第43話 わたあめ


 

 

 

 お姉様の登場シーンはまさに主役と言うのにふさわしい登場の仕方で、草履を鳴らしながら颯爽とやって来た。

 

 「ようやく来たじゃん、遅いよ聖愛ちゃん」

 「ごめんごめん~悪かったわね」

 

 お姉様の浴衣は真っ黒な漆黒色で、でもどこか美しく魅了させてくる。

 自らの肉体をこれでもかというくらいに引き立たせてくる黒い浴衣に一輪の美しい花を描いていた。

 

 木々に囲まれた小高い丘の上にある森浅間神社の空はまさに真っ黒でこんな明るさでは星一つ見えようにない。

 いや、美しすぎるお姉様の姿を見て星々がきっと逃げ出したのだろう。

 そうに違いない。

 

 夏祭りの特別な空気感。

 焼きそばとフランクフルトとかき氷が混ざった様な香ばしいにおいが境内に広がっていいた。

 

 仮組された櫓からは盆踊りの音頭が取られていて、若い男の子がハチマキを巻いて力強く太鼓を叩いていた。

 

 そんな夏祭りの風景をお姉様は彩っていた。

 

 まるですべてはお姉様のために存在しているかのように、お姉様のことを綺麗に照らししていく。

 

 「私わたあめ食べたい!!」

 「良いですよ、買いに行きましょうか??」

 「そうね。ここの夏祭りにもどんなものがあるのか気になるしね」

 「なんてことない、普通の夏祭りですよ。真ん中の櫓で盆踊りを踊って、その周りに屋台がたくさんあって……でも、花火はたくさん上がりますね!」

 「へ~そうなの。楽しそうわね!」

 

 お姉様は一本の長い朱色の帯を身に着けていた。

 

 「わたあめ食べたい!わたあめ食べたい!」

 「ハイハイ分かりましたから。ここですよ、ここ」

 「わ~美味しそうだわ。ねぇリュウ君!一緒に食べましょうよ。」

 「え、良いんですか……??」

 「もちろん!!」

 

 手を伸ばしてくると、お姉様はわたあめを差し出して来た。

 淡いピンク色をしたわたあめ。

 どうやら、お姉様はイチゴ味のわたあめにしたみたいだ。

 

 「う~ん。美味しいですね。口の中がべとべとになりますけど、やっぱりわたあめって食べてて楽しいですね」

 「そうね~そう言えば、これイチゴ味だけどもちゃんとイチゴの味するかしら??」

 「どうなんでしょうね?ザラメはちょっとピンク色でしたけどもそこに実際にいちごが入っているのか……味的にはあんまり分からないですね。」

 「なんかさ~かき氷のシロップって色を変えているだけで全部同じってよく言うじゃない。それと一緒で、わたあめも色が違うだけで全部味なんてついてないんじゃないのかしら?」

 「さあ?それも含めての屋台なんじゃないですか?」

 「それもそうね。野暮な詮索だったわ。さ、他のところも探しましょう。」

 「あ、待ってください~!!」

 

 ボク達は走り出した。

 お姉様の姿はまさに天使だった。

 

 帯を背中にひらひらと輝かせながら夜の境内を走り回った。

 

 「これはなに?」

 「これはりんご飴ですね」

 「これは~?」

 「えっと、これは串焼き肉ですね」

 「こっちは~??」

 「こっちは確かドリンクバーだったと思います」

 

 お姉様はホップ、ステップ、ジャンプで軽く飛び跳ねながら、踊りながら夏祭りを楽しんでいた。

 

 手にしていたものはわたあめから増えて行って焼きそばやお面にりんご飴、そして水ヨーヨーだったりを手にしていた。

 

 楽しい時間はすぐに過ぎてしまってもう空は完全に真っ暗になっていて、もうそろそろ花火の時間みたいだ。

 ボクはお姉様だけではなく、生徒会のみんなとも一緒に遊んでいた。

 

 水ヨーヨーの吊り競争をしようという話になって、お姉様とみじかが争った。

 結果は4個対15個でみじかの圧勝だった。どうやら、みじかは勝利の女神を身に着けていたのか、どれだけ濡れても全く釣り具は切れそうになかった。

 

 一方、お姉様はあたふたしながら水ヨーヨーを釣っていて、3つ釣った時点でもはや釣り具は切れかけていた。

 なんとかもう一個釣れたけど、それが限界だった。

 

 みじかがあまりにも簡単に釣ってしまうから、お姉様は悔しそうに見つめていたが、そんなお姉様をみじかは「ふふ~ん」と誇らしげに下に見ていた。

 

 他にもせんべいに絵を描いたりした。

 

 お皿くらい大きなせんべいにペンでゆっくりと絵を描いていった。

 ペンのほかにも色付きの砂糖などもあって、それを使って絵を描いた。

 

 「見てみて、私リュウ君を描いてみたわ」

 「……ありがとうございます」

 「なに?可愛くない??」

 「だいぶ……キモイわね」

 「夕夏ちゃんが酷いこと言う~!!」

 

 お姉様が見せてきたボクを描いたというせんべいは形がどこか歪で、それでいて顔が半分崩壊していて、夕夏先輩の言う通りどこか気持ち悪さがあった。

 お姉様が作ったから、あんまり言いたくはないが、これが自分なのが一番いやだった。

 ボクはもう少し可愛いと信じたかった。

 

 すると、お姉様は悲しそうな顔をしながらボクの顔が描かれたせんべいにかぶりつくと、笑顔になって再びかぶりついた。

 笑顔になって、そのまま全部食べ切ってしまった。

 

 ボクやあやめ先輩たちもさっさと作ってしまって、食べだした。

 ボクは青い鈴鈴を作った。みじかは星が作って夕夏先輩は野球ボール。あやめ先輩はなぜか家を作っていた。 

 

「悪くないわ、味はね」

 

 それから、ボクらは広場に行って花火の時間を待っていた。

 

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