第17話 空気になったユフィちゃん

「うぅう……ここどこぉ……?」


 授業が開始して一時間。

 泣き言どころか泣きそうになりながら、ユフィは一人でとぼとぼ森の中を歩いていた。


 こうなった経緯を回想する。


『ぐあっ……』

『ジルくん!』


1匹目のアルミラージとの戦闘でメンバーの一人、ジルが軽傷を負った。


『あのあのっ……私に回復魔法をかけさせてください!』


 ユフィはすかさず(出番だ!)と申し出て、ジルに回復魔法をかける。

 しかし一向に傷が良くなる気配はない。


『あの……これ、完治するまでどれくらいかかる?』

『……えーーーーーっと、1時間くらいですか?』

『い、いちじっ……!?』


 ジルがギョッとし、リーファが『本気で言ってるの?』みたいな目をしたタイミングで、新たなアルミラージが出現。


『くそっ、こんな時に! 俺が戦う! リーファ、ジルに回復魔法を!』

『わかったわ!』


 リーファはユフィを押しのけるように、負傷したジルに向けて手を翳す。


『命の泉よ、傷ついた者への慈悲を。この傷を癒したまえ……』


 詠唱と共にリーファの手がぼうっと光って、ジルの怪我をみるみるうちに治していった。


 自分の回復魔法との差に、ユフィは愕然とする。

 リーファの回復魔法の腕前は相当のようだ。


『アルト、加勢するよ!』


 リーファの回復魔法で完治したジルが戦闘に戻る。


『おお、助かる!』


 こうして2匹のアルミラージはアルトとジルによって討伐された。


『これで3つ目ゲット!』

『やったな!』

『後は2本ね!』


 アルミラージのツノを3本掲げたアルトに、リーファとジルは喜びの声をあげる。


『ジル、サポートありがとな!』

『どういたしまして! リーファもありがとう、おかげで助かったよ』

『これくらい、どうってことないわ。ジルもアルトも、お疲れ様!』


 チームの絆によって課題をクリアした達成感に満ち満ちしている3人の一方、ユフィは空気と化していた。

 3人の喜びを邪魔してはいけないと気配を消すのに必死であった。


『えっと、ユフィちゃんも……ありがとう。気持ちだけでも嬉しいよ』

『アッ……いえ……すみません、お役に立てなくて……』


 気を遣った笑いを浮かべて言うジルにユフィは消え入るように返す。

 会話はそれだけであった。


 リーファとアルトは腫れ物を触るような視線をユフィに寄越すだけ。

 ユフィは役に立たないと、煙たがれていることは明白であった。


 その後も、戦闘はアルトとジルが、怪我をしたらリーファが回復魔法をかけるようにった。

 ユフィの出る幕はなかった。もはやユフィはいない者として扱われていた。


(私、何も役に立ってない……!!)


 焦ったユフィはせめてアルミラージを探そうと、キョロキョロしているうちに……。


「あれ……皆さんどこに……!?」


 見事にはぐれてしまったのだ。

 回想終わり。


「こんなことで助けを呼ぶのは、シャロン先生のお手を煩わせるし、いくらなんでも格好悪すぎる……」


 シャロン先生から渡された救済の笛を見下ろしながら呟く。

 ユフィはため息をついて、再び歩き出す。


 もうしばらく森を彷徨うことにした。

 流石に、制限時間までに誰かと遭遇するだろう。


 森の中は薄暗く不気味な空気を醸し出していたが、ユフィは全く動じていない様子。

 子供の頃から山に篭って暗くなるまで攻撃魔法の練習をしていた経験が活きているのだが、今のユフィにとってそんな事実はなんの慰めにもならない。


「一回目の授業でこれじゃ、この先どうなるんだろう……」


 考えたくもなかった。

 おそらくこの授業は、成績が良い者と悪い者がバランス良く揃うように組み分けられている。


 攻撃魔法に関しても、ジルよりもアルトの方が明らかに威力が高かった。

 実践の中で、成績が悪い者が良い者の魔法を見て学んだり、逆に良い者が悪い者に魔法を教えたり……といったことで双方が高め合っていく、といった趣旨があるのだろう。


 現にジルは、アルトから攻撃魔法のコツ的なことを教わっていた。

 アルトが怪我をした際、リーファも「えっと、ユフィちゃん。回復魔法、少し教えようか?」と声をかけてきてくれたが「アッいえ大丈夫ですそれより早くアルト君を治してあげてください」と早口で返してしまった。


(なんで拒否ってしまったの私!?)と後悔しても後の祭り。


「そ、そっか、じゃあ……」


 引き攣った笑みを浮かべて、リーファはアルトの元へ行ってしまった。

 ユフィに最低限のコミュ力があれば、リーファから回復魔法を教わることが出来ただろうに。


「消えて無くなりたい……」


 回復魔法も使えない、人とまともに喋ることもできない。

 改めて、自分の無能っぷりにしょんぼりしていた、その時だった。


 ──ぴいいいいいいっ。


 遠くから人工的な音。

 直感的にユフィは、それが救済の笛であることを察した。


「もしかして、私と同じ迷子……!?」

 ぱああっと、ユフィの表情が明るくなった。


 仲間がいた! 安心感が湧き出すも束の間、ドオオンッと轟音が聞こえてきた。


「なんだろう……?」


 不思議に思ったユフィは、音のした方へ足を向けた。

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