第37話 お姉様の義妹
「お姉様、結局みじかと一緒に遊園地行くんですか??」
「ええ、今度の土曜日に。リュウ君とお泊りした補填だって。面白いわよね。」
手を叩きながら、スマホの画面を見ている。
どうやら遊園地でどこを回るのか探っていた。
ボクはそんなお姉様を見て、ものすごく嫌な気分になった。
どす黒くて醜い感情。なぜだか湧き出てしまう、嫌な感情。
そんな酷い嫉妬の炎に全身が包まれた。
お姉様とみじかが一緒に遊園地に行く。
それはボク自身が望んでいたことだった。それなのに嫌な気分になる。
今まではあれほどまでにボクを遠ざけ、お姉様とみじかの距離を詰めようとしているはずなのに・・・・・・近づけることが出来た瞬間、こんなにも嫌な気持ちになるものなのだろうか??
お姉様に遊園地に行って欲しくない。
いや、それは違う。
お姉様とみじかが一緒にどこか行って欲しくない。
なんでこんな気分なんだろうか……
『聖愛先輩~次はあっちのメリーゴーランド行きましょうよ』
頭の中でいつもの制服ではない、私服のみじかがお姉様に話しかけていた。
バカめ。メリーゴーランドを勧めるなんて、お姉様の本性を知らない。
お姉様はきっとメリーゴーランドのような穏やかな乗り物なんて好むわけがない。
ジェットコースターのような小さな男の子が好きそうな物こそが、お姉様が好きなものなのだ。
『え~私、ジェットコースター乗りたい!!』
頭の中のお姉様も、そう言っている。
そしてお姉様はそのままジェットコースターの方向へと体を向ける。
なぜかお姉様はあの日、ボクと一緒にパンケーキを食べた日の真っ白なワンピースを着ていた。
『聖愛先輩~!!これ食べましょうよ。きっとおいしいですよ。』
みじかが可愛らしいキャラクターをモデルにしたお菓子を指さしていた。
辺りにはお姉様とみじかみたいに女の子同士で一緒に遊園地にきた子たち。恋人と一緒に彼女が楽しそうに食べている中、彼氏はあまり興味無さそうだけど、彼女が笑顔だから彼氏も笑顔になっている。
他にも、緊張した面持ちで彼氏が彼女にお菓子を勧めていたりと、多種多様な光景が浮かんでいる。
多分みじかはこうしスイーツを遊園地で食べるのが好きなのだろう。
実際、みじかとお姉様の話を聞いていると、みじかは好きなアニメとのコラボイベントに行きたいらしく、限定スイーツとかも食べたいみたいだ。
でも、きっとお姉様はそう言ったものに興味ないだろう。
いや、正確に言えば興味がないわけでは無い。お姉様はパンケーキがボクと一緒に食べるくらいには好きだ。
他にも学校でみじかや夕夏先輩が持ってきたお菓子を普通に食べている光景は結構見る。
でもだからといって、お姉様が限定スイーツを食べたいと思っているかと言えばそう言うわけではない。
お姉様はきっとその時の気分によって決まるのだろう。
つまりはその時、食べたいと思っているものを食べるのだ。そして、みじかの性格的に少し遊び疲れだした、お昼ご飯のちょっと前か、少し後くらいに食べるのだろう。
きっとその時のみじかは限定スイーツを食べたくて仕方がないだろう。
でも、お姉様は違う。
お姉様は先だったらお腹がすいているし、後だったら食べ足りなくてお腹がすいているのだろう。
だから答えは照り焼きチキンだ。
もちろん、100%照り焼きチキンだと言えるわけではないけど、その遊園地では照り焼きチキンが有名なご飯だし、小腹がすいたお姉様にはきっとそれを食べたいと思って手を伸ばすのだろう。
ああ、やっぱりお姉様のことを理解しているのはボクだ。
断じてみじかでもなければ、夕夏先輩でもなく、あやめ先輩でも、ほかの誰でもない。ボクだけがお姉様のことを一番知っているのだ。
だから……お姉様のそばに居たい。ずっとそばに居たいのだ。
お姉様がボクじゃない誰か、それがたとえみじかの様な身近な存在だったとしても譲りたくない。
ボクの隣にはお姉様が必要なのだ。
とはいえ、ボクにもプライドと言うか、威勢と言うものがある。
ボクはお姉様のことを愛してはいけない。
義妹として存在することさえも本来ならば間違っていることなのだ。
ボクはお父さんの様になってはならない。
母さんを悲しめないように……
『リュウちゃんはお父さんみたいになっちゃダメよ……』
母さんの言葉が頭の中にこだまする。
常識的に考えたら、お姉様のことを考えたらボクではない、みじかとお姉様の2人こそが結ばれるべきなのだ。
入学した時の気持ちが浮かび上がってくる。
誰とも女の子とは付き合わず、強い精神でこの私立聖メリア女学院に入学してくる男猿どもを排除し、女子同士の恋愛をサポートする役割に徹するって決めていたはずだ。
それなのに今や、お姉様に近づこうとするみじかに対して嫉妬心を燃やしている。
ミイラ取りがミイラになるとはこのことだろうか??
入学時に建てた誓いすら簡単に破ってしまおうとする、やっぱりボクは意気地なしみたいだ。
これではボクは忌み嫌っていた男猿と同じ存在じゃないか!!
・・・・・・でも、
理屈では言い表せない。
お姉様の義妹でいたいというただそれだけの純粋な気持ち。そんな甘ったるい子供じみた幻想に今のボクは浸ってしまっている。
ボクにお姉様は不相応なのだ。
いつか必ず、お姉様はボクの目の前から去っていく。
そんなことは理解しているはずなのに、お姉様を求めてしまう。
自分のことをもはや律することが出来なくなりつつある。
自分自身では、ボクの理性がお姉様から離れなくてはいけない。お姉様に近づいてはいけないのだと、警報音を何度も何度も鳴らしている。
でも、ボクの感情はお姉様を求めてしまう。
ボクが女の子になってお姉様の本当の義妹になるとか言う、滑稽な計画すら立ててしまうほどには、ボクはお姉様のことでいっぱいみたいだ。
ああ、お姉様、お姉様。どうしてボクは女の子に生まれなかったのでしょうか??
お姉様の真の義妹になりたかった……
「それじゃあ、もうそろそろ6時だし、帰ろうよ!!」
あやめ先輩の声だけが、虚しくボクの耳へと入っていった。
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