第35話お泊り会⑫ お姉様と添い寝

 

 

 

 

 ボクの膝の上には緑色のゴムでまとめられた聖愛の長くて真っ直ぐな髪。

 艶めかしくて、美しい。

 

 白いLEDの光でも輝いていて、黒く光る髪の毛の明暗がはっきりと見ることが出来た。

 どうして聖愛の髪の毛は、お姉様の髪の毛はこんなにも素晴らしいのだろうか。

 

 スパゲッティーの様に口の中に吸い込んで食べてしまいたい。

唾液でぐしゃぐしゃになった髪もきっと聖愛の髪は美しいのだろう。

 

 口元に吸い込まれていく聖愛の柔らかくてミルクの香りがする髪。

 口の中でバラバラになった髪の毛が舌先と一緒に絡み合って毛の隙間へと入り込んでゆく。

 

 プラスチックみたいに硬いボクの前歯でゆっくり優しく、傷つけないように噛むと口の中に甘酸っぱいお姉様の味がきっと広がるのだろう。

 

 乾いた髪を唾液で汚して、そのまま広げる。

 上から順番に下まで舐めまわす。

 

 髪を擦りこむようにして舌を使う。

 髪の毛のじょりじょりとした感触でいっぱいとなる。

 

 「お兄ちゃん、今ヘンなこと考えているでしょ。」

 「な、なにを言ってるの……??」

 「お兄ちゃん、今変なこと考えている眼してた。聖愛分かるよ、だってお兄ちゃんのこといつも見てるんだもん……」

 「……そうなんだ。嬉しいよ。」

 「ねぇ、お兄さま。聖愛でどんなこと考えてたの……??」

 「それは……」

 「……しッ。言わなくても分かるわよ。だって、お兄さま聖愛の髪じっと見ているもん。」

 「綺麗だからね。聖愛の髪。」

 「綺麗な髪を見ている眼じゃなかったわ。まるでそう、頭の中で変なことを考えながら見ている眼だったわ。」

 

 どうやら聖愛にはすべてがお見通しだったらしい。

 まあ聖愛の綺麗な髪を見れるんだったら別にどう思われていても関係ない・・・・・・わけではないけど、聖愛の、お姉様のそばでただ存在できればいい。

 そう思った。

 

 

 

 「じゃあ、また学校でね!!元気にリュウ君。」

 「昨日はありがとうございました。」

 

 玄関を出ると強い日差しに見舞われた。

 でも、気持ちがいい日差しであんまり嫌な気分ではなった。

 

 あの後お姉様と一緒に眠った。

 いや、正確に言えば寝落ちしたボクをお姉様が一緒に添い寝してくれたのだ。

 

 お兄さまと呼ばれてお姉様に上目遣いで迫られて……

  

 ボクの心は平穏を保つための努力をすることで精一杯だった。

 そして、最終的にそのことが祟ったのか、疲れてしまった。

 

 目がほわほわとしてきて、気づいたら眠ってしまっていた。

 

 『リュウ君、大丈夫??眠かったら、こっちで寝なさい。』

 『ふぁぁぁ……す、みましぃ……ん……』

 『ほら、こっちよ。私の腕に捕まって。』

 

眠気で頭がクラクラしながら壁に寄り掛かっていると、お姉様が優しい声でベッドへと誘導してくれた。

 お姉様の柔らかい腕に捕まったまま、連れて行かれてベッドで眠った。

 

 両手でまるで木に捕まるみたいにお姉様の腕に寄り掛かって引っ張られた。

 ベッドに連れて行かれると、死んだみたいにそのまま眠った。

 

 消えかかる意識の中でここがお姉様のベッドだということが何となく理解できた。

 けど、もうその時は朦朧としていて、倫理観だとか、みじかとお姉様のことだとか、何にも考えられなくて、野生動物の様に思うがままの行動しかできなかった。

 

 お姉様のベッドはフッカフカだった。

 まるで雲の上で眠っているみたいでスヤスヤ眠っていた。

 

 『リュウ君ネムネムしたい見たいね。そのままぐっすり眠ってなさい。可愛い私の義妹、リュウ君おやすみなさい……』

 『お姉、様……おやすむ、なさい……』

 

 脳みそがもうシャットダウンしようとしていて、少しずつ目の前が真っ暗になって行く。

 そんな中で小さな音が耳に入って来た。

 

 『リュウ君が私のベッドのなかに……ウフフ。あとで一緒に……』

 

 そして目が覚めたらとなりにはいい寝顔でぐっすり眠っているお姉様がいた。

 一瞬甲高い悲鳴が出そうになった。でも、喉仏のところで無理やり止めた。

お姉様が眠っている。そう思うと声を出せなかった。

 

 それからはお姉様を起こさないようにそっとベッドから出ると下へと降りて行った。

 お姉様の家だから、勝手にすることは出来ない。だけど、水を貰うくらいはいいだろうと思って、水道の蛇口をひねると、手で器を作って飲んだ。

 

 それからお姉様が起きてきたのはしばらくしてからだった。

 

 『リュウ君どこ……私のリュウ君どこ……』

 『ここですよお姉様……』

 『嗚呼、リュウ君がいた!!』

 『ちょっと、抱き着かないで!!』

 

 やっぱりいつもの日常が戻って来た気がした。

 それから、お姉様と一緒にご飯を食べて服を着て家に帰った。

 

 時刻は朝の9時となかなかにいい時間だ。

 

 

 

 家に帰ると、母さんに昨日のことを聞かれたが、適当に返事をしてごまかした。

 流石にお姉様と一緒にお風呂に入ったこととかは言えない……

 

 ボクの部屋に入って椅子に座ると昨日のお姉様の部屋を思い出した。

 お姉様の広い部屋と違ってマンションの一室のこの部屋は小さくて、立てば頭がぶつかる二段ベッドの一階部分を取り払って机を置いている。

 

 お姉様のベッドと違って硬くて狭い。

 それも横だけではなく、高さまで狭いので、気を付けないと天井に頭をぶつけてしまう。

 

 そんな部屋でたいして柔らかくもない椅子に腰かけると昨日のことを思い出した。

 まるで走馬灯のようにオムライスや漫画にお風呂、そしてお兄さまごっこ。忘れないように噛みしめて振り返った。

 

 そして思った。

 お姉様の義妹で良かったと。

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