第41話 あやめ先輩と決意


 

 

 

 どうしてこんなこと言ってしまったのだろうか?

 

 でも、口にしてしまったからには仕方がない。

 お姉様とみじかが夏祭りに行くことを容認しなければならない……

 いや、そもそもボクが容認するとか、そう言うことを言える立場にない。お姉様がしたいようにするのが一番だ……

 

 だからと言ったって、いやな気分にならないわけはない。

 

 お姉様とみじかが一緒にいると考えただけで寒気がする。

 もちろんみじかやお姉様以外に夕夏先輩やあやめ先輩もいるけど、きっとみじかはお姉様と近い距離でいるのだろう……

 

 どうしてこうなったのだろうか??

 

 何度も思い出すように最初のころを思い出す。

 ボクはお姉様に義妹に指定された時、嫌がっていたはずだ。

 そして、ボクでは相応しくないから、みじかを義妹にするように仕掛けていたはずだ。

 

 それなのに今はお姉様と一緒に居たい。そばに居る人間は……たとえそれがみじかであったとしても、嫌だという確固たる意志がある。

 あの日、お姉様の家に泊まった日からボクはどうやらおかしくなってしまったみたいだ。

 

 お姉様のことを考えると、頭がホワホワして言葉に出来ないほどにいい気分になる。

 まさに気分上々で、心の中では軽くスキップしながら、お姉様の顔を見下す。

 背の小さいお姉様の顔は長い髪に隠れてしまっている。

 そんな顔を隣から視線を斜め下に向けて顔を見る。

 

 お姉様の隣に立ちたい。

 そのためだったら、何でもするつもりだ。

 

 だから、ボクは女の子になりたい。

 

 女の子になってお姉様の隣に立っていたいのだ。

 スカートはもう穿いている、後は髪の毛を女の子みたいに長くして、心も女の子になるんだ!

 

 女の子の定義とは何だろう?

 

 別にそれは性だとか、生殖器の形だとか、凹か凸か。

 そんなことは別に関係ない。

 

 それしきのことで女の子が定義されるわけでは二。

 社会的には女の子だと言われても実際には女の子ではない人間も多い。

 

 まるで男の様にふるまい、男口調で女の子らしい“らしさ”がない人間も多い。

 

 立ち回る時の内股な歩き方、柔らかくて張りのある透き通った肌、遠目から見ても一瞬で女の子と分かる雰囲気。

 そうした一つ一つのピースが女の子を形作るのだ。

 

 だから、ボクは女の子のピースを身に着けて女の子になりたい。

 

 心の感情も、柔らかい肌も、可愛らしくて美しい肉体、そんな女の子になりたい。

 女の子になってお姉様の隣に立ちたい。

 

 だから……

 

 ボクはいつまでもみじかの後ろを歩いていてはダメなのだ。

 お姉様の隣にいれるように不断の努力が必要なのだ。

 もう、ボクはみすみすお姉様のことをみじかに渡したりしない。

 

 お姉様の義妹に相応しいのはボクなのだ。

 

 

 

 決意したのはいいけど、現状は何も変わっていない。 

 ボクは負けたのだ。

 不戦敗だ。

 

 みじかに戦いすらせずに、あっさりお姉様のことを渡してしまった。

 やっぱり、心の中では負けたくないという強い意志と同時に心のどこかにボクはお姉様の義妹に相応しくない、相応しいのはみじかなのだという気持ちがあるのだろう。

 

 だから、あんなことを言ってしまったのだ。

 嗚呼、強い精神が欲しい。

 お姉様のことだけを考えて行動できる人間になりたい。

 

 どうしようか? いや、どうしようもない。

 

 ボクはお姉様と夏祭りには行けないのだ。

 そんなことを考えていたら、あやめ先輩がボクの後ろからわしづかみにされて、話を振られた。

 

 「あ、ねぇなんでリュウ君は来ないの??」

 「というか、そもそもこの日は何するんですか??」

 「露骨に話しずらさないでよ。ってか、みじかから聞いていないの??私たち花火を見に行くのよ。」

 「……花火ですか??」

 「ええ、そうよ。私の家の近くの神社でね。花火大会をやるのよ。だから、夕夏ちゃんや、聖愛ちゃんを誘ってみたの。そしたら、みじかちゃんも来たいって言い出して……それだったら、せっかくだし生徒会のみんなで行こうかって話になったのよ。」

 「……その神社ってなんていう神社ですか??」

 

 嫌な予感がした。

 なぜならば、お姉様と一緒に行こうとした神社は同じ日に夏祭りを兼ねた花火大会が行われるのだ。

 

「森浅間神社よ。」

 「……もしかして、あやめ先輩とボクの家って近いんですかね??」

 「確かリュウ君は京急だっけ……もしかして屛風ヶ浦??」

 「ええ、そうです……あやめ先輩って磯子駅だったり……??」

 「その通りよ!!すごいわね。こんな近いのに今まで気づかなかったなんて!!」

 「まあ、そこそこ距離ありますからね……」

 

 いやな予感が当たってしまった。

 まさか降りる駅が違うだけで、こんなにも近いとは思いはしなかった。

 

 「それで結局、リュウ君は夏祭り行けるの?行けないの?」

 「……そうですね。」

 「何をそんな悩んでいるのよ……あ、まさか私が聖愛たちの着物姿を見るために誘ったことバレてる??」

 「そんなことのために誘ったんですか……」

 「そんなことじゃないわよ!!だって、着物姿の聖愛の首筋よ、首筋!!美しいって物じゃないでしょ!!絶対みたいじゃない!!」

 「お姉様の……首筋……」

 「ね、見たいでしょ!!じゃあ、一緒に行こうか!!」

 

 やっぱりあやめ先輩はあやめ先輩だ。

 お姉様の首筋は実際に見てみたい。ほんのりと汗が出ている輝く首筋。

 浴衣から覗かれた綺麗な首筋は実際に見たい。

 

 でも、それだけではない。

 

 ボクは足掻きたいのだ。

 足掻いて足掻いて、みじかよりもボクの方がお姉様の義妹に相応しいのだと、みんなにも……そしてボクも認めたいのだ。

 

 ボクはゆっくりと空気を一息すってから、短く言った。

 

「……分かりました。」

 

「やった!!」

「折角ですし、お姉様もみじかも行くみたいですからボクも行きます。」

 

 と、その時だった。

 

 「よかったじゃない。私の首筋見れるわね、お二人さん。」

 「お、お姉様!?」

 「聖愛!?ちょ、ちょっと痛いわ!!」 

 

 いつの間にか現れたお姉様がボクとあやめ先輩の腕を取った。

 そしてそのまま強く握ったのだ。

 腕は痛いけど、これで気合が入った。

 

 次の25日、この日こそは生徒会のみんなの中から、お姉様を連れ出して義妹として二人で花火をみるのだ!!

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