第3話 たちの悪い冗談




 放課後までの時間も周りで乙女たちの空間が広がっていた。犬塚さんは相変わらず元気よく周りと過ごしていて、そのはつらつとした姿は陽気な彼女らしさが全開だった。だが、さっきの光景を同級生に見られていたらしく

 「ねえ、さっき赤城会長にタイ直されていたよね!」

 「うん!優しい人だった。」

 「どうどう?やっぱ赤城会長可愛いよね。私は中等部から入学したら昔から知ってたけど、みじかは初めてでしょ!」

 「そうそう。ほんと可愛いよね。……抱きしめたい」

 「みじか顔真っ赤だよ。へぇ~そうなんだ。」

 

 ボクはうっとりとするようなその光景を眺めつつもさっきの景色が忘れられなかった。それは犬塚さんも同じようで、話題を振られると顔をリンゴのように赤く染めながら答えていた。

 



 「ドラ君は何部に入るか決めた?」

 「いいえ、まだ決めかねていますね。」

 「じゃあさ、一緒に……」

 「行きませんよ、一人で行ってください。」


 放課後、変える準備をしていたら突如犬塚さんに話しかけられた。いつも犬塚さんの気分次第で急に話しかけてくるから少し困る。ボクが断ったら、犬塚さんは両手をグーにして、目の前でブンブン振りながら悲しそうにしている。


 「ひどいよ。私たちこんなにも愛していたというのに……別の女に乗り換えたの?」

 「人聞きが悪い。そもそも出会ってほんの少ししか経っていないじゃないですか。」

 「……じゃあさ、私たち付き合っちゃう?」


 たちの悪い冗談がやって来た。普通の馬鹿な男だったらここで付き合うとか言ってからかわれるだろう。だがボクは違う。心の底から決めている強い意思と百合を愛する気持ちで簡単に断れる。


 「からかわないでくださいよ。ついさっきも別の女の子にそのセリフ言ったでしょ。」

 「ちぇ、せっかく可愛くて優しいあーしが3年間帰宅部になりそうなドラ君のために一緒に仮入部しようって誘ってるのに。」

 「結構です。」

 「高校三年間、部活にも属さず友達もいなくて、帰り道で周りが友達と楽しそうに談笑しているなか、一人さみしくスマホを見ながら『俺全然さみしくねーし、一人で十分だから』とかつぶやきつつも心の中では孤独でつぶれそうになればいいんだ!」


 悪口マシンガンを乱射しつくした犬塚さんはどこかに消えてしまった。まあ、たぶんどこかの部活に仮入部しにいったのだろう。

 

 みんな各々に自習室へ向かったり部室や活動場所へ決めたりしている。犬塚さんに行ったように部活動は特にまだ決めていない。いわゆる帰宅部と言うやつだ。別に部活をやりたくないわけでは無い。むしろ部活に入れば今よりももっと信頼性と近い距離間で過ごす少女を観察できると考えると入らないわけがない。

 だが、どの部活に入るのか決めるのが悩ましい。バレー部だとか、バスケ部のマネージャーとしてはいるのもいいし、文芸部もいい。黒髪清楚メガネの文学少女の部長とか絶対に校内で秘かにモテているはずだ。あとはキリスト教の学校らしく聖歌隊やハンドベル部もある。部活に入って親密になって行くうちにだんだんと女の子同士で好きになっちゃって……心の中に浮かび上がる神に逆らう背徳感。背徳感……嗚呼ァなんと甘美な香りがするのでしょうか?

 他にも新聞部や写真部も気になっている。写真で永久に残しとくべき一瞬がありふれ過ぎている。この学校だけの特別な日常を後世に残したり、学校を歩き回って誰がどんな人と何しているか、どんなことが起きているのかを知るために新聞部に入るのもいい。だが、ボクが文章を書けば確実に発禁処分にされるだろう。確実に。

 

 とまぁ、こんな感じでいろいろと魅力が詰まり過ぎていて、一つに決まりかねている。ただ今の時期はまだ部活を完全に決めている方が少なく、大半の部活は仮入部で新入生を取っ捕まえようと躍起になっている。廊下では特に熱心な吹奏楽部がプラカードを掲げて頑張っている。

 

 ただボクは正直今の時期に入部するのはあまり良くないのじゃないかと思っている。今この時期にボクという異物が混入されてしまうと、もしかしたら女の子同士の親密な空気が出来上がらない可能性がある。それは困る。なので少し遅れた6月くらいに入部するのが良いと思っている。それくらいなら関係性も出来上がっているだろうし、ボクが入部しても壁が出来るはずだ。

 

 そんな感じでどの部活に入部するのか迷っているけど、まあきっといい光景が見れるはずだ。

 そうだ、軽く校内を回ってみよう。放課後の校内には百合の光景がきっとあるに違いない。

 

 ボクは軽快な足でスキップしながら百合探しの旅に出ることに決めた。

 

 学校自体はオープンスクールだとかの時に入ったことはあるけど、実際に生徒が過ごしている姿を見るのは初めてだ。こうしてみると本当にここはドラマのセットじゃなくて学校なんだなと思わず外部の人間みたいなことを思ってしまう。

 授業中の張りつめた空気間とは違って、打ち解けた、和気あいあいとした部活中の光景が広がっている。ギターを持った軽音楽部の先輩たちが机に座って楽しそうに談笑している。窓の外からはテニス部の少し高い「がんばろー」の声が聞こえてくる。

 

 そうして歩いていると、ピアノの音色が聞こえてきた。

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る