第31話 VSジャック①
「では、始め!」
ライルの号令で、戦いの火蓋が切って落とされる。
「俺の強さを思い知らせてやる! ブレイズ・ストーム(烈火嵐)!」
さっさとケリをつけるべく、ジャックは声高らかに魔法名を叫んだ。
突き出した両手から赤く燃え上がる炎が吹き出し、次々と火球へと変わる。
一瞬の間に生成されたのは5つの火球。
一年生の平均としては一度に生成できる火球は1つか2つ。
これだけで、ジャックが優秀な火魔法の使い手であることを証明していた。
「火球を5つも同時に、見事だ」
「さすが、学年次席ね」
観客席のエドワードとエリーナも、感心するように頷いている。
「せいぜい食らわないように祈るんだな!」
そう言ってジャックは両手を天井に向け、一気に振り下ろした。
五つの火球は空気を裂くように強烈な熱を放ち、そのまま一目散にユフィへと殺到する。
「ユフィちゃん! 避けて!」
エリーナが叫ぶ。
この世界における女子は攻撃魔法を使えない。
故に、攻撃魔法に対する対処法は逃亡のみであった。
──そう、普通の女子であれば。
「ウォーターボール(水球)」
淡々とした表情で手を前に伸ばし、短く告げられた魔法名。
ユフィが伸ばした指先から瞬時に五つの水球が形成される。
それぞれ一抱えほどある水球は透明で青みがかり、まるで宝石のような美しさを放っていた。
「なっ……!?」
ジャックの驚声を上げると同時に、ユフィが手を振るう。
──瞬間、弾けるような炸裂音。
ユフィの水球は火球が放つ熱を吸収し、その力を内包したまま爆発。
一瞬で空間を埋め尽くした蒸気は、直後に冷えて視界を覆った。
生温く湿った感触が両者の頬を撫でる。
じきに視界が開けると、ユフィは無傷で服に焦げ跡ひとつ付いていない。
ただ地面には、溶けた火球の痕跡が五つ残っているだけだった。
それは、ジャックの放った火球を全てユフィが迎撃したことを意味していた。
静寂──。
自分の持ちうる攻撃手段の中では上位に位置する攻撃を最も簡単に防がれたこと。
そもそも、女であるはずのユフィが攻撃魔法の一属性である、『水魔法』を使用したことに、この場にいた全員が驚愕していた。
「う、そ……」
エリーナとが、目を限界まで見開き言葉を溢す。
「馬鹿な……だが確かにあれは、れっきとした水魔法……」
顎に手を添え、エドワードが考え込む。
「それも、一度に五つの水球を発現させた出力、そしてそれぞれ火球を寸分の狂いなく撃墜したコントロール能力……素人の芸当ではない……」
動揺を孕んだ声で呟くエドワードに。
「ね、本当だったでしょ?」
ライルは悪戯が成功した子供のように笑った。
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