第36話 新たな日常





「それで金曜日はお愉しみだったの??」

 

 みじかがいつもの調子でおちょくって来た。

 月曜日の生徒会室、そこは取り留めのないいつもの日常だった。

 

 夕夏先輩は相変わらず男前でかっこよく。あやめ先輩は不思議な変人だった。

 みじかも変わらずボクとお姉様の関係をいじってくる。

 

 ただボクとお姉様はあの日以来きっと中がもっと良くなったのだろう。

 実際、学校がある山手の丘の上に登るとお姉様がいた。

 ボクがお姉様に近づいて、挨拶をするとお姉様は近づいてボクの腕にしがみついてきたのだ。

 

 周りの目など気にせずに、唯我独尊。ただ僕とお姉様だけの空間を共有するかのように腕にしがみつくと体重を乗せてボクに引っ張られる形で付いていった。

 

 そんなことをしたもんだから、廊下を歩いていたらいつもより視線を感じるし、ひそひそとボクに方を見て噂話をする女子もたくさんいた。

 

 いや、噂話をするだけならまだましだったろう。

中には直接ボクに噂の真相を確かめるべく突撃してくる子もいた。

 

 「ねえねえ、ドラ君!ドラ君!君あの赤城会長とヤッたって本当??」

 「なんですかいきなり。というか、もう少しオブラートに包んでくださいよ……」

 「え~だって別に隠すほどの物じゃないじゃん。それに私も君がようやく卒業できたのかと思うと安心できるし。」

 「処女の癖に……」

 「うぐぅ……それ言われちゃうと、何にも反論できないわよ。」

 「も~ドラ君はそんな酷いことを言う子だったの??」

 

 周りにいる友人の女の子が参戦してくる。

 どうやらみじかの友達の女の子たちみたいだ。

 

 まあ、彼女たちとはみじかとの関係である程度は親しい。

 なのでみじかでもないのにボクのことをドラ君と呼んでいるみたいだ。

 だから、こんな軽口を叩けるのだろう。

 

 ボクもこの学校に大分染まったらしい。

 今までだったら、こんな陽キャな子たちと会話すら出来ないだろう。

 

 だけど今では普通にしゃべるのはもちろん、軽口も(あれは確実にセクハラだけど)言えるようになった。

 女の子への耐性もついた。


 とはいえ、少女たちはお姉様みたいに、何だったらお姉様よりも距離感がバグっているから、たちが悪い。

 普通に体を近づけてきたり、下ネタを言ってきたりと、貞操観念がまるでないみたいに自由奔放だった。

 ただ、お姉様と違って、ドライで興味を失えばすぐに離れてしまう。

 

 そう言ったところが家に泊まらせたりするお姉様と違うのだろう。

 

 「私たちはただドラ君が赤城会長とどんなことをしたか気になってるだけよ。」

 「別に普通のことですよ。あ、オムライスが美味しかったです。」

 「オムライス食べたんだ!赤城会長のことは食べたの??」


リズミカルにそんなことを聞いてくるから、ふと、『はい』と答えてしまいそうになる。

 

 「食べてません。そもそもボクとお姉様は義理姉妹でそんな関係じゃないです!!」

 「あれ、知らないの??義理姉妹でそう言う関係になってる子結構いるよ。」

 「……そうなんですか??」

 

 今まで少し息をひそめていた百合オタクとしての本性が疼きだした。

 義理姉妹で一緒にエッチをする。

 それはきっと尊い響きがするのだろう。

 

 その子に誰がしているのかとかの具体的な話を聞いた。

 そしてボクはその子を見るたびに顔を赤らめた。

 

 まだ男性経験がない子にはいつかきっと彼氏が出来るといいよと、お祈りした。

 

 と、そんな時だった。

 

 「ちょっと、あーしのドラ君に何しているの??」

 「別に何も……ただ赤城会長と楽しんだかどうかをねっ。」

「も~そんなことあーしがあとで聞いて教えてあげるのに。」

 「え~めんどくさいじゃん。」

 「そうそう。」

 「黙らっしゃい。あーしの目の前でどうだったか一緒に聞かれる聖愛ちゃんとドラ君。最高じゃない!!」

 「……確かに。」

 「というわけで、あーしが聞いといてあげるから。じゃあ、行くよ。」

 「え、あっ!?」

 

 と、そんな感じで無理やり引き釣り出されて生徒会室に連れて行かれた。

 

 生徒会室はいつも通りの日常の時間が流れていて、ボクは安心した。

 でも、お姉様の距離はいつもより少し大きく開いているような気がした。

 

 ふと見ると、みじかにボクとのお泊り会のことを聞かれて耳を赤らめていた。

 

 ボクはそんなお姉様を見つめると、いてもたってもいられなくなった。

 そして気づいた時にはお姉様の手を握って、そのまま抱き着いていた。

 

 「珍しいわね。リュウ君から私の方に抱き着いてくるなんて……あれだけ強情だったリュウ君が私にデレてくれる……頑張って耐えた甲斐があったものね。」

 「別にただ何となく、お姉様が寂しそうだったらボクから抱き着いてあげただけですよ~」

 「うふふ。強情なところはあんまりまだ変わってないのかもね。」

 

 ボクとお姉様が喋って、夕夏先輩とあやめ先輩は何かの書類を処理している。

 そしてみじかは、ボクたちの間に入って来た。

 

 「ねえ、聖愛先輩。ドラ君と一緒に家に泊まったんだから、あーしにも時間をくださいよ。」

 「え~でも、リュウ君は私の義妹だから一緒にいただけで……」

 「まあ、とにかく一緒に行きたいところがあるんですよ~あーしが先輩のことをリードしてあげるんで、一緒に来てくれません??」

 「そこまでしていきたい場所があるの??」

「ここの遊園地生きたいんですよ!!」

 

 そう言ってみじかはスマホを指さした。

 画面にはドラマの撮影とかで有名な遊園地が写っていた。

 そこは母さんと昔よく行った場所だった。

 

 「ああ、ここの遊園地ね。私言ったことないから少し気になっていたのよ。」

 「そうなんですか!?だったら、一緒に行きましょうよ。聖愛先輩とあーし遊園地回りたい。」

 「しょうがないわね。いいわよ。」

 

 お姉様とみじか。この二人が遊園地に行くことを決めた瞬間だった。

 本来ならば嬉しいはず、でも、ボクの心の中ではなぜか何か崩れ去るような音がした。

 

 それはまるで砂の城が崩れ去る様に一気に全体が欠けるように消え去って行った。


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