第25話 お泊り会② オムライスと保護メガネ






 結局晩ご飯にはオムライスを作ることに決めた。

 きっと、お姉様の作るオムライスはふわふわで中には美味しいチキンライスが入っているだろう。


 「じゃあ、オムライス作るからそれまでの間リュウ君は座って適当に本でも読んでなさい。」

 「お姉様!ボクも手伝いたいです!!」

 「え、リュウ君オムライス作れる??」

 「もちろん!!」

 

 ニッカと元気よく笑うとお姉様も笑顔になった。

 

 

 

 慣れた手つきで冷蔵庫から野菜やチキンを取り出したお姉様は、チキンライスを作るために玉ねぎを切り出した。

 

 「リュウ君はにんじん切ってくれない??私は玉ねぎ切るから。」

 「分かりました。でも、お姉様大丈夫なんですか?包丁使えます??」

 「失礼ね。私だって包丁くらいは使えるわよ。」

 「だって、お姉様はお嬢様だから知らいなんじゃないかな~と思って。」

 「今時の金持ちはきっと料理もするのよ。」


 アイルランドキッチンのカウンターはとても広く、まな板を二枚並べてもスペースが余るほどには広い。

 ボクはピーラーでにんじんの皮を剥ぐと、それから包丁で切り始めた。

 こういうのは家でよくやっているから慣れている。


 隣を軽く見ると、これまたお姉様も慣れた手つきで玉ねぎの皮をむいていた。

 そして向き終わると包丁を一度水道で水につけると、それから切り始めた。


 右がお姉様で玉ねぎを切っている。

 左はボクでにんじんを切っている。

 

 2人で仲良く料理をしているのだ。

 

 料理をするって言うのはボクにしてみたら、忙しい母さんを手伝うための行為だから、そこに特別な意味なんてなかったが、お姉様と一緒に料理をすると何故かまだ食べても居ないのに作っているオムライスは絶対美味しくなるはずだと思った。


 そんな時だった。


 「――うぅぅぅ……」

 「お、お姉様どうしたんですかいきなり泣き出して……あ、玉ねぎ……」

「悪いわね。普段はちょっと対策して玉ねぎ切っているものだら、こんな感じで直接切るのは初めてなのよ。」


 長いお姉様の人差し指で涙を擦った。

 その光景は扇情的でボクは一瞬でお姉様に取り込まれてしまった。


 泣いた顔のお姉様も美しかった。

 

 きっと感動的な映画を見た後、何かとっても悲しいことがあった後、とても面白いことを言われた後とかはこんな感じになるのだろう。

 お姉様の涙の滴はダイヤモンドよりも輝いて見えて、照明の光でより光り輝いていた。


  「お姉様本当に大丈夫なんですか??」

  「大丈夫よ。でも、ちょっといつも通りにしてもいい??」

  「全然かまいませんよ。」

  「ありがとう。」

 

 お姉様はちゃんとシャワーヘッドで手を洗ってから、収納スペースの引き戸を引くと中から何かものを取り出した。

 そしてそれをお姉様はおもむろに耳へと掛けた。どうやら、それはメガネみたいだった。

 でも、メガネにしては大きく不釣り合い過ぎた。

 

 そして、お姉様がボクの方を向いたとき、ボクはこのメガネみたいな何かの正体が分かった。

 

 「お、お姉様、それは……」

 「実験用の保護メガネよ。」

 「よくそんなものありますね。ボクは学校の理科室以外で保護メガネなんて見たことないですよ。」

 「なんか私が玉ねぎ切る時に涙を流して苦労しているってことを知ったお父様が買ってきてくれたのよ。」

 

 お姉さまが付けたのは理科の授業で実験とかをするときに掛けるあのごつごつとした感じの保護メガネだった。

 確かに目を保護することは出来そうだけど……


 保護メガネを付けたお姉様の顔は、普通の人だったら少し間抜けな顔になるんだろうけど、さすがのお姉様はあの大きくて不格好な保護メガネでさえも取り込んでまるで新たなファッションよと言わんばかりに堂々としていた。


 「さあ、さっさと続きをやりましょう。」

 「そうですね。ちゃっちゃとオムライス作って食べましょうか!!」

 「ええ、そうね。」

 「そうしまwwしょうかww」


 だが、ここでボクは不覚にも急に笑ってしまった。

 堂々と自分のファッションにしてしまったお姉様だが、どうしてだろうか。キッチンの前に立って包丁を握ると、保護メガネにキッチンと言うあまりに不釣り合いなものがボクの笑いを誘った。


 「あ、リュウ君笑った!これ、夕夏ちゃんとかあやめちゃんも笑われたのよ。まさか愛しの義妹ちゃんにも笑われるとは……」

 「だ、だってwwお姉様の姿が面白すぎるんですもん……ww」

 「むっす―。こっちはまじめにやってるんでーす。」

 

 お姉様は少し怒ったような様子を見せながら玉ねぎを切り出した。

 保護メガネのことをどうにか言われるのは慣れて言われるのか、はたまたあやめ先輩たちにいじられてきたのか知らないが、お姉様はさっさと玉ねぎに包丁を差し込んだ。


 ボクも笑いながら、でもちゃんと気を付けながらにんじんをみじん切りにしていた。



 

 「こっちがリュウ君の分で、こっちが私の分ね。」

 「やっぱりお姉様結構食べますよね。ボクよりも量がある気がします。」

 「きっと気のせいいよ。それに私が最初に持ったチキンライスの量で卵を調節したから、元から量が多かっただけよ。」


 言い訳を述べながら、お姉様は出来上がったオムライスをさらに乗せるとボクはテーブルの上へと運んだ。

 お姉様はたくさんの量のご飯を食べるっぽい。

 それは前のパンケーキだったりと、ボクの何十倍も食べていた。

 けど、体は細くてどこにそのカロリーが行っているのか気になる。


 「それじゃあ食べましょうか??」

 「あ、リュウ君ちょっと待って!!食べる前にもっと美味しくなるおまじない!!」

 「なんですか・・・・・・??」

 「それはね……」

 

 すると、さっきは付けていなかったエメラルドグリーンのエプロンを付けたお姉様がケチャップを手に持ってこっちへとやって来た。

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