第25話 ライルの提案
きい、と重たいドアを押し開けると、神聖な空間がぼうっと姿を現す。
凝った彫刻が施された高い天井、石壁に掛かる大きなステンドグラスが透明な光の帳を描く。
静謐な闇が建物の内部を包み込んでいたが、その深淵を抉るように窓枠から差し込む月光が神秘的な雰囲気を醸し出していた。
「ここなら誰も来ないからね」
ライルに連れてこられたのは、教会だった。
(す、すごい……)
自分が学校として通っていたミリル村の教会など子供の玩具に見えてくる壮大さに、ユフィは思わず足を止めてきょろきょろと辺りを見回した。
「ユフィ」
「は、はいっ」
名前を呼ばれユフィはビクッとするも、ライルが深々と頭を下げる姿を認めてギョッとした。
「まずは、お礼をさせてほしい」
バレンシア教の神姿が刻まれた金色に輝く祭壇の前で、ライルは言葉を紡ぐ。
「助けてくれてありがとう。おかげで、命拾いしたよ」
「い、いえ、どういたしまし、て……?」
戸惑いと共に、胸に温かいものがじんわりと広がる。
人からお礼を言われるなんて初めてに近い経験で、嬉しいのやら、擽ったいのやら、不思議な気持ちだった。
ただ意識してもひとりでに口元がニヤけてしまいそうになるあたり、やっぱり嬉しいのだろう。
しかし一方で、自分が頭を下げさせている人物がこの国の第三王子という事実に、恐怖にも近い感覚を覚えた。
「そ、それで、結局あれからどうなったのですか?」
話を逸らすべくユフィが尋ねる。
「そうだね、それも話さないといけないね」
フレイム・ケルベロスの事の結末に関して、ライルが説明を始めた。
「先生たちには、フレイム・ケルベロスから命からがら逃げたと言っておいた。嘘はついてないよね。実際に死ぬかと思ったし」
「ということは……」
「ユフィがフレイム・ケルベロスを倒したことは話してないよ。そもそも、ユフィのユの字も話題に出さなかった」
ユフィの身体から力が抜けていく。
攻撃魔法を使える事実が露呈しなかった安心感。
そして約束通り、ライルが内緒にしてくれたことに対する感謝の念が抱く。
(うう……悪魔とか思ってごめんなさい……)
羞恥も湧き上がって顔を覆うユフィであった。
「学園の上層部はフレイム・ケルベロスの行方と、そもそも出現した理由を調査中だ。あの森で危険ランクBの魔物が出るなんて本来あり得ないことだからね。何か自然災害的な理由で出現したのか、あるいは……いや、この話はいいか」
ライルはそこで言葉を切って、険しげに目を細めた。
その瞳に浮かぶ感情の意味を推し量る前に、ライルが表情を元に戻す。
「それで、ここからが本題というか、ユフィにお願いがあるんだけど」
「お願い、ですか?」
なんだろう、と思う間もなくライルはにこやかな笑顔で言った。
「生徒会に入る気はないかい?」
ユフィは頭上に疑問符を浮かべた。
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