距離感バグってる(世界一可愛い)生徒会長は可愛くないボクを《義妹》にしたいらしい

藍空べるつ

1部 会長の義妹

1章 生徒会長はボクを義妹にしたいらしい

第1話 エピローグ

 

 

 

 「お姉様お姉様、お姉様はどうしてこんなにもいつも可愛いのですか?」

 「あら、リュウちゃんもかなり可愛いわよ。」

 「お姉様に比べたら全然可愛くないです……」

 

 するとボクのお姉様、赤城聖愛はボクを抱き着いてきた。

 布がこすれる音と温かさ、そして柔らかい体の触感が制服越しに感じる。

 お姉様はすごい人だ。150㎝と言う小柄の生徒会長。落ち着いたブラウン色の髪の毛と制服の純白のセーラー服を堂々と着飾っている。体からは照った夏ミカンのような、ほんのりと甘い香りが漂っていて、そこにお姉様のやさしさのエキスが加わると女神のような優しい包容力と慈悲の心があった。その美しさ、尊さは言葉には表せないほどの、神々しい輝きを放っているのではないかと感じるほどに美しかった。


 ボクはそんなお姉様の妹をしている。

 お姉様とボクに血のつながりはない。

 かと言って、両親が再婚したとかの関係でもない。

 

 この学園の伝統で、年長者の先輩が1学年下の後輩を妹として慈しみ、義理の姉妹関係を結ぶのだ。Sisterの頭文字から「エス」と呼ばれるこの制度は聖メリア女学院に深く根付いている。大正時代に始まったらしいエスは時代を変えて現代になっても存在している。ボクはお姉様とエスとして姉妹関係を結んだのだ。


 「あら、リュウ君髪伸びたわね。」

 「本当ですか?」

 「ええ、ほら、こことかかなり伸びているわよ」


 耳元が刺激を受け取った。

 お姉様が耳横の後れ髪をつかんで小指に巻き付けて来た。お姉様の腕が目線のそばを通っていて、柔らかそうな肉付きが嫌でも目に入ってくる。お姉様は指に巻き付けると外して頭をナデナデしながら、優しく再び抱き着いた。


 「ちょっと前とはリュウ君すっごく変わったね。」

 「む~お姉様、その話はやめてください。ボクはもうあの頃とは違うんです。」

 「あの頃ってたったの数か月前じゃない。」

 「数か月で大きな変化をしましたから」


 大きな変化、ボクは入学してからお姉様と出会って、かなり大きな変化をした。

 もちろん人間だれしもが高校生と言うこの時期は変化をする時期なのだろう。だが、ボクはかなりの変化をしたのだ。


 「そうね。でも、私は今のリュウ君も男の子の頃のリュウ君も好きよ。」

 「今でも肉体的には男の子ですよ」

 「そう?こんな可愛い男の子がいるわけ無いじゃない。」


 そうボクはスカートを穿いていない。そしてセーラー服を着ていないのだ。



 

 時間は入学式の前に戻る。

 

 

 

 品のある黒色のセーラー服とその胸元に咲く可憐な一本の紅薔薇色ネクタイは、伝統と格式を重んじる私立聖メリア女学院の制穢れを知らぬ清純な女学生の制服である。

 

 浜風吹き付ける山手の丘、平民は強い風で霹靂とするが聖メリア女学院の生徒に掛かれば浜風さえもスカートをたなびかせる化粧品とさえ変えてしまう。

 

 そんな学校に今日、ボクは入学するのだ。

 正直に言えばボクのような一般庶民には縁もゆかりもない場所だと思っていた。

 普通は幼稚園から大学院までそろっているこの学校は、エスカレーター式に上がって行くのが普通で、中高に入学するときにちょっとずつ編入することが出来るだけだった。

だが、今年から変化が起きた。学園に新たな風を吹き込むための成績優秀者を特別入学生徒として学費無料で通える新しいシステムになったのだ。

 そしてボクは死ぬ気で勉強して見事この学校に入学することが出来たのだ。

 

 そうつまり一般庶民から初の生徒がこの聖メリア女学院の門をくぐることになったのだ。


 ここではお金持ちのお嬢様達が集い、優雅で美しい女性になろうと常に務めているのだ。

 

 体育館のステージ前の花壇にはたくさんの薔薇が置かれている。それは少女たちの胸元にある薔薇色のタイのように赤く、乙女の新たな生活の始まりを彩っていた。

 

 ここは特別な空間だ。

 横浜駅周辺のうっそうとした場所とは目と鼻の距離にあるのにこの丘の上では乙女だけの優雅な時間が流れている。奏でられる聖歌と厳粛とした祈りが終われば今日からこの学校の一員だ。

 

 乙女たちはまさにお嬢様だった。

 悲しいかな、それは周りの親と自分の親を比較すれば明らかだった。

 高そうなスーツやドレスを着た父母たちに囲まれながら我が母は数10年前に買ったらしい見劣りしたドレスとも言えない服を着て何とも言えぬ居心地の悪そうな、バツが悪い感じで過ごしていた。

 

 こうやって見てみると周りとの格差と言うものが嫌でも伝わってくる。

 だが、悲しんでいてもしょうがない。そんなことを考えていると入学式はどんどん進んで、次は生徒会長の言葉らしい。正直言えば長ったらしい校長や新入生代表の言葉とかで疲れていた。さっさと終わらないかな~とか考えていると空気が一変した。

 

 生徒会長はなぜか人を引き付ける天性の才能があった。

 かわいらしくも凛々しい。そんな会長の姿に周りの生徒たちもみんなが一様にしてステージの会長の方を見ていた。

 

 「桜が咲き誇り、薔薇の花で包まれたこの日、新入生の皆さんを迎えることが出来てとても嬉しく思います。」

 

 嗚呼ぁ……と、挨拶が始まっただけで感嘆の声が聞こえてくる。

 そこまで凄い会長なのだろうか?ボクは今年入学だから分からないが、生徒会長は中学時代から人気者だったらしい。小さい声で「赤城会長……今日も麗しいわ」と小さい声が聞こえて来た。

 

 「さて、本校は変革の時期を迎え、今年から新たに“男子生徒”が加わりますが……」

 

 会長の話の途中だった。いきなり一斉にボクの方に視線が来た気がする。

 セーラー服だけの世界。

そんな世界に一つの異質物……赤いネクタイと真新しいブレザーを着た一人の人間がいた。それは歴史と伝統あるセーラー服を着ている乙女たちの中で唯一歴史のない服を着ている新しく、でも周りに染められていない人間の姿だった。

 

 そう、ボクこと中村竜太郎はこの学校はじめての男子生徒であった。

 どうやら、ボク以外に男子は入ってこないらしい。なるほど、つまり全校生徒582人の中でボクだけが男子だそうだ。

 ボクはこれから始まる生活にほんの少しのわくわく感に満たされていた。

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