第38話 お姉様は遊園地
今、この時間にお姉様がみじかと一緒に遊園地に行っているのだと思うと、ヤキモチする。
時刻を見てみると、10:32。今日は土曜日だから、大分遅くまで眠っていた。
昨夜は、お姉様とLINEしていた。ベッドに入って、スマホを開いてLINEでずっと話してた。
リュウ:お姉様、明日が楽しみ過ぎて眠れないんじゃないんですか??
聖愛:よくわかるわね。全くもって眠れないわ。
リュウ:確かに今もこうして起きていますもんね。
聖愛:まるでコーヒーでも飲んだ後みたいに目がしゃっきりしているわ。
リュウ:お姉様、コーヒー飲めたんですね。
リュウ:……そうですよね。お姉様がコーヒーを飲めると思っていたボクがバカでした。
聖愛:分かればよろしい。
リュウ:そう言えば、明日はどれ乗るつもりですか??
聖愛:そうね、ジェットコースターには乗りたいわ。
リュウ:ジェットコースターですか。やっぱりそうですよね。ボクお姉様がきっとジェットコースターに乗りたいってみじかに駄々こねてみじかが困惑する様子が頭に浮かびます。
聖愛:やっぱりリュウ君は私のこと、舐めているわよね。
リュウ:にゃん……??
聖愛:こいつ……
寂しさを埋めるみたいに、ずっとお姉様と話していた。
どうでも良い事だったり、明日の遊園地のことだったり……
お姉様に遊園地に行って欲しくないはずなのに、遊園地の話をして、盛り上げてしまった。
それはきっとお姉様の義妹として自覚だったり、お姉様に楽しんでもらいたいという自分を抑えた気持ち。
いや、むしろ自傷行為にも似た何かかもしれない。
自分を傷つけてでも、お姉様と話していないとボクの心がどうにかなりそうだったからだ。
他愛のない話をしている中、ボクの頭にはずっと一つの言葉が浮かんでいた。
『お姉様、みじかと行かないでください……』
ベットの中で、何度も入力しては消した。
そして結局そのまま眠ってしまった。
時計を見るとお姉様とみじかのことを思い出してしまうから、出来る限り見ないようにしていた。
でも、気になってしまってお姉様にLINEを送ってしまう。
リュウ:お姉様、遊園地楽しいですか??
何分経っても、既読が付かなくて、きっとお姉様は楽しすぎてスマホも開けないんだろうと思うと、なぜか悲しくなって来た……
取りあえず、シャワーを浴びよう。だから風呂場に行った。
お姉様の家のお風呂場と違ってマンションの一室の風呂場はたいして広いわけでは無い。
浴槽で足を伸ばすことも出来ないし、全くもって広くない。
でも、これが普通なのだ。
普通の家はお姉様の家みたいに広いわけでは無い。
人間が2人浴槽に入るのはなかなかきつい。
シャワーを浴びながら、水の入っていない乾いた浴槽を見るとお姉様のことを思い出す。
お姉様の感触、お姉様の温かみ、お姉様の柔らかさ。
すべて何一つ欠けることなく覚えている。
あれだけ優しかったお姉様が、今はみじかと……
バンッ!!
手がジンジン痛む。
嫌な事を思い出さないように、壁に手を叩きつけた。
痛みですべてを消してしまいたかった。でも、全くもって頭がクリーンにならない。
ボクの頭の中にはみじかとお姉様が遊園地で楽しんでいる様子が、鮮明に映画みたいに浮かび上がってくるのだ。
消したくて消したくて仕方がない。
でも、消せない。
どれほど、消したくても消せないのだ。
まだ手は痛む。
それでも、時間は過ぎて行くのだ。
「嗚呼ぁぁ!!クソッッッ!!!」
怒りをぶつける様に、怪獣の
そして怒りに任せながら、体に滴る水を拭きもせずに脱衣所へと駆け出した。
地団駄を踏みながら足拭きマットの上に立つと、髪の間から滝のような汗なのか、涙なのか、温水なのか分からない液体が降ってきた。
「お姉様、お姉様、どうしてみじかと一緒に……他の女と一緒に遊園地に行ったんですか……ボクは……お姉様の笑顔を他の女が見ていると思うと嫉妬でおかしくなってしまいそうです……」
濡れた髪も体も全く持って気にならなかった。
脱衣所の鏡に向かってとにかく叫び続けた。
幸いにして、母さんは今日もパートで家にはいないから、この咆哮を聴く者はこの家にはいない。でも、マンションの壁は厚いわけではない。もしかしたら、他の部屋の住民に聞かれてしまうかもしれない。
そんなことが頭に浮んだけど、もはやどうでもよかった。
お姉様がみじかと一緒にいるという事実だけが、ボクの心にドス黒い空白を生み出していた。
だけど……
これを望んでいたのはボクで、そうやって今まで種を植えてすくすく育てて、ようやく収穫寸前となったのに……
なんでこんなにもお姉様とみじかが結ばれるのが嫌なのだろうか??
いや、そもそもボクにはその資格がないのだ。
シャワーを浴びたばかりで、ボクには男を男たらしめるシンボルがついている。
なんでこんなものがついているのだろうか?
これさえなければボクは義妹になれるのに……
こんなものがあることが本当に嫌で嫌で仕方がない。
受け入れなくてはならない運命であるはずなのに、こんなにも運命を呪ったことは初めてだ。
ああ、お姉様お姉様。どうしてあなたはボクのそばから逃げ出そうとしているのですか?
ええ、分かりますとも、ボクが男の子だからですよね……
ボクが大きな叫び声を出して壁を叩いてしまう男の子だからですよね……
もしも……ボクが女の子に生まれたのだったら・・・・・・
お姉様に送ったLINEはいまだに既読が付いてなかった。
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