第15話 お前達はなんのためにこの学園に来た!?
「これより、魔法の訓練を始める!」
ゴリゴリに実技でした。
雲ひとつない青空の下、学園の裏手にある山の開けた場所にて。
ユフィを含めクラスの生徒たちがずらりと並ばされている。
「新学期一発目の授業だからと言って甘くはないからな! 心して授業に臨め!」
何人もの教師の前で声を放つのはシャロンという女性で、記念すべき一発目の授業の担当教師のようだ。
業火を思わせる赤く長い髪が特徴的だった。
髪色が性格を体現しているかの如く、物言いや全身から溢れ出るオーラは熱血系のそれである。
生徒たちの間には、ピンと糸を張ったような緊張感が漂っていた。
(こ、怖い……)
ユフィは分かりやすくガクブルしている。
仮病で休めばよかったと後悔するも後の祭り。
春の日差しはさほど暑くないはずなのに、肌を焦がさんばかりにジリジリ痛いのは気のせいではないだろう。
「お前達はなんのためにこの学園に来た!? 答えろ、貴様!」
シャロン先生がズビシイッと、ライルに杖を向ける。
ライルは一切の動揺を滲ませず、静かに答えた。
「最強の攻撃魔法師となり、この国と杖となるためです」
おお……と生徒たちの間で感嘆の声が漂う。
ついつい拍手してしまいそうになるのを、ユフィはすんでのところで止めた。
「ふんっ、殊勝な心掛けだ。では、お前はどうだ! なんのために学園にきた!」
ズビシイッ!!
次に杖を向けられたのはエリーナ。
エリーナも、落ち着いた様子で言葉を紡いだ。
「最高の回復魔法師になって、ゆくゆくは聖女となり、この国をあらゆる災厄から救うためです」
おおお……と、再び生徒たちから感嘆の息が漏れ──ぱちぱちぱちっ。
ぎゅいんっと、生徒たちの視線が自分の方に向き、ユフィは「はっ……」と息を呑む。
今度は止められず炸裂してしまった手拍子が思った以上に響いてしまったらしい。
そーっと、ユフィは膝を曲げて身長を縮め、自分の存在感を消しにかかる。
そして、祈った。
(どうか当てられませんように当てられませんように当てられませんように……)
ズビシイッ!!!!!!!!!!!!
(神様ああああぁぁぁぁぁっ!!)
「そこの貴様はどうだ! なぜ学園に来た!?」
ユフィは何食わぬ顔できょろきょろ辺りを見回す。
「さっき手を叩いていたお前だ、お前! なに『私は当てられてません』みたいな顔をしてるんだ!」
「ひいっ……ごめんなさいっ……」
背中に定規をぶっ刺されたみたいに背筋がピンと伸びる。
(あああうううああぅぅぅ……なんて答えたら……はっ……)
逆に考えると、これはチャンスなのかもしれないとユフィは思った。
クラスメイト皆がいる前で、自分の意思を表明する機会を与えられた。
ここでライルやエリーナのような気の利いた素晴らしい答えを口にすれば、皆からは感心され、シャロン先生にも一目を置かれ、クラスでの居心地も良くなり、回復魔法もしっかりと使いこなせるようになり、友達も100人出来て、この学園を優秀な成績で卒業し聖女となり数々の活躍をした後に歴史に名を残す大聖女として崇め奉られ王城の真前にある大きな広場に純金の銅像が建てられ今後1万年にわたって参拝客が途切れる人気スポットに「貴様、何を黙っている。早く言え!」
「はっ、はいぃ!」
覚悟を決め、両目に力を灯してユフィは叫んだ!
(最高の聖女様になって、たくさんの人々の役に立つためです!!!!!!!!!!!)
「友達……出来たらなあって……」
心の声と実際の声が逆転してしまった。
しん……と水を打ったような静寂が舞い降りる。
(おわっ……た……)
サーーーーッと、ユフィの顔からみるみるうちに血の気が引いていく。
そんなユフィを、くすくすと嘲笑する声がどこからか聞こえた。
「貴様……」
こめかみに青筋を浮かべたシャロン先生が、ツカツカツカとユフィの目の前までやってきた。
それからユフィの胸ぐらを乱暴に掴み、目と鼻の先に引き寄せる。
「あうっ……」
ブラックウォルフをも射殺すような視線。
ドスの効いた声でシャロン先生は言う。
「ふざけているのか?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
ユフィが涙目で謝り倒すと、シャロン先生は追求するのも馬鹿らしいとばかりにフンッと鼻を鳴らしユフィを解放する。
踵を返し皆の前に戻ってから、見せしめるかのように言った。
「他の奴らは、このような腑抜けた考えを持たぬように! ここは魔法を追求し、身体の芯まで魔法を刻み込むための学園だ!」
生徒たちをぐるりと見回し、シャロン先生は言い放つ。
「男子は攻撃魔法を、女子は回復魔法を極める事にだけ集中しろ! 安っぽい友情なんぞ、クソ溜めにでも捨て置いておけ!」
「「「はいっ!!」」」
生徒たちが一斉に肯定する。
一方でシャロン先生の威圧感に魂を抜かれたユフィは、昨日に続いてまたやらかしてしまったと頭を抱える気分であった。
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