第41話 グサグサグサッ!!
「やっぱりなんとかならないかも……」
翌朝、ユフィは教室で胃を爆発させそうになっていた。
気を抜いたら朝ご飯のゴボウサラダが逆流してしまいそうな勢いである。
「なんであんな子が生徒会に……?」
「紋無しのくせに……どんなコネを使いやがったんだ?」
教室の至る所で、ユフィにあえて聞こえるように展開されるひそひそ話。
ユフィが生徒会に入ったという噂は昨日の今日で電光石火の如く駆け巡り、全校生徒の驚きや困惑、そして嫉妬を生じさせていた。
「回復魔法もろくに使えない平民が生徒会なんて、場違いにも程があるわ……」
(うう……そんなの私が一番わかってるよう……!!)
耳に入ってくる囁きの一つ一つがユフィの心を千切りにする。
「一体なんの騒ぎだ?」
「エドワード様!」
ちょうど登校してきたエドワードをクラスメイトたちが囲む。
「エドワード様、説明してください!」
「どうして僕たち貴族ではなく、紋無しのアイツが生徒会に入ったんですか!?」
もはや名も口にしたくないと言わんばかりに指を差されて、ユフィは思わず教科書で身を隠す。
エドワードは教室全体と、小動物のように震えるユフィを見回した後。
「なんだ、そんなことか」
眼鏡をきらりんと光らせて、エドワードは顔色ひとつ変えず口を開いた。
「この中で、生徒会の理念を|誦(そらん)じることのできる者はいるか?」
クラスメイトたちはお互いの顔を見やるも、やがて静まり返る。
「やはりな。良い機会だから覚えておくと良い。俺たち生徒会の理念、それは……」
右腕をしゅばっと天井に向けて、エドワードが吠えた。
「全ての生徒の良き隣人であり、理解者であり、手を差し伸べる者であるべし!」
おおっと、群衆からどよめきが起こる。
「……そのためには、俺たちのような地位や能力が高い者だけでなく、対局的な存在の気持ちにも寄り添わなければならない」
眼鏡をくいっと持ち上げて、エドワードは当然と言わんばかりに言葉を並べる。
「そこで、ユフィ・アビシャスを生徒会入りが決定した! 素行も悪く、回復魔法もロクに使えない、模範的名誉劣等生である彼女が生徒会に加わることによって、メンバーの視野は広がり、より多くの生徒に対する理解が深まるという算段である!」
グサグサグサッ!!
ユフィの胸に言葉の槍がブッ刺さる。
(確かにエドワードさんの説明は筋が通ってる……通ってるけど!)
心が洒落にならないくらい痛い。
要するに、位が高くて優秀な者ばかりじゃなく、そうじゃない者(ユフィ)も加入させることによってバランスを取ることが目的とエドワードは言っているのだ。
ユフィの生徒会入りの建前としては、上位貴族であるエドワードが語っているのも相まって充分説得力があった。
「な、なるほど……」
「確かに、筋は通っているな」
ユフィに批判的だった教室内の空気が変わり始める。
出陣前の演説もかくやといったエドワードの振る舞いに、誰かがごくりと喉を鳴らした。
止めとばかりにエドワードは言葉を放つ。
「そして、今回の決定を取り決めたのは……生徒会長のノア様である!」
「「「ノア様が!?」」」
誰もがギョッと目を見開く。
貴族社会は絶対的な上下関係社会。
生徒会長を務めるノアも貴族として相当上位なのか、説得材料としての効果は絶大。
「ノア様が決めたのなら……仕方がないか」
「そうね、ノア様が言うのなら……」
「私たちにとやかく言う権利は無いわ」
もはや教室内において、ユフィに非難の声を上げる者はいなくなっていった。
ユフィの生徒会入りの噂と同じように、この件が他のクラスに広がるのも時間の問題だろう。
一仕事終えたようにエドワードが「ふっ」と鼻を鳴らし、ユフィの席へと向かう。
心が抉られ瀕死状態のユフィに、エドワードは『ちゃんと説明したぞ、感謝するんだな(キリッ)』とでも言いたげな瞳を向け、自分の席についた。
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