第44話 打ち上げ花火、ここで見るか?あそこで見るか?


 

 

 

 「ここら辺だったら、綺麗に見れるかしら??」

 「あそこら辺から、打ち上げるらしいのでたぶん綺麗に見れると思いますよ。」

 

 ボクとお姉様。それに生徒会のみんなで夏祭りに行っている。

 みんな、浴衣や甚平を着ていて、まさに夏本番と言った形だ。

 これから暗闇夜空を照らす花火大会がある。それまでのそこそこ長い間の時間、ボクは時間をつぶさなければならない。

 

 とはいっても、別に大したことではない。

 お姉様もいるし、みじかやあやめ先輩の他にも夕夏先輩がいるのだ。

 十分すぎるくらい時間をつぶせる余裕がある。

 

 「む~ん、美味しいわね。やっぱり夏祭りで食べる焼きそばは美味いわ」

 「焼きそばって夏祭りで食べると何故か病みつきになっちゃいますよね」

 

 ボクとお姉様は広げたシートに座っていて、他の三人は屋台へと再び走り出した。

 

 ボクとお姉様は買ってきたパック入り焼そばを広げて食べていた。

 お腹もそこそこ膨れ上がっている中で食べる焼きそばは、口いっぱいに広がる芳醇な味わいに濃いソース。そしてほんのりと温かい麺に添えられた赤い紅ショウガ。

 

 目の前に広がっていたのはたくさんの野菜やタコなどの海鮮物が入ったまさに夏本番に相応しい焼きそばと言う名のB級グルメだった。

 

 2人してガブリついたから、顔がちょっと汚れてしまったみたいだ。

 ボクの顔を軽くふくと、それだけで青のりとソースのちょっとした汚れが頬についてしまっていた。

 

 特にお姉様の方を見ると、お姉様の口元は大分ソースでやられてしまっていて、口元には美味しそうな野菜や食べカスが付いていた。

 ボクは懐から濡れティッシュを取り出すと、それをお姉様の口元まで運んだ。

 

 「お姉様。口元を洗うので、動かないで下さい」

 「は~い」

 「は~い、そのまま動かないでくださいね~濡れティッシュで口元をキレイキレイにしますからね~」

 「う~ん……」

 

 お姉様の口元を濡れティッシュで拭くと、汚れた口元がだいぶ綺麗になった。

 

 お姉様の口元を洗いながら、ボクはあの話を……前から決めていたことについてお姉様に話さないといけない。

 

 「これから、花火大会があるのね。楽しみだわ」

 「お姉様、この後の花火大会ボクと二人っきりで見ませんか……??」

 「……二人っきりということは、みじかとかとは一緒に見ないの??」

 「……ボクは、お姉様と一緒に見たいんです……みじかやあやめ先輩、それに夕夏先輩と一緒に見たいわけでは無いんです。お姉様とだけ一緒に見たいんです」

 

 ボクの気持ちを伝えた。

 そう、後はお姉様が動くための小さな小さなスパイス。

 

 つまり決定打となる存在が必要なのだ。

 

 だから、ここでボクがすべき行動は……

 

 「お姉様。ボクは向こうの階段のところでお姉様のことを待っています。あとで、みじかたちと合流したらみんなから離れて一人でそこまで来てください。そしたらボクとお姉様の2人で花火を見ましょうよ」

 「あ、待ってリュウ君!!」

 

 ボクはそれだけ言うと、さっさとお姉様のそばから離れて逃げるように人ごみの中へと隠れて行った。

 ボクのことをお姉様が見つけることはこの人ごみの中では不可能に違いない。

 

 逃げ出したときにお姉様の顔は見なかった。でも、声だけでも驚いていることは十分想像できた。

 ボクは戦わなければならないのだ。ボクのお姉様を奪い去ろうとするすべての人々から、お姉様を守るために……

 

 カン!カン!カン!カン!!

 

 草履の甲高い音が、ボクの可愛らしい浴衣を共鳴して美しく存在していた。

 もはやボクはお姉様の為だけにしか存在することしかできなくなったみたいだ。

 

 (えっと、お姉様と約束したのはあの場所だっけ……)

 

 ボクは神社の上の方から、下を見てお姉様との約束をした場所を探していた。

 

 それじゃあ、あの場所で待っているか……

 

 「お姉様いつになったら来てくれるかな……??」

 

 パッン!!パッン!!パッン!!!

 

 どうやらポツポツと、空に花火が降られだした。

 一瞬周りを見てみると、お姉様の姿は見られなかった。

 

 「お姉様まだかな……」

 

 ボクはいまだに待っていた。ただひたすら待っていた。

 空に花火はもう何発も打ち上げられていて、ボクとお姉様のことなどまるでどうでもよいと言わんばかりに虚しく何度も何度も空高くその美しい絶景を描き出していた。

 

 赤、黄色、青色、

 

 さまざまな色の花火が空高く打ちあがっていた。

 もう打ちあがりだして、何十発経ったのだろうか??

 

 時計を見ると、あと残り時間は十分もないみたいだ。

 

 なんとなくだけど、頭の中で理解が追い付いて来た。

 つまりボクは負けたらしい。

 お姉様はボクではなく、みじかや生徒会のみんなのことを選んだみたいだ。

 

 「なんだ、そんなもんか……あはははは!!」

 

 ボクは自らを嘲笑うかの様に大きく笑った。

 大きく大きく笑っていいた。

 その音は花火の音にかき消されてていて、まさに無意味で虚しい響きだった。

 

 すると、そこに一筋の影が現れた……

 「ゴメン、遅れたわね……」

 「お姉様……」

 

 なんと、お姉様がようやく表れたのだ。

 

「遅いですよ、お姉様……」


 ボクは涙が少しこぼれていたが、そんなことは気にせずにただひたすらにお姉様の到着を待ち続けたのだ。

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