第10話 パーティへ
──パーティ。
それはユフィにとって、夜空に煌めく星のようなもの。
ただ集まって料理をつつき、楽しく人とお喋りする会でしょと一笑に付す事なかれ。
美しいのに手が届かない星と同じように、パーティもまたユフィにとっては触れることのできない催しだった。
もちろん、村にいた時にパーティがなかったと言えば嘘になる。
ある時は交流会と称して、ある時は卒業のお祝い会と称して、教会の中心人物の同級生がパーティを開催する機会はあったが、そこにユフィの姿はなかった。
なぜならユフィは、その中心人物の同級生はおろか、教室の誰とも話したことがなかったため、自然とパーティの参加者の頭数から省かれ(以下、トラウマで爆発してしまうので省略)
しかし、そんな暗黒の記憶はすでに過去のこと。
今、魔法学園に入学したユフィにはパーティに参加する権利が与えられている。
つまり今日は、ユフィの記念すべきパーティデビューの日なのだ!
「これでよし!」
寮の自室。
姿見に移る自分の姿を見て、ユフィはふんすっと鼻を鳴らした。
──パーティグッズの店をそのまま人間に変えたかのような姿がそこにあった。
『今宵は宴じゃ!』とデカデカと書かれた鮮やかな色のTシャツ、ズボンは水玉模様がチカチカすよるような派手なもの。
視界を覆う面白メガネのフレームは派手な色彩で装飾され、星形とハート形のレンズがポップ感を強くしている。
手首に巻かれた色とりどりのブレスレットはそれぞれに小さなチャームが付いていて、ユフィが動くたびにジャラジャラと音を鳴らしていた。
(これで、皆と仲良くできるはず……)
ギュッとユフィは拳を握りしめる。
パーティに参加するにあたっての服装は自由、という説明をかろうじて覚えていたユフィは、ノアと別れたその足で売店へと向かった。
(ただでさえ私は人と話せないし、地味だし……だから、服装で少しでも皆の印象に残ってもらわないと……)
という考えのもとで買い揃えたユフィ渾身のファッションであった。
ごくごくたまーに村を訪れていたさすらいの道化師のようにも見えなくもないが、印象に残ることは間違いなしだろう。
『すごいなあの格好!』
『なんだあれ、初めて見た!』
『素敵! どこで売っているのかしら?』
「うひひ……本当にパーティの主役になっちゃったりして?」
『パーティ会場でとびきり目立って人気者になる私』を妄想するユフィは、なんとも幸せそうだ。
ちなみにこの姿を見たシンユーが『にゃにゃっ!?』と驚き『ふしゃー!』と威嚇してきて、終いには怯えたようにベッドの下へ引っ込んでしまった。
猫には人間の素晴らしきファッションセンスは理解出来ないようだ。
それはさておき。
「いざ……!!」
パーティへの期待と高揚感を胸に寮を出るユフィ。
会場までの道中、何人かの生徒がギョッとこちらを見てきたような……きっと気のせいだ。
会場は入学式が行われた場所とは別のホールでこれまた異常に大きかった。
パーティはすでに始まっているようで、外からでもガヤガヤと喧騒が聞こえてくる。
(スタートダッシュには乗り遅れてしまったけど……)
今から参加しても遅くないと、ホールに入場しようとして……。
「……ちょっとだけ様子見を」
日和ったユフィはこっしょりと会場を覗き込み──ぱりーん!
面白メガネのレンズが音を立てて砕け散った!
「うぬおおおおお目がっ……目があああああぁぁぁぁっ……」
両眼を抑えてゴロゴロとその場をのたうち回るユフィ。
王国の中でもトップカーストに所属する者たちが織りなす陽の光はユフィに甚大なダメージを与えた。
「こひゅー……こひゅー……」
穴が空いたような肺を宥めてから再びホールを覗き込む。
目が眩むほどの華やかなステージ、星空のように輝くシャンデリアのクリスタル。
庶民が一生をかけても手に入れられないであろう豪華な飾りつけのテーブルには、味が全く想像できないご馳走がずらりと並んでいる。
参加している同級生たちの格好もホールの装飾に負けず劣らず皆素晴らしい。
男子はピシッとしたタキシードや紳士服、女子は色とりどりの宝石が散りばめられたドレス。
全身をパーティグッズでデコった生徒など一人もいなかった。
そこでようやく、ユフィは自分の格好が『浮いている』ことに気づいた。
もうグループが出来上がっているらしく、溢れている者は一人も見当たらない。
だとすると、どれかの輪に自分から入っていくしかないのだが……。
(無理無理無理無理! 絶対に無理!!)
一人に話しかけるのでさえ、王国一番の高さを誇るエーセスト山(標高12800m)に登頂するほど労力が必要なのだ。こんな大人数に一人で特攻するなんぞ自殺行為も良いところだ。
ふと、会場の中でもひときわ目立つグループ──ライルやエドワード、エリーナが目に入った。
皆、他の多くの生徒に囲まれて、笑顔を向けられて楽しそうにしている。
エリーナには、昔村に来た聖女様と同じオーラを纏っていて、生徒たちからの深い信頼と人望を一身に受けている言うまでもなかった。
(いいなあ……)
羨望の眼差しを向けながら、ユフィは思う。
そして同時に、思い知った。
(ここに私の居場所は、無い……)
ポッキリと、ユフィの心が折れた。
ひとりはしゃいで全身を着飾ったのが馬鹿みたいだ。
「私も、ちゃんと回復魔法が使えたらなあ……」
寂しそうに呟き、ユフィは面白メガネを外す。
コミュ力がなくても、圧倒的な実力さえあれば、向こうから勝手に来てくれる。
でも今のユフィには、回復魔法の力も、コミュ力もない。
なにも、ない。
キラキラと輝くパーティ会場と、ダサい格好でひとりの自分を比較して、今すぐこの世界から消えたくなった。
ユフィはくるりと踵を返し、とぼとぼと寮へと帰るのであった。
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