第20話 ラブレター②


 

 

 

 拝啓 夕夏先輩。

 

 春の陽気も過ぎ去り、初夏の日差しが照らされてまいりました。

 さて入学から時間がたち、学校には姉妹が溢れてきました。

 まるでそれは義姉が花々を育てるかのように、義妹は義姉に支えられながら持ちつ持たれつつの関係で生活しています。つぼみの様に小さな花々は義妹と共に大きな花へと成長しようとしています。そんな中に置きまして、夕夏先輩はその有り余る美貌とリーダーシップで学校中の生徒の注目をかっさらっていることは周知の事実だと存じ上げますが、そんな夕夏先輩にはまだ義妹がおりません。

 なんという不幸!夕夏先輩のような優しいお姉様となるであろうお方に義妹がいないなんて、まるでサッカー選手の息子にサッカーを教えないようなことではないのでしょうか?そんな中において、一つの幸運があります。それは、わたくしの義姉がいないということです。確かにスポーツ万能で勉強もでき、生徒会役員の夕夏先輩とわたくしは合わないということは確かです。しかしながら、ロミオとジュリエットのように大きな壁がある人間関係こそが至高の人間関係なのではないのでしょうか?わたくしたちは大きな壁があるからこそ、最高の姉妹関係になれるのです。だから、わたくしと姉妹になってくれませんか?かたや陸上部のエースで生徒会副会長の美少女、もう一方は何のとりえもない女の子。そんな二人の関係も面白い物になると思います。是非ともご一考をお願いします。

                              敬具

                              1-1 田中希




「なんかすごいわね……」

「そうですね……」

「自分を徹底して下げて、夕夏ちゃんを上にあげまくった感じだね……教信者??」

 

 ボクが声に出して読み上げるとみんなドン引きしていた。どうやら義妹にして欲しいみたいだけど、ラブレターの書き方……

 何ナンダコレ?本当に何なんだ!?

 

 別に特段しておかしいところがあるわけでは無い。けど、文中から現れるどこかしら変なところがあふれ出てきている。ある意味で、こんな文章書けるおゆのんは天才なのではないか??

 

 「にしてもモテるね~!!」

 「聖愛ちゃん止めて!」

「夕夏ちゃんいいね。教信者がいて……ああ僕にも欲しいな。僕のことを尊敬してくれて養ってくれて、毎朝起こしてくれる女の子。」

 「ただのそれヒモかお母さんじゃん……」

 

 あやめ先輩は相変わらずだが、お姉様もからかってる。

 

 まあでもそれくらい、夕夏先輩はモテるということだ。まあ、確かにモテてモテてモテまくってるよな……

 

 陸上部が学校の周りを走っていると、夕夏先輩を見つけた女の子たちが、キャー!と声を上げて応援する。そんな光景を僕は何度もこの目に焼き付けてきた。

 

 「私はね。確かにモテるけど、でもだからこそ、誰も義妹にする気はないのさ。」

 「この人たらしが!そうやって女の子たちをはべらかして期待させるんでしょ!だったら、もう身を固めて義妹を作ったら??」

 「そうだな……だったら竜太郎とかを義妹にしようかな……??」

 

 伸びた手がボクのシャツを掴んで引っ張られた。ボクはお姉様のそばから無理やり離されて、夕夏先輩の隣に立たされた。ボクは逃げようとするけど、夕夏先輩は許してくれない。

 

 「ちょっと……夕夏先輩……」

 「私嬉しいわ!こんな可愛い子が義妹になるなんて……!!」

 「ちょっと夕夏!!リュウ君は私の義妹よ!放しなさい!!」

 

 そこには女子高生2人が1人の男子高校生を義理の妹として取り合うという摩訶不思議な光景が広がっていた。

 

 ボクはお姉様のそばに寄ろうとするけど、夕夏先輩は一向に許してくれない。逃げようとすればするほど強く握られてしまう。

 

 「ほら離して!!」

 「ヤダ!!」

 

 お互いにギィィィ!!と、歯を見せ合って威嚇している。その姿はまるで母ザル同士が子ザルをめぐって戦う一歩手前の様子だった。

 

 ボクはどうしようかとおろおろしていた。あやめ先輩は面白がって「いいぞ!もっとやれ!NTRしろ!」とはやし立てている。

 

 最初に緊張を打ち壊してはみじかだった。

 

 「ほらほら喧嘩しちゃいけません!!お互いにお座り!お座り!!」

 「シュン……」

 「だって……夕夏が私の可愛い可愛い義妹を奪おうとするんだも~ん。」

 「言い訳しない!!」

 「……は~い。」

 

 まるで小学校の先生の様にみじかはその場を仲裁した。夕夏先輩は主人に叱られた犬みたいな感じにぺったりと地面に座っている。心なしか、頭に萎れた犬耳が見える気がする。一方、お姉様はここでも凛として自分はあくまで悪くないというスタンスを崩していない。一応喧嘩は良くないと思っているのか、みじかの話は聞いているが、それでもどこか不貞腐れている顔をしている。

 

 「そうだ!いい子と思いついたわ!」

 

 突然お姉様が手を叩いて立ち上がった。

 まずいな。お姉様がこういう事を言い出す時は、大体ろくでもないことが起きるに違いない。

 

 ボクは恐る恐るお姉様の話を聞いた。もうとっくに夕夏先輩からの拘束は外れていたから、バチバチのお姉様と夕夏先輩の間から離脱してあやめ先輩の近くに寄って行った。

 こういう時なぜか知らないけど、あやめ先輩は中立な立場でいることが多いから、便利だ。永世中立国だし、今度からあやめ先輩にはチーズをたかることにしよう。きっとおいしいチーズを出してくれることに違いない。

 

 「リュウ君の代わりにみじかちゃんを上げます!ほら夕夏もみじかちゃんだったら同じ生徒会役員だし、可愛く頼りになるから良いでしょ!」

 

 ぜ、全然よくない!!

 

 ヤバい、絶対に壊さないと、夕夏先輩とみじかの間に姉妹関係なんて絶対に許してはいけない!!

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