第14話 ファッションショー1





今日と言う日を忘れることは決してないだろう。

何故なら、こんな日はもう二度と来ないだろうからだ。


「お腹もいっぱいになったし、服を買いに行こうか!」

「よくあんなに食べたのに動けますね。すごいです……」


右手を元気よく上げて勢いよくアパレルショップへと向かおうとした赤城会長の足は軽やかでついさっきまであんなに量のあったパンケーキを食べていた人は思えなかった。


 まあ会長は天使なのだから、どれだけ食べても空を飛べるのだろうか?

 よく分からないが、そんなことはどうでも良い。

 

 今からボクが着る服を選ぶのだ。

 

 それもただ選ぶのではない。女物の義妹としてふさわしい服を買うのだ。

 

 「服がたくさんあるわね。これじゃあ選びきれないわ。」

 「壮観ですね……」

 

 腕を捕まれ一歩を踏み出させられたボクは服屋へと連行された。

 

 普段よく利用しているユニクロ大衆服屋とは違って手が届かないわけでは無いけど、無理をしないと届かないようなお店だった。

 そして当たり前のことだが、可愛い服がめっちゃ多かった。

 

 羊の頃からこだわって作られた生地に一流のデザイナーがデザインして、工場で大量生産するのではなく、一枚一枚ていねいに仕上げて作られた服で溢れかえっていた。

 

 辺り一面そんな可愛い服ばかりで可愛くないボクがここにいて良いのかと頭の中にはクエスチョンマークが沸いていた。

 

 「ねえ、リュウ君。これとかどうかな??」

 「ああ、これは確かに会長に似合いそうですね!」

 「違うわよ!!これはリュウ君の服よ。あ、もちろん試着してくれるよね??」

 「えぇっ……」

 

 ものすごい圧で送り出されたボクは試着室に入ると、渡された服を追う一度見返した。

 

 ピンク色のスカートにゴスロリ風の黒いブラウス。胸元には聖メリアのセーラー服についているタイのような小さなリボンが一つ。

 地雷系……この服を一言で合わすなら、この言葉が一番合っていた。

 

 「リュウ君!!着替え終わった??お姉ちゃん早くリュウ君を見たいわ!!」

 「あ、まだちょっとかかりそうです……」

 「そうなのね……お姉ちゃんは次の服を選んどくから早く着替えなさい!」

 

 試着室の薄いカーテン越しに聞こえてきた会長の声はあまりにも強く、そしてボクがこの似合わないであろう服を着て欲しいという熱意が伝わってくる。

 

 さて、これで退路は断たれた。

 どうやらボクはこの服を着ないといけないらしい。

 

 「スぅ~はァー!!」バンッ!!

 

 両手で顔を叩いて気合を注入すると覚悟を決めた。ボクは着ていた服を脱いで、一気に地雷系のファッションに着替えた。

 

 目の前の鏡には地雷系のファッションを着たボクが写っていた。

 

 「会長……着替え終わりました……」

 「う~ん、悪くないわね。リュウ君の細い体に長い脚。そしてリュウ君の可愛さが出ているわね。悪くないわ。」

 「……ボク、可愛くませんよ。きっと。会長なら似合うでしょうけど。」

 「またまた~。リュウ君は可愛いわよ。それに私はあんまりこういう服は持ってないしね……」

  

 ボクは普段男子制服を着ているから、タイは付けていない。シャツにタイと同じくらい赤いネクタイを付けている。だから、胸元にあるリボンは普段と違うからチクチクとした違和感がどこかにあった。

 

 それに制服のスカートは折っても膝がしらくらいまでしか出ないけど、この服は太ももも半分くらい露出しちゃっている。下のスカートはかなり攻めた短い恰好なのに上のブラウスは夏様なのに長袖で、少し暑そうな印象だった。

 

 そんなアンバランスな服だったが、自分で見てみると改めてひどい。

 

 モヤシみたいとよく言われるほど脂肪もなければ筋肉もない骨だけの体に合ったひらひらとしたブラウスは会長みたいな可愛い子が着れば可愛いのだろうけど、ボクのようなかわいくない子。と言うか、そもそもとして男には合わない服装だった。

 

 そして太ももを半分露出させたピンクのミニスカート。何度見ても似合っていない。肉月もなく、骨が表面でも分かるくらいの足を露出させて何がいいのだろうか?

 

 やっぱりボクにこの服は合わないみたいだ。

 

 「じゃあ、リュウ君。次はこれね。」

 「つ、次!?」

 「さっき言ったじゃない。リュウ君がお着換えしている時に見つくろっていたのよ。」

 「そうなんですか……」

 

 もうとうとうボクは思考を放棄することにした。

 取りあえず会長はボクにこの服を着て欲しいと思っている。だからボクはこの服を着ればいい。ただこれだけのことだ。

 

 よし、次は何だろうか??

 

 

 

 「おお、やっぱりリュウ君はどんな服でも合うわね。結構ボーイッシュな服だけど、うまく着こなせているじゃない。」

 「そもそも男ですから、ボーイッシュと言うよりただのメンズなんですよね……」

 少しダボっとしたカーキー色のズボンとチェックのシャツ。

 少し女の子っぽさが残るボーイッシュな感じの服を会長はチョイスした。

 

 見た目的にはさっきと比べて違和感はそこまでない。

 

 少し女の子っぽいが、最近は中性的なファッションも結構あるし、そういう中性ファッションだと言えば通りそうな感じだった。

 

 「うん……似合ってはいるけど、なんかこれは違うわね。」

 「ご不満ですか??」

 「これはリュウ君の可愛さを生かしきれずに殺しちゃっている感じがあるね。それにリュウ君にズボンは似合わないわ。スカートの方が良い。」

 

 100人に聞いても絶対そう答えると言わんばかりに両手を組んで赤城会長はボクにズボンはだめだと言い張る。

 

 そこまで悪くは無いんだと思うんだけどな……まあ感性は人それぞれだから……

 

 そんなことを思いながら会長が次に選んだ服を持ってこられるのを待っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る