第34話 お泊り会⑪ お兄さまと良い香の髪

 

 

 

 

 お姉様が上目づかいでこっちを見て来て、小さな声で『お兄ちゃん……』と呼ぶ。

 

 それは途轍もない破壊力でボクの心は一瞬放心状態になった。

 もはや口から言葉が漏れもせず、ただお姉様。いや、聖愛は可愛かった。

 そして庇護欲にそそられた。

 

 まるでチワワみたいに愛嬌があって、抱きしめたくなった。

 

 「おにいさま一体どうしたのですか??わたくしのことを見てください!!」

 「ああ、お姉様ごめんなさい……じゃなくて、すまない。」

 「もう!!お兄さま、誰なんですか!!そのお姉様とかいう変な人のことは放っておいて、わたくしに構ってください!!」

 「分かった。分かった。聖愛は何したいか??」

 「聖愛は!お兄さまとギューしたい!!」

 「聖愛はハグ好きだよね。」

 「えぇ!!だって聖愛、お兄さまをハグすると、いい香りで触り心地がよくてポカポカした気持ちになるの。お兄さまもハグ好きでしょ!!だから聖愛、お兄さまともっとハグしたい!!」

 「ああ、ボクもハグ好きだよ。特に聖愛は可愛いし、すぐに抱き着いてくるから大好き。」

 

 お姉様、いや、愛おしい我が義妹の聖愛は初っ端からエンジン全開でやって来た。

 どこかあどけない感じのする声で話しかけてきたと思ったら、突然一人称を普段の『わたくし』から、“聖愛”に変えてきた。

 

 聖愛・・・・・・その呼び名はどこか幼い感じを残していた。

 

 まるで本当に小さな子供の様にボクに甘えて来て、ハグを要求してくる聖愛は放っておけない手のかかる子供みたいで可愛かった。

 

 普段あれだけ凛々しく立派で、でも少しお馬鹿で抜けているところがある赤城会長。彼女はボクのただ一人のお姉様だ。

 お仕置きだとか言って、ボクにお姉様と呼ばせたり、突然夕夏先輩と喧嘩したり……

 

 そんなお姉様がどうしてこんなにも愛おしいと思えるのだろうか??

 

 まるで本当に聖愛の兄になった気分で見つめていた。

 

 「お兄さま!!構って構って!!聖愛、お兄さまに構って貰わないと暇すぎて死んじゃう!!」

 「ああ、ごめんごめん。聖愛のことしか見てないから大丈夫だよ~!!」

 「むぅ~お兄ちゃん嘘ついてる。聖愛分かるもん。さっきお兄さまお姉様とか言う別の女の子と考えていたでしょ。」

 「……ッ!?せ、聖愛のことしか考えてないよ。」

 「……お兄さまのウソつき。」

 

 ちょっと間が空いたからだろうか。

 聖愛はボクが別の女のことを考えていて、そのことを咎められて間が開いたのだと思っているのだろう。

 

 にしても、聖愛はまるで本当にボクの義妹になったみたいに演じていて、これがあのお姉様と同一人物なのだという事実が信じられなかった。

 

 まあ、とにかく今は聖愛のことをあやすしかない。

 取りあえず、ボクは聖愛を可愛がろう。

 

 「ほら、お兄ちゃんだぞ!!」

 「お兄さま~~!!聖愛お兄さまとのハグ好き。」

 「ボクも聖愛とのハグ好きだよ。聖愛の体は温かくて、柔らかくて、それでいて……ハグした時に安心感がもらえる。」

 「そんなまじまじ見て言わないでよ……さすがに聖愛恥ずかしい……」

 「大丈夫、可愛いから恥ずかしがる必要ないよ。」

 「……そう!?」

 「ああ、もちろんだとも。」

 

 聖愛をハグすると、モフモフの寝間着に包まれた聖愛の体がボクの体と密着した。

 ボクはクリーニングしたての清潔感溢れる寝間着を着ていたけど、聖愛は日常的に使う服を着ていて、抱き着いた時に蒸し饅頭みたいに柔らかい聖愛の体を余すことなく、表現するのにピッタリの服だった。

 

 ……でも。

 

 「お兄さまどうしたの??聖愛何か悪い事した??どうして急にハグするのを止めたの??」

 「……やっぱり聖愛じゃなくてお姉様の体です。どれだけ背が小さくてもお姉様はもう女子高生で女の子と女性の中間です。それなにこんな風にハグはできません……」

 「どうして……今まで私が抱き着いてもリュウ君は受け入れてくれたじゃない……」

 「それはお姉様が一方的に抱き着いてきただけです……ボクはボクからお姉様に抱き着くことは出来ません……」

 

 お姉様にはボクから抱き着くことは出来ないと言ったけど、実際はつい最近までは出来てたはずだ……

 お姉様と一緒に入ったお風呂。あれ以来心がドキドキして仕方がない。

 

 お風呂で見たお姉様の肉体は完全に女性へと成長していた。

 

 もちろん背だったり成長していない部分もある。でも、お姉様の体からは大人の匂いを少しずつ放って来た。

 

 そして明らかに女性な部分。

 そこは完全に成長しきっていて、心は別としても体は女の子から女性になろうとしているのだと嫌でも理解させられた。

 

 そうした中でお姉様と義理兄妹ごっこ。

 

 どこか背徳の響きすら感じるその行動で正気を保てるとはとうてい思わなかった。

 

 「じゃあ、お兄ちゃん。さっき聖愛言ったよね。お風呂上がりのいい香りがする髪をかがせてあげるって……膝の真ん中に座りたいからあぐらかいて。」

 「……本当にいいの??」

 「もちろん……!!だって、お兄ちゃんだもん。聖愛、お兄ちゃんだったら何しても許しちゃい!!」

 

 ボクがあぐらをかくと、座ろうと本当に聖愛がボクの座った床へと近づいてくる。

 

 「お兄ちゃんのお膝の上、失礼しま~す。」

 「ついさっきまで聖愛を膝の上に乗せていたはずなのに、まるで初めて聖愛を膝の上に座らせるみたい……」

 「えへへ。それだけ聖愛がお兄ちゃんにとって魅力的だってことだよ・お兄ちゃん大好き。」

 

 ボクがお風呂でお姉様にしたように、あぐらをかいたら、膝の上にお姉様が座った。

 

 すると、髪からいい香りが漂って来た。

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