第29話 お泊り会⑥ お姉様とお風呂
お姉様を膝の上に乗せて、しばらくの間漫画を読んでいた。
ボクはお姉様を膝の上に乗せた状態で両手を伸ばして漫画を広げ、その上で漫画を朗読させられた……
お姉様はさすがお嬢様と言うべきか、まるでそれが当然であるかのように漫画を見つめ、ボクに朗読されていた。
そして一巻が読み終わった。
「お姉様もう1巻読み終わりましたけど、どうしますか?2巻も読みましょうか??」
「そうね……そう言えばもうこんな時間じゃない!!リュウ君お風呂入ってきなよ!!」
「確かにもうそろそろ20時ですね……お風呂先は言っていいんですか??」
「当然よ。だって今日はリュウ君が私の家に泊まりに来てくれたんだからね!!」
漫画はいったんやめてお風呂に入ることになった。
……実はお姉様のことだからもしかしたら『一緒にお風呂入ろうよ!!』とか言い出すんじゃないかと心配になっていたけど、どうやら杞憂だったようだ。
やっぱりお姉様と言えども最低限の分別と言うべきか、常識はあるみたいだ……
……あるよね??
お姉様を見ていると、本当に自分の常識が正しいのか心配になる。
と言うわけで、風呂に入るために一階へと降りた。
いくら広いお姉様の家とは言え、普通に玄関のそばに脱衣所があってその奥にお風呂場があった。
「ほら、リュウ君これがバスタオルで、こっちが寝巻ね。……あ、下着の替えもあるけどどうする??」
「流石に遠慮します!!」
「じゃあ、今日使ったやつを明日も使うの……??」
「まあ、そうでしょうね。あ、袋有りますか!!制服着て帰るんで、どこかに置いておきたいんですけ……」
「え、別に私が洗濯して月曜に返すわよ。だから洗濯機に入れちゃいなよ。」
「そしたら明日着る服が無いじゃないですか!!」
「そんなの適当に貸すわよ。服くらいたくさんあるし。」
「……これだからお姉様は。まあ、そうですね。ありがたく借りさせていただきます。」
「は~い。じゃあ、私は出て行くから、お風呂あがったら教えてね~」
お姉様は難なく出て行ってくれた。
ワンチャンもしかしたらここでごねる可能性もあるなと思って戦々恐々としていたが、お姉様はボクを脱衣所に導いて寝巻とかを渡すとさっさと出て行ってくれた。
さあ、風呂へ入ろうか。
ドタン!
勢いよくドアを開けると、そこには広いお風呂場が広がっていた。
ボクの家にある一つのシャワーと一つの浴槽。それと同じはずなのに、ボクの家とは幾分と違う。
まずそもそもとして床が違う。冷たいタイルが敷き詰められた家のとは違って温かみのある滑らかな石が敷き詰められていた。
シャワーも家のとは違って大きなシャワーヘッドとひねるだけで大雨のように滴ってくる温水が髪に触れる。
お風呂も見ているだけで、広さが伝わる。
頑張れば体を広げることが出来る家のお風呂と違って簡単に横になれそうだ。
何て広さがあるのだろうか??
ちなみにボクは先にシャワーを浴びる派だ。
なので、取りあえずバスチェアに座ってシャワーを浴び始めた。
鏡に対峙する形で浴びていると、髪をくしゃくしゃにしながらもみ洗いした。
シャンプーは青とピンクがグラデーションを描いたボトルに入っていた。
少し取り出して、髪を洗っているといい香りがひろがった。
これがお姉様の香りなのか……
深々と考えながら洗うと、ボクはさっさと浴槽に入って行った。
ボクの後にはお姉様が待っている。さっさと出ないといけない。
「ふぅ~やっぱりお姉様の家は広いな~とはいえ、銭湯みたいに広いお風呂に富士山が描かれているかもとか思ってたけど、それはさすがにないな~でも、観葉植物が置かれて、足も広々延ばせて……やっぱお姉様はお嬢様なんだな~」
風呂場はお姉様がいないから、少しだけ……ほんの少しだけ寂しかった。
まあ、こんなこと言ったら、お姉様にいじられそうだけど……
頭の中が湯気でぼやぼやしてきた。どこかクラクラとした吐き気にも似た感覚に襲われた。
少し長湯しすぎたかな……もうそろそろ出よう。
そんなことを思っていた時だった。
「呼ばれず飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!!」
「な、何をやっているんですか!?」
「リュウ君はきっと寂しそうにしているだろうから、私が慰めに来てあげたのよ。」
ドアが突然開いたと思ったら、お姉様が飛び出して来たのだ。
幸い、お姉様は体にタオルを巻いているから、直接胸だったりお尻だったりを見えるわけじゃないけど、バスタオルに包まれた体は見事な曲線美を描いていて、お姉様の体がいかに美しいのかを言葉を使わずにカラダだけで示していた。
「出て行ってください!!お姉様はこんなところに居ちゃいけません。」
「ここ私の家のお風呂よ。そこに私が入るのは普通のことじゃない??」
「そうじゃありません!!ボクが入っているのに何で入っているんですか!?」
「え~別に良くない??私たち
「だからって、男のボクが風呂入っているところにお姉様みたいな可愛い女の子が入ってきちゃダメです!危険すぎます!!」
「私って可愛い女の子なの!?」
「当然です!!そんなお姉様がこんなところに居ちゃダメです!!すぐに出てくださいよ……お願いします……」
ボクが消え入りそうな声で頼むと、お姉様はどこかため息をついて考え始めた。
そして、突然バスタオルを床に落とした。
「お、お姉様!?何をなさっているんですか!?」
「今からシャワーを浴びるために決まっているじゃない……まさか、リュウ君はバスタオルを巻いたまま体を洗える高等戦術を……!?」
「あるわけないでしょ。そんなもの。」
「というか、リュウ君さっきから目を隠してどうしたの??」
「お姉様の体を直視できないからです……もう無理です……」
「ほら、リュウ君はそこに居なさい。ずっと目を隠して、そっちを向いたままでいいから、待ってなさい。」
お姉様はシャワーを浴び始めた。ついさっきまでボクが座っていたシャワーチェアに座ったお姉様をボクは直視できなかった。
どうしようもなくなって、ずっと前を向いたまま、鏡の方を向いたお姉様とは逆方向をずっと向いていた。
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