第15話 ファッションショー2


 

 

 

 次に持ってきたのは赤城会長が着ている白いワンピースとどこか似ている雰囲気のある清楚な服だった。

 

 真っ白なシャツにくるぶしまで覆われた長いロングスカート。

 そして内側には淡い青色の肌着を渡された。

 

 ボクは服を受け取ると半分あきらめたように試着室へと入っていた。

 試着室の床にはさっきまで来ていた地雷系ファッションやボーイッシュな服がかごに入れられて置かれていた。

 

 (きっとこの服もボクには似合わないんだろうな……)

 

 心のどこかでそんなことを思いながら上着のボタンを上から外していった。

 

 「……会長。着替え終わりました。」

 「いいわね。似合ってるわ。でも……」

 

 突然後ろに先輩が入って来た。

 

 なんだと思って後ろを振り返った瞬間、伸びた両手がボクの体を包み込むようになった。

 やっぱり赤城会長も生徒会のみんなの距離感バグってる。

 普通、男と言うケダモノにこんなに近づいてはいけないはずだ。こんなに近づいたらいつ狼に変身して襲われるか分からない、これは火遊びよりも危ない遊びだ。

 

 ……でも、赤城会長のいい匂いが香る。

 何度も嗅いでいるはずなのに飽きることもないし、嗅ぐたびに悶々とした感覚になる。

 赤城会長のフェロモンは格別の香りがしてほかの女の子よりも100倍は香ばしい。

 

 そして体温もこんなに近いと感じてしまう。

 赤城会長の優しい聖母のようなまなざしとその体から感じるゆで卵のような柔らかな温かみはまるで小さい頃の母親かのように思える安心感があった。

 

 「リュウ~君。ここのボタンは外しましょうね~」

 「か、会長……」

 「やっぱりリュウ君は清楚な服が似合うね。だから清楚だけどちょっとだけ冒険した服を選んでよかったわ……」

 

 抱き着くような恰好のまま、赤城会長はボクのシャツの第一ボタンと第二ボタンを外した。

 外されたシャツのところには内側に着ていた淡い青色の肌着が露出していた。

 

 清楚だけど冒険した服って赤城会長は言っていたけど、これは冒険と言うレベルを超えている。冒険を超えて挑戦的な服装だ。

 

 「か、会長……ボタンを外すだけなら、別に回り込まなくても……」

 「嫌だった??」

 「そう言うわけじゃ……と言うか、この服ですか……??」

 「清楚なリュウ君には清楚な服が似合うと思っていたけど、やっぱりピッタリね。」

 いやと言うわけでは無かった。でも、それを認めちゃったら、犬塚さんとの関係性が……

 

 「むぅー。今リュウ君ほかの女の子と考えてたでしょ。」

 「そ、そんなことアルワケナイジャナイデスカ……」

 「嘘つかないで!!お姉ちゃん悲しいわ。義妹に嘘つかれるなんて……リュウ君は私よりも別の女のことが大切なんだ!!」

 

 会長にまさか見破られるとは思わなかったが、こんな風に思われるのはちょっと問題だろう。いい距離感で別れれる様にしないと後々の関係性にも響いてくる……

 

 「じゃあ、お仕置き。」

 「お、お仕置き!?」

 「そう……今日から私のことを“会長”じゃなくて、“お姉ちゃん”か、“お姉様”と呼ぶこと。ずーっとね。」

 

 会長のことをお姉様と呼ぶ。

 それは不可能に近いことだった。

 

 ボクはボクが入学前に決めた誓いでむやみに親密にならないと決めていたから……

 

 でも……

 

 「じゃあ、言って!」

 「でも会長……」

 「だから、会長じゃなくてお姉様でしょ。言えないお口はどのお口かな??」

 

 ボクのほっぺをつかんだ会長はムニムニと変化させながら、遊んでいた。

 

 「じゃあ、リピートアフターミー。お姉ちゃん」

 「…………お、お姉様。」

 「イヒッヒッ!もう一回!!」

 「お姉様……」

 「もう一回!!」

 「赤城お姉様……」

 「聖愛!聖愛って呼んで!!」

 「聖愛お姉様……」

 「OKよろしい。」

 

 何十回も言わされたあと、会長。いや、お姉様は満足げな顔をしながら笑顔でこっちに笑いかけてきた。

 

 その笑顔はどんなダイヤモンドよりも美しく、どんなに強い太陽よりも輝いていた。

 

 可愛い。

 

 その笑顔を形容するなら、短くも普遍的なその言葉が一番ピッタリだった。

 いや、ぴったりと言うよりかは、その言葉以上の価値がお姉様の笑顔にはあったが、それ以上お姉様を表すことは不可能だった。もしこれ以上ピッタリな言葉を探すとしたら、新しく作るしかなさそうだ。

 

 聖愛らしい――これ以上もなく美しい人を指す言葉。例題:○○さんは聖愛らしい。

 

 いいね!!これからは広辞苑に入れよう。そして一般的な言葉にするんだ。

 

 ボクが心の中で、そう決心していた時、お姉様はそそくさとレジで服を買っていた。

 真っ白の清楚なシャツを着たままだったが、お姉様はもう会計を済ませてしまったのか、財布の中にカードを入れていた。

 

 「リュウ君、今日はありがとうね。」

 「いえ、お姉様も今日はありがとうございました。」

 「やっぱりリュウ君はスカート姿の方が良いわ。だからこれからはスカートだけを穿いてよ。」

 「なかなか難しいことを言いますね……」

 

 本当にうちのお姉様は急に爆弾を突っ込んでくる。スカートだけを穿いてよって……難しすぎる……

 

 「まあ考えときます。」

 

 そんな感じでお茶を濁すしかなかった。

 

 

 

 鏡のことが大っ嫌いだ!

 

 醜い自分がまじまじと映り込んでしまう。だから鏡は嫌いなんだ。

 ドスン!

 鏡に映る自分を軽く殴ると、ボクはお姉様に買ってもらった服をすべて脱いでしまった。

 

 自宅のリビングに入ることもせずに、脱衣所にある洗濯機にもらった服を投げ込むと、そこには醜い男の体がある。

 

 やっぱり自分は会長のとなりに立つのはふさわしくない。

 

 男の自分ではダメだ。

 犬塚さんのようなかわいい女の子こそが、お姉様の隣に。いや赤城聖愛と言う人間の隣に立つべき人間なのだ。

 

 嗚呼、鏡を見ると自己嫌悪しか生まれない。

 

 神様はなぜボクを男なんかに産んでしまったのだろうか??

 もし、女の子に生まれたら、お姉様の隣に立つことが出来たのに……

 

 ドス……

 腑抜けた音と共に、小さく弱弱しい拳が鏡の上のボクを殴っていた。

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