愛いわね」


 エリーナが目を細めて、シンユーを撫でていた。


「確か名前は、シンフェニックスクラッシャードラゴンだったかしら?」

「シンユーです」


 ユフィが訂正すると、エリーナは「そうだったわね」と柔らかく微笑む。

 もはやユフィは、エリーナのネーミングについて深く考えることはやめていた。


「シンユーちゃんの調子はどう? ダークギャラクシー……じゃなくて、ジョンくん、見つけられそう?」

「えっと、どうでしょう……シンユー、何か見つけた?」


 ユフィが尋ねると、シンユーはいつも通りのんびりした声で答える。


『んー、わかんない』

「…………えっと、もう少しでわかりそうかもしれない、らしいです!」

「まあ、そうなのね! 流石、ユフィちゃんが連れてきた猫ちゃん、とっても頭がいいのね」

「あは……あはは……」


 冷や汗をダラダラ流しながら、ユフィは経緯を思い返す。

 生徒会の皆が一旦裏山探索を決めた後、ユフィは寮に戻ってシンユーを連れてきた。


「同じもふもふなので、この子なら何かを察知して、ジョンくんを探せるかもしれないです」


 今思い返すと奇行でしかなかったが、ユフィなりに役に立ちたいと考えた末の行動だった。

 とはいえ、シンユーはあくまでも、ユフィのイマジナリーフレンドが憑依した存在。


 脳内で会話が完結するため、正確なコミュニケーションが取れているとは言いずらい。

 今のところ、エリーナがシンユーの可愛さに夢中になる以上の成果は上げられていなかった。


「やっぱり、ユフィは面白いね」


 ライルにも少しウケたみたいなので、少しだけホッとするユフィであった。

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