第42話 夏祭り
7月25日 午後16時43分くらい
「お姉様、もう準備は出来ましたか?」
「フフフ!私の浴衣姿見たいでしょ??」
「ええ、それはもちろん!!」
ボクとお姉様は薄い木製の扉で引き裂かれていた。
今日はお姉様と一緒に・・・・・・いや、生徒会のみんなで一緒に近くの神社の花火大会へと行くのだ。
前々から言ってたように、お姉様は義理姉妹で浴衣を着たいらしいので、ボクの家にやって来た。
先にボクを持ってきたお姉様の可愛らしい浴衣を着つけると、そのまま脱衣所の扉を閉めて鍵をかけてしまった。
どうやら、ボクにはお姉様の浴衣姿はまだ見せてくれないらしい。
お姉様はじれったくまるで鍵を開けそうで開けず、扉を閉めていると急に開けようとしてくる。
バタン!!
一瞬だけドアが開いて、お姉様の姿が見えた。
黒……
黒い浴衣をお姉様は着ているらしい。
けど、その詳細を見ることはまだできていない。
「先にリュウ君は神社行っといてよ。神社で見せてあげるわ」
「……分かりました。」
「最近のリュウ君はホント聞き分けよくなったわよね。今のリュウ君も可愛いけど、前の全然聞き分けの無かったリュウ君も懐かしくて可愛かったわ。」
お姉様の声は壁越しで少し震えていて、それでいてハイテンションだった。
やっぱりお姉様も夏祭りが楽しみみたいだ。
ボクは靴を履くとさっさと神社に行った。
森浅間神社は夏祭りと言うこともあって、地域の人を中心にたくさんの人が境内に集まっていた。
境内は熱く光り輝く白熱電球でライトアップされていて、無数の紅白ちょうちんが飾られていた。
それでいて、当然夏祭りなのだから境内にはたくさんの屋台が点在していた。
「お、ドラ君可愛いじゃん」
「あ、みじかももう着いたんだ」
「ねぇ、ドラ君。あーしの浴衣姿可愛い??可愛いでしょ??」
「……口裂け女??」
「違うわよ!!ドラ君酷―い!ねえ、少しはさ。あーしのことを褒めてもいいんだよ。だって、あーしが居なければドラ君はきっと今頃一人で寂しく家でスマホでもいじっていたんだよ」
「きっと、その時はお姉様と一緒に神社に行ってたと思いますよ。実際、今日もお姉様にこの浴衣着せてもらったしね」
ボクが着ている浴衣を軽く引っ張ってたなびかせると、みじかは恨めしそうにこっちを見つめてきた。
ボクが今日着ている浴衣はお姉様の薄い桃色の色柄で、桃や菊花だったりと可愛らしい浴衣だった。
無論、品質も言うまでもなく最高で着心地は天の羽衣にも匹敵するくらいの軽さだった。
こんないい服をお姉様は着ているのかと思うと、やっぱりお姉様はお嬢様だ。
そして、そんな服がボクが着ていいのか?ボクが着ても似合うのか?お姉様に着つけられている間、そんなことばかり考えていた。
もちろんのことながら、お姉様はこの浴衣が似合うだろう。
というか、お姉様に似合わない服など存在しないだろう。
だが、だからと言ったってボクが似合うかどうかなんて分からない。
お姉様の義妹だからこそ、ボクはお姉様の浴衣が似合いたい。
お姉様と同じでありたい。
だから、お姉様の浴衣が似合わないのが怖かった……
でも、実際着てみるとやっぱり義妹だからか、かなり似合った。
ボクの浴衣姿はお姉様のそれとは似ても似つかなかったけれども、ボクらしくてよかった。
なによりもお姉様の義妹として、同じ浴衣を着てお祭りに行けることが誇らしいのだ。
ボクは大股で歩きながら堂々を周りに見せつけるようにしながら、みじかの周りを一周回った。
みじかは黄色い浴衣を着ていて、みじからしいどこかラフな感じでよかった。
「お、いたいた。みじかちゃんたちもここにいたんだ」
「僕たちもう、軽く屋台回って来たわよ。はやく君たちも一緒に付いてきなさい」
「あ、夕夏先輩にあやめ先輩も浴衣着てきたんですか!?」
「ええ、もちろんよ。と言っても私は甚平だけどね」
夕夏先輩の裾は短くて、どうやら男の子みたいな甚平だった。
まるでサッカー少年みたいな風格が夕夏先輩からはあふれ出ていて、その手にはハワイアンブルーのかき氷が握られていた。
一方のあやめ先輩はまるでおばあちゃんから借りてきたのかと思うくらい古臭い……というよりかは老人くさい紫色の浴衣を着てきた。
このまま老人会の集まりに参加してもきっと今のあやめ先輩なら、問題なく参加できるだろう。
「あやめ先輩の寿命はあと何年なんでしょうね~」
「そうね~少なくともドラ君よりは長生きすると思うよ」
「怨念じゃないですか。」
「誰が呪縛霊じゃ!」
「あやめ先輩の浴衣、完全に老婆が着ている浴衣ですよ。どこか山奥の旅館に泊まったら一番最初に出迎えてくれる老女将が着ている浴衣です!」
「なかなかすごいこと言うね、君。面白いから殺すのはみじかの後にしといてやろう」
「なんであーしが殺されないといけないんですか!?」
「連帯責任」
「あーしだって、必死に生きているんですよ!!それなのに……」
そんな冗談を言いながら、少し歩いていた。
お姉様を待つためにちょっと入り口に近い広い場所へと移って、見やすい場所に立っていた。
あやめ先輩は手にフランクフルトを持っていて、トマトケチャップとマスタードを上手く口先でからませながら食べていた。
浴衣姿の人間が4人も横一列になって歩いていると、硬い草履が地面に触れてなるあの独特なカンカンと言う音が休む暇もないくらい鳴り響いていた。
しばらく広い場所で涼んで、お姉様を待っていたその時だった。
「ごめ~ん。ちょっと準備に手間どっちゃったわ~!!」
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