第6話 初日からやらかし(白目)
「貴様! 魔法学園を舐めているのか!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
魔法学園の一年生の教室にて、ユフィは一人の男子生徒にバチクソ怒られていた。
「入学式の日に早々と遅刻とは! 映えある魔法学園生としての自覚も矜持も無いのか!」
「ううぅうぅ……返す言葉もございません……」
ユフィを叱るのは、黒髪に眼鏡をかけたいかにも真面目そうな男子生徒。
もう見た目から正義感が強くて秩序を遵守する委員長タイプなのがビンビンに伝わってくる。
授業中に居眠りしたのが見つかっただけで叱責を飛ばしてきそうだ。
皆の前でこっぴどく叱られ、ユフィは小さくなって謝罪の言葉を口にする他なかった。
昨晩、早い時間にベッドに潜り込んだのは良かったが、妄想が捗りすぎてしまったのがまずかった。
興奮して朝まで寝られず、やっと寝付いたと思って次に目を覚ました時には手遅れだった。
ユフィの人生史上最大速度で朝の身支度をするもむなしく、入学式前に教室で行われるオリエンテーションに見事に遅刻をしでかしたのであった。
読書?
お散歩?
知らない子ですね(白目)
「あの子、ヤバくない……?」
「流石は『紋無し』。平民の子は秩序も守れないのね……」
(ああ……クラスメイトからの視線が痛い……)
ヒソヒソと影口、クスクスと嘲笑。
この空気感になった時はもうアカンということを、ユフィはこれまでの経験則から学んでいる。
見たところ、クラスメイト達は貴族学校出身者が多く、もうある程度グループが出来上がっていた。
平民出身の上、初日から悪目立ちしたユフィと仲良くしようと思う生徒はいないだろう……と思ったが、救いの女神と目が合った。
昨日、寮までの道のりを教えてくれた女性が、ユフィに笑顔で手を振ってくれていた。
(同じクラスだったんだ……)
優しい人が一緒のクラスというだけで、随分と心が軽くなる。
(後で名前聞かなきゃ……)
「聞いているのか、貴様!」
「ひゃ、ひゃい!」
ピンッと背筋が伸びたその時、「まあまあエドワードくん、その辺で……」と、男子生徒とは違って温厚そうな初老の教師が助け舟を出してくれた。
「……先生がそう仰るのなら、もう良いでしょう」
上下関係には従順なのか、男子生徒があっさり引いて説教が終わり、ユフィは席に着くことを許された。
ただっ広い教室の、中段から少し上くらいの席についてホッと一安心していると。
「初日から大変だったね」
隣席に座っていた男子生徒に声をかけられてギョッとする。
「ライルさん……!?」
「やあ、ユフィ。昨日ぶり」
海を思わせるブルーの双眸、スッと通った鼻立ち、触ると柔らかそうな金髪。
相変わらず、ライルは完璧なくらい光のオーラを放っていた。
「昨日はゴボウ、ありがとう。とても美味しく頂いたよ……って、どうしたの、唐突に両目を押さえて」
「気にしないでください、私の光耐性が無いだけなので」
少なくとも、授業中に居眠りする心配は無いだろう。
「ふうん……? それはそうと、エドワードがごめんね。あいつ、規律に対して融通が効かないところがあってさ」
「い、いえ、とんでもないです。遅刻した私が悪いので……お友達、ですか?」
「うん、エドワードとは幼馴染なんだ。もう十年以上の付き合いになる」
「幼馴染っ……」
ユフィの目がカッと見開く。
幼馴染……それは、神に見初められた者にのみ与えられる親愛の女神。
これまで友達が一人も作れなかったユフィにとっては、天上人に等しい存在であった。
「ユフィ、大丈夫? なんか昇天しそうになってるけど」
「はっ、ごめんなさい、尊さに卒倒しそうになってました」
「なにそれ」
ライルが口に手を当てクスクスと笑う。
「やっぱり面白いね、ユフィって」
面白いことを言った自覚はないが、悪い感情を抱かれている訳ではなさそうだ。
そのことにユフィが胸を撫で下ろしていると。
「見て見てライル様よっ」
「ああ……もう、本当に見目麗しいわ……目が溶けてしまいそう……」
「あの容貌で入試試験は満点で合格……もう、完璧ね」
女子達のヒソヒソ話を耳にして、ユフィはふとライルに尋ねる。
「あの……ライルさんって、もしかして有名人だったりしますか?」
「んー、どうだろ。一応、この国の第三王子だから、そこそこ名は知られているかもね」
「だ、第三王子っ……!?」
(そこそこどころの話じゃない!)
「どうしたの? 突然土下座なんかして」
「私みたいなミジンコゴミムシが気軽に話してしまってごめんなさいライル様……」
「そんなに自分を卑下しなくても」
苦笑を浮かべるライル。
ユフィが顔を上げると、泣いている子供を安心させるような笑顔でライルは言った。
「畏まられるのは好きじゃないからさ、ラフに接してよ」
(ライルさん、良い人……)
「わ、わかった。ありがとう、ライルさ……」
「おい貴様」
びくうっ!!
後ろからドスの効いた声がして心臓が肋骨を突き破りそうになる。
振り向くと、先ほどユフィを叱責した生徒……エドワードが、鬼の形相で腕を組んでいた。
「もしやとは思うが……第三王子たるライル様を、一介の平民でしかない貴様が『さん』付けで呼ぼうとした、などと言うまいな?」
「メ、メッソウモゴザイマセン……」
引き攣った笑顔に汗をだばーっと流すユフィは、再びライルに頭を下げた。
「改めて、このミジンコゴミムシを何卒よろしくお願い申し上げます、ライル様」
「う、うん、よろしく。なんか、ごめんね?」
相変わらず柔らかな笑顔を浮かべてライルは言う。
しかしその表情は、ちょっぴり寂しそうだった。
──この時、周りの空気を読む能力に欠如しているユフィは、気づいていなかった。
「何よあいつ……」
「なによ、『紋無し』のくせに、ライル様とあんな親しく……」
ユフィがライルと話している様子を、妬ましげに睨みつける女子生徒がいることに。
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