第2話 苺ミルクの飴玉
聖メリア女学院は横浜の山手の上にある伝統ある女子校”だった“
スマホでメリアについて調べるとそんなことを書かれていた。
そう、この学校は去年まで女子校だった。
そして、今年からボクが入ったことで男女共学となった(男女比1:581)
男女共学だが、女学院。伝統を守るという名目で面白いことになっていたのだ。
さて、ボクがなぜこの学校に入学したのか?
それはハーレムを築くためでも、女の子をもてあそぶためではない。
むしろ真逆だ。そう、百合の間に挟まろうとする愚かであさましい男を排除するためにこの学校に入って来たのだ。
百合……女の子同士の恋愛が大好きな男子、いわゆる姫男子。
そう、ボクは心の底からの姫男子である。
姫男子であるボクにとって、伝統ある女子校のメリアが共学化してしまうのはとても悲しい。ニュースを見た瞬間は発狂してパソコンの前で泣きながら「嘘だー!!」と叫んでしまったほどに。
だが、悔やんでいても状況変わらない。だが、ふと思った。
「待てよ、ボクが入学すれば3年間はけがらわしい男子から可愛らしいメリア女子を守ることが出来るのでは!?」
そう思ったが吉日、ボクは死ぬ気で勉強を始めた。幸いにして、一般受験で男子生徒は求められておらず、特別入学性としてのみ男子は入学が認められていた。
辛い日もあった。
模試で結果が伸びず、苦しいんだ日もあった。
だが、そんな日は女子校物の百合漫画を目の前にして、入学すればこれを目の前で壁となってみることが出来るんだと思うと勉強に熱が入った。
そして3月。運良く入ることが出来た。そして、話によると男子の入学者は一人だけ、つまりボクだけある。
勝った!勝ったのだ!
ボクはベットの上でジャンプして喜んでいた。ほかに男子がいないということは傷つける存在がいないということだ。
そしてそんな状況の中、一人で女の子同士の百合を……
ぐへへへへへへへ……
そう思うと気持ち悪い声がつい出てしまった。
いけないけない、ポーカーフェイスの練習でもしないとな、と思っていた。
……そして入学らしばらくたった。ポーカーフェイスの練習をしといて本当に良かったと思った。
なぜだと思う?
決まっているじゃないか、供給過多だからだよ!
素晴らしい、ここはまさに天国だ……
ああ神よ、楽園はここにあったのですね。
周りを見渡せば女子!女子!女子!女子!
手をつなぐ程度は普通だし、頭を撫で合ったりハグし合ったり、女子校らしい光景がどこでも繰り広げられていた。
ボクは周りの女の子たちの邪魔をしないように黙って本を読んでるふりをしながら見つめていた……
空気になりきって、壁のように存在してないように見せながら過ごしていると、最初は少し気にしてたクラスメイトたちも一週間もすれば気にもしなくなり、辺り一面で百合の花が咲いていた。
ボクはこの美しき花々を汚さぬように静かに、存在感を消しながら眺めておけばいいのだ。
実際ほとんどの女子と必要最低限の会話しかしない。
最初の3日は唯一の男子といて珍しがられたが、いつも本を読んでてつまらないやつ扱いしてくれた。
だが、もちろん例外はいる…………
「ねえねえ、ドラ君も飴ちゃん食っべる?」
「飴ちゃんって……大阪のおばちゃんですか?ってか、ドラ君ってなんですか?」
「ひっど~!あーしのことシワシワでヒョウ柄の服着たおばあちゃんって言った!ドラ君サイテー!」
「そこまではいってないですよ……」
元気と威勢のいい声でボクに話しかけてくる少女、それが犬塚みじかだ。
黄金色の髪の毛と陽気なふるまいのギャルで、誰にでも優しく接している子だ。
会話は最小限に努めたいが、まったく話さないのも感じが悪いだろう。見極めつつ、接していかなければ……
「そもそもドラ君って何ですか?犬塚さんだけですよ、ボクのことそう言うの……ド〇えもんか何かと勘違いしてるんですか?」
「違うよー。竜太郎だからドラゴンで略してドラ君!」
「それで、どの飴ちゃん食べる?」
「……苺ミルク」
「お!意外と可愛いの食べるんだね。」
そう言うと犬塚さんは袋から飴を取り出してボクの机の上に置いた。
軽く会釈すると犬塚さんはまたどっかに行ってしまった。
その日のお昼休みのことだった。
適当に外をほっつき歩いていると、犬塚さんの姿が見えた。ボクは見られたら面倒だと思い、反対方向に行こうとした……その時だった。
「あなた、タイが曲がってるわよ。」
その言葉を聞いた瞬間、ボクは振り向きながら瞬時に理解した。
この声は赤城会長の声なのだと。
ボクはとっさに隠れた。
何が起こるのか理解するために、そして邪魔をしないように……
「ほら、少し曲がってるわ、メリアの生徒ならちゃんと真っ直ぐ付けなさった方がいいわよ。」
「あ、赤城会長……」
「ちょっと、直してあげるから動かないで。」
犬塚さんが驚いていた。珍しい。犬塚さんなら赤城会長相手でも『かいちょー優しい!』とか言っていろいろふざけるものだと思っていたが、さすがに赤城会長レベルとなるとあのお調子者でも小さな子犬のように静かになっていた。
赤城会長は犬塚さんの胸元のリボンが曲がっていることが気になったらしく、近づいて直してあげている。
犬塚さんは顔を真っ赤にしながら赤城会長を見つめていたが、そんな彼女を無視して赤城会長は首元に手を伸ばして結びなおしていた。
「高校生なんだから、ちゃんと一人で真っ直ぐ結べないと駄目よ」
「は、はい!」
「これでおしまい。さっ、これからはちゃんと綺麗にタイを結びなさいね。」
「はい!赤城会長!」
赤城会長の少し厳しくも聖母的な慈愛に満ちた表情で優しく犬塚さんの顔を見つめていた。最初は犬塚さんも少し緊張していたようだが、いつも通りの彼女に戻っている。
犬塚さんと赤城会長、これは見守るべき存在が出来たかもしれない。
ボクはいい光景を見れた満足感とこれからの2人の関係性を想像して改めてこの学校に入れてよかったと痛感した。
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