第45話 世界で一番美しいお姉様

 

 

 

 

 お姉様がようやくやって来た。

 その事実にボクは安堵する。

 

 もう二度とお姉様に会えないかと思うと悲しくて苦しかった。

 そんな苦しみがようやく解放されたのだ。

 

 「お姉様……ボクは……」

 「言わなくてもいいわよ。分かるわ」

 

 ボクの手を握ったお姉様はそのまま走り出した。

 無数の人間の間を駆け抜けると最初に約束した場所。階段先の場所へとやって来た。

 

 階段先のその場所は手すりが伸びきった終着点で、腰くらいの高さまでのフェンスが伸びている。

そして、そこそこの広さがあって花火を見るのにはちょうどいい。

 だから、その場所にしたのだ。

 

 お姉様と一緒に花火を見る。その野望をボクは今こそ果たせるのだ。

 

 「上を見てください。たくさんの花火です。この花火の一つ一つを見ると、まるでお姉様との思い出が思い出されます」

 「リュウ君は花火を見ると、私との思い出を思い返すの……?よく分からないけど、良いわね。」

 「お姉様は何で、ボクと一緒に花火を見ると決めたんですか??」

 「……そうね~なんでなんだろうね~??私にも分からないわ」

 

 お姉様も疑問にしながらボクの方を見てきた。

 花火を見上げるお姉様の顔は信じられないくらい美しかった。

 

 撃ちあがる花火を見つめながら、ボクの手をしっかりと握って空を見ているお姉様。真っ黒の浴衣と綺麗な一本のかんざしを身にまとった天使はボクの目の前に確かに存在していた。

 

 目を擦っても、頭を軽く叩いてもはっきりと天使の姿をボクは目にしていた。

 そして、その天使にボクは触れているのだ。

 柔らかな手を握られて、有頂天になりそうな心を無理やり押さえつけながらボクは見つめていたのだ。

 

 「リュウ君はどうしたい??」

 「どうしたいとは??」

 「みじかちゃんやあやめちゃんたちと離れたいの??」

 「ボクは……最初から言った通り、お姉様と一緒に居たいだけですよ。ボクとお姉様が一緒になれる。それさえ達成できればあとはどうでも良い事です」

 「どうでも良い事ね……」

 「お姉様は何で、ボクの方に来てくれたんですか??みじかやあやめ先輩たちと一緒に見るという選択肢もあったんじゃないんですか??」


 「お姉ちゃんだもん……と、言えたらカッコいいんだけど、まあそんな都合よくはいかないわよね……当然、向こうに行こうか迷ったし、何だったら今も迷ってはいるわよ。ここにいていいのか?向こうで生徒会のみんなで花火を見た方が良いんじゃないか?悩まないわけなくない??」

 

 「まあ、そりゃそうですよね。ボクもなかなか悩ましくなるようなことをお姉様にといましたよね」

 「まあ強いて言うなら…………リュウ君と一緒に花火を見たかった。これに尽きるかな………」

 「……お姉様」

 

 とても嬉しいことを恥ずかしそうにお姉様は言う。

 やっぱりお姉様はいじらしい。それでいて、愛らしい。

 なんでこんなにもお姉様は可愛らしいのだろうか??

 

 ボクはこんなにも素晴らしい義姉の義妹なのだ。

 その事実が、ボクの心の中から喜びと言うものが燃え上がって来た。

 

 「……生徒会のみんなも驚いていたわよ。私が突然『リュウ君が向こうにいるから、私リュウ君のお姉ちゃんとしてやらなきゃいけないことがあるの』って言って走りだしたんですもの。驚いて当然わよね。」

 「さすがお姉様ですね。ボクのできないことをやってのけます」

 「いや~それほどでも~」

 「ちょっとしか褒めてませんよ……ほんのちょっとだけ……」

「も~リュウ君のツ!ン!デ!レ!」

 

 その時だった。

 

 ドーーーーーーンッッッ!!!!

 

 ひときわ大きな八尺玉が爆発したのだ。

 今この瞬間ボクとお姉様は同じ花火を見ている。

 

 そしてそれはボクらだけじゃない。

 みじかもあやめ先輩や夕夏先輩も顔も知らない恋人たちも……

 この美しい瞬間を共有する人間が少なくても、ここの神社中にたくさんいるのだ。

 

 だけど、ボクとお姉様だけでこの時間を共有するので十分だ。

 

 ボクはお姉様と共にこの花火を見ればそれでいいのだ。

 可愛らしいお姉様のお顔と、柔らかいお姉様の手。それにスレンダーなお姉様の体がラインを描くように美しく、ピッチリと引き締められたお姉様の浴衣姿。


今夜の舞踏会はこれまでに経験のない、比較することすら出来ない美しい物だろう。

 バックミュージックは花火で夜空を彩っている。それでいて、人々の歓声に包まれながらクラシックな音楽に包まれてボクとお姉様はダンスをする。

 その素晴らしいお姉様の舞踊に周囲の人々は驚き、驚愕する。それからさらにボクたちだけの時間は進んで行く。

 

 どれだけ美しいのだろうか??

 

 お姉様と二人っきり。それだけでボクにとっては十分すぎる情報だ。

 でも、それだけでは足りない。お姉様の顔を見ると、まるでお酒で赤くなったみたいに真っ赤になってしまっている。

 

 お姉様お姉様……

 

 世界一美しいボクだけのお姉様。どうしてお姉様はこんなにも美しいのだろうか??

 

 花火を見上げるお姉様の姿。

 りんご飴を頬張るお姉様の姿。

 眠ってしまったお姉様の姿。

 お風呂に入っているお姉様の姿。

 漫画を読むお姉様の姿。

 オムライスを食べているお姉様の姿。

 ラブレターを読み上げるお姉様の姿。

 ボクと一緒に恋人を見つめるお姉様の姿。

 ボクの服を探して満足げに見つめるお姉様の姿。

 大きなパンケーキを食べるお姉様の姿。

 姉妹の儀をしている時のお姉様の姿。

 聖メリア女学院で勉強している時のお姉様の姿。

 生徒会長して周りに向かって凛々しく振舞うお姉様の姿。

 

 そして……ピアノを弾いてボクを待ちわびるお姉様の姿。

 

 どのお姉様の姿も素晴らしかった。

 全部をお姉様の姿をボクは愛してしまっているのだ。

 

 だからこそ、ボクはお姉様のためにしか生きれないのだ。

 お姉様……嗚呼ゝお姉様……どうしてこんなにもあなたのことしか考えられなのかしら??

 

 真っ黒な浴衣のお姉様の姿と、可愛らしいお姉様の浴衣を着こんでいるボク。

 

 こんなにも美しい対比で、お姉様の姿を見つめられているのだ。

 だから、ボクはお姉様に大きな声で伝えないといけないのだ。

 

 「……お姉様」

 「どうしたの??」

 

 一息置いて……ボクは大きな声を出しながらお姉様の耳へと口先を向けた。

 

 「愛しております。世界中の誰よりも!!」

 

 ドドーーーーーンッッッッ!!!!!!

 

 ひときわい大きな花火が撃ちあがった……

 その花火をみんな見つめていたのだった。

 

 いつまでも……そう、いつまでも……

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距離感バグってる(世界一可愛い)生徒会長は可愛くないボクを《義妹》にしたいらしい 藍空べるつ @555hertzp

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