第14話 授業初日
ちゅんちゅん。
「……あさ」
寮の自室。
ユフィはむくりと身を起こした。
時計を見ると朝の六時。
村にいた時と変わらない起床時刻。
顔を洗おうとベッドから降りる。
洗面所に行く途中、ゴミ箱から溢れ出したパーティグッズの残骸が目に入った。
「ひいっ!?」
ユフィは悲鳴を上げ、ガンッ、ガンッと壁に頭を打ち付ける!
「ぐうううおおおおぉぉぉぉぉっ、黒歴史!! 黒歴史!!」
忌々しき昨日の記憶が脳裏を駆け巡る。
新入生の交流を目的とした親睦パーティに参加すべく、一人勝手に盛り上がって全身をクリスマスツリーみたいにしたはいいものの(よくない)、パーティ会場を覗き見て両目をやられ、自分の場違い感に耐えきれなくなって部屋に逃げ帰った。
皆がパーティで楽しくやっている間、ユフィは購買で購入した塩パンを齧りながらひとり、壁のシミの数を数えていた。
こうして昨日の出来事はめでたく、ユフィの黒歴史ファイルNo.8975に記録されたのであった。
『ちょっと! うるさいですわよ! 何時だと思っていますの!?』
打ち付けていた壁の向こうから鋭い女性の声が飛んでくる。
「ひい! ごめんなさい!」
壁から飛び退いて、ユフィはペコペコペコーッと土下座をした。
朝っぱらから突然壁がドンドン音を鳴らされたらそりゃキレる。
実家では時たま起こるユフィの発作として両親は「また始まったわねえー」くらいにスルーしてくれていたが、ここは自分以外の生徒たちも暮らす学生寮。
人に迷惑をかけてはいけない。
(後で、お詫びの印としてゴボウを渡しにいこう……)
それから、次から頭を打ち付ける時は床にしよう。
そう思うユフィであった。
『ユフィ? 大丈夫?』
いつの間にかそばにやってきたシンユーが心配そうに見上げてくる。
「大丈夫だよ、シンユー」
小さな頭を撫でてやると、シンユーはゴロゴロと喉を鳴らし始めた。
可愛い。
「今日から授業か……」
ふと思い出してユフィは息をつく。
入学式も親睦パーティ(参加してないけど)も終われば、いよいよ授業の始まりである。
今日の授業が座学なのか実技なのかもわからないが。
「実技だけは……勘弁……」
実技……それは、実際に魔法を使って学ぶ授業。
つまり、皆の前で自分の回復魔法を披露しなければならない。
ただでさえ初日で浮いてしまったのに、切り傷の治療に1時間かかる無能なのが皆の前で露呈したら……。
「ゔっ……なんだか熱っぽくなった気がする……お腹も痛い気がするし、頭も痛い気も……休んだ方がいい? 休んだ方が良いよね、一日目から頑張り過ぎたら後に使えちゃうし……」
『ダメだよユフィ、一日目から仮病なんて』
メッと、ユフィを叱るようにシンユーが言う。
「回復魔法をマスターして、聖女様になるんでしょ? そのために来たんでしょ?」
「うっ……まさしくおっしゃる通りでございます……」
甘えまみれの自分に反して厳しいシンユーに返す言葉もないユフィ。
まあイマジナリーフレンドだからどっちも自分なんだけど。
『心配しないで、ユフィ』
シンユーが身体をすりすりしながら言う。
『きっと大丈夫。学園の優しい先生たちに教わったら、すぐに上達して見劣りしない回復魔法を使えるようになるよ』
「……うん……そうだよね、そうだよね」
シンユーの言葉で、後ろ向きだった思考が前に向き始める。
自分の実力不足から逃げちゃいけない。
今はしょぼしょぼな回復魔法しか使えないけど、ここで頑張ればきっと強力な回復魔法を使えるようになる。
そのためには、授業に出ないといけない。
すくりと立ち上がって、胸の前でぎゅっと拳を握る。
「やるぞ! 私!」
『うん、その意気だよ!』
「ありがとう、シンユー。危うく、不登校になるところだったわ」
『どういたしまして』
最後にシンユーをひと撫でして、ユフィは自分を安心させるための言葉を口にした。
「とはいえ初めは普通、座学だよね、うん!」
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