第46話 不穏な気配
学園からそう遠くない森の中。
静まり返った木々を、月明かりが不気味に照らしている。
森の底では幾千もの落ち葉が濡れた地面にへばりつき、深みを増した銅色の絨毯のようだ。
そんな絨毯を取り払って、地面に描かれた魔法陣がひとつ。
陣の周りには熊や鹿などの動物の死骸が囲むように配置されている。
「深淵より召還せん、暗闇の底から破滅をもたらす者よ……」
魔法陣の外側に立ち、男──ゴルドーが手を翳して言葉を並べる。
「我が声に応えて発現せよ! キング・サイクロプス!」
空気を震わせる声と共に、魔法陣が強烈な光を放った。
ほどなくして地が鳴り、巨大な影が姿を現す。
「やった……」
魔力の大量消費で息を切らしながらも、召喚が成功したことにゴルドーの口角が持ち上がる。
眼前に広がる世界を遥かに見下ろす巨体──危険度Aの魔物、キング・サイクロプス。
その体躯は山のように大きく、鍛え上げられた肉体は岩壁を思わせる。
肩から腕にかけては厚い筋肉が盛り上がり、その力強さは見る者を圧倒していた。
岩石のように強靭な四本の手には禍々しい金棒が握られており、赤く輝く双眸からは怨念の篭った凄まじい殺意を周囲に放っていた。
『グオオオオオオオオオッ!!』
キング・サイクロプスの咆哮が森に響き渡る。
木々が怯えるように揺れ、森の動物たちが一斉に目を覚ました。
捻り潰さんとこちらを睨んでくるキング・サイクロプスだったが、ゴルドーの顔に焦りはない。
「森の支配者よ……」
キング・サイクロプスに掌を向け、力強く言葉を放つ。
「我に敬意を示し、我が命令に従え!」
その途端、ゴルドーの指が眩く光る。
反して、キング・サイクロプスの目の輝きが徐々に落ちていった。
今にも暴れんと殺意を撒き散らしていたキング・サイクロプスは、飼い主を前にした犬のように大人しくなる。じきにあたりは静寂に包まれ、ゴルドーは満足げに微笑んだ。
「『従属の指輪』か……このクラスの魔物にも有効とは、なかなかの上物を用意してくれたものだ」
中指に嵌めた魔道具──魔物を従わせる効果のある『従属の指輪』を見てゴルドーは言う。
改めてキング・サイクロプスを見上げて、ゴルドーは口元に歪んだ笑みを浮かべ言った。
「フレイム・ケルベロスを一撃で屠ったとはいえ、これには敵わないだろう……」
ざわざわと、再び森が不気味に揺れ始める──。
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