第26話 お泊り会③ ケチャップ





「お、お姉様どうしたんですか、いったいどうしてこんな格好に……??」

「リュウ君にね。ちょっとご褒美あげ様かな~と思って……」

「お姉様何をなさる気ですか……??」

「それはね~」


お姉様はウッキウキの笑顔でこっちを見ると手で♡を作った。


「愛しのリュウ君にお姉ちゃんが美味しくなーれをしてあげます!!」

「美味しくなーれ??メイド喫茶みたいなことでもするんですか??」

「そうそう!!まずはこのオムライスにね。ケチャップで大きくハートを書いてあげます。」


「すげぇ……ハートの大きさが左右バラバラだ!!それに線も曲がってる!!なんて芸術的なんだ!?」

「うるさいわねぇ!!可愛い可愛いお姉ちゃんがリュウ君のためだけに書いたハートなんだよ、喜びなさいよ!!」


少し不器用なおぼつかない手で書いたんだろう、ハートは少し不格好だった。

けど、ボクはそんなハートが愛おしく思えた。

お姉様がボクのために書いてくれたのだと思うと心の底から喜びが溢れてきた。


本来はオムライスの上に書くんだろうけど、ブレブレな手で書いたからだろうか、真っ白なお皿の余白にまでケチャップがついていた。


お姉様は描いたケチャップを持ったままたじろいでいて、本当にこれでよかったのかと唸っている。

どこか失敗したメイドみたいな雰囲気があって、愛おしかった。


「……リュウ君。やっぱ私のお皿と交換しない??」

「なんでですか??折角お姉様がハートを描いたのに……??」

「でもちょっと不格好すぎるでしょ!!私がこっちの下手くそなのを食べるからリュウ君はこっちに綺麗に書くから、それを食べてぇ!!」

「僕は不格好な先輩が頑張って書いたハートが掛かれたオムライスが食べたいんですよ。それにこっちは量が多すぎてボクだと食べれませんからね……」


お姉様の頬が紅潮した。きっと大食いだって言われて恥ずかしがっているのだろう。

けど、実際こっちはどう考えてもボクが食べれる量ではない。

 絶対に残してしまう。そうなると半分だけ食べられたハートが残ってしまう。

 

 「じゃじゃーん!!どう、ケチャップで文字を書いてみました。ハートは不格好だし、ああんまりオムライスも綺麗に巻けたとは言い難いけど、今日はリュウ君と一緒にご飯食べれる。それだけでお姉ちゃん嬉しいわ。」

 「えっとなになに……『いつもありがとう』・・・・・・」


 「ちょっと、そんなしんみりした空気出さないでよ!!私が恥ずかしくなっちゃうじゃない!!」

 「……なんか、なんか分からないですけど、お姉様と出会ってよかったな~って……あの日ピアノの音につられて音楽室に行って良かったなって思って。」

 「ええ、私もあの日リュウ君と出会って、エスになって初めての義妹が出来て、それから楽しい時間を過ごせて本当に良かったなって思っているわ。」

 

 どこかしらかしんみりとした感情に浸ってしまった。あの日からの出来事を思い出すと、ボクも結構変わった。最初は誰とも話す気すらなかったけど、みじかと出会ってお姉様とも出会って、生徒会に入って……

 

 人間はどこで変化するのか本当によく分からない。

 

 ボクはたったの数か月で大きく変わった。そしてこれからも変わり続けるだろう。

 

でも、その時隣にお姉様がいて欲しい。

 お姉様がいると安心できる。お姉様はボクを新しい世界へといざなってくれた。

 

 けれどもそれと同時にお姉様は幸せになって欲しいと願ってる。

 だからこそボクじゃなくて、みじかと結ばれて欲しい。みじかの義姉になって欲しいという、大切だからこそ離したいと思う気持ちがある。

 

 本当に人間の感情って面倒くさいな!

 

 ボクは小さく息を吸うとお姉様に尋ねた。

 

 「お姉様、ケチャップを貸してください。ボクもオムライスにハートを描きたいです。」

 「え、リュウ君私のために書いてくれるの!?」

 「もちろんですよ。お姉様がボクのオムライスに書いてくれたのにボクが書かないなんて薄情者がすることです!!」

 

 ボクはお姉様からケチャップを貰うと、大きなオムライスの端から端まで届きそうな大きな大きなハートを描いた。

 そして、ハートの真ん中につづった。『2人は仲良し世界一!!』と。

 

 

 

 ボクが黙っているとお姉様は口を三角にして表に出したそうにしている感情を必死に押さえつけていた。

けど、とうとう感情を爆発させた。


「ここは日ごろの感謝とか書いて私が感動するところでしょ!!なんで『2人は仲良し世界一』なのよ。私を感動させなさいよ!!」

「え、だってこれお姉様が中学生の時にやらせてボクとも図書館から出て行ったお姉様を追いかけて校庭でやったじゃないですか!!十分感動的でしょ!!」

「あんなんただの黒歴史だわ!!しかもそれをオムライスに書くってどういうことよ??え、なにもしかして私って嫌われてたの……??」


「ようやく気付きましたか……」

「泣くよ、お姉ちゃん泣いちゃうけどいいの??」

「あの保護メガネ要りますか??」

「違うわ!!玉ねぎじゃなくて普通に悲しくて泣くのよ。」


そんな不毛だけど楽しいやり取りが続いていた。

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