第33話 お泊り会⑩ お部屋でお兄ちゃんごっこ
ボクはお姉様の部屋で涼んでいた。
部屋にあった椅子に腰かけ、窓を全開にして空気を取り込んだ。
夏が少し近づいた7月の気温。それは蒸し暑くて折角さっぱりとしたはずの体にはマッチしないけだるい暑さだった。
風呂場から逃げ出して、ボクはいろいろ溢れだしそうな感情があふれ出ないように我慢しながら椅子に座りこんでいた。
このままお風呂に入っていたらきっとお姉様のことを……
自己嫌悪に陥りそうだ。
どうしてこんなことになってしまったのだろうか??
ボクはお姉様とみじかを結ぶ……そうするべきはずなのに……
なんでこんなにも息苦しいのだろうか……
ふと、夕夏先輩の言葉が頭に浮かぶ。
『だったら女の子になってしまえばいい。』
その言葉が頭からずっと離れなかった。
お姉様の本当の妹に……
確かに毎日お姉様のスカートを穿いて、最近は女の子に囲まれている状態で女の子よりも女の子っぽいと、言われることも多くなった。
でも、だからと言ったって……
スカートを穿いて、長い髪をたなびかせ、お姉様に抱き着いて甘える。
そんな女の子に……
なりたい。
でも、きっとなれない……
苦しみで頭が狂ってしまいそうになっていたら、ドアが開く音がした。
「急に出て行ったからびっくりしたけど、リュウ君ちゃんとお風呂入れた……??まだ入り足りないようだったら、また入って来てもいいわよ。さすがに次は私は入って行かないわよ。」
「いえ、全然大丈夫です……ただ、ちょっとお姉様と一緒にいると辛かったから出て行っただけです……」
「・・・・・・リュウ君私と一緒に入るの苦痛だった??」
「そうじゃありません!!お姉様が美しすぎるから……美しすぎて、すぐにでも手に取ってしまいたくなるから……ボクは耐えれなかったんです……」
「……そうなの。まあ、私って綺麗だから。しょうがないわよ。」
お姉様の顔はどこか笑顔だった。
ドアを開けて入って来たお姉様はモコモコのピンク色の寝間着を着ていた。
そしてまだ乾ききっていない髪を一本にまとめてこっちへとやって来た。
部屋に戻るまで結構な時間があったから、たぶんもうパックだったりのセット一通り済ませたのだろう。
実際、お姉様の肌は普段の何倍にも輝いていた。
「ねえ、ふと思ったんだけど、リュウ君と私って身長差結構あるわよね。」
「そうですね……ボクが170㎝でお姉様が140㎝だから30㎝くらいありますよね……でも急にどうして」
「お風呂でリュウ君の膝の上に座っている時にふと思ったのよ。リュウ君ってやっぱり背が高くて私の顔を見下ろしているじゃない。だからまるでお兄様みたいだな~と思ったのよ。」
「お兄様……」
「そう。普段は私がお姉ちゃんでリュウ君が義妹だけど、今日この瞬間だけは私が義妹でリュウ君がお兄様。どうかな??」
「ボクがお兄様……」
ボクがお兄様……お姉様ではなくお兄様……
分かってはいたけど、ボクは女の子ではなく男の子なのだ。
その変えようのない事実が頭の中でこびり付いた汚れの様に引っ付いていて、ボクの頭をクラクラさせる。
それはまるでワインで酔っ払ったかのような夢遊感で満たされていた。
お姉様は意地悪でこんなことを言ったはずではない。
実際にお姉様の顔は笑顔でボクをお兄様にしようとしている。
さらに言えばこの女の子になりたいかもしれないという感情は、まだお姉様に伝えていない。
だから、お姉様に求めるということは酷だ。でも、お姉様にはどうしても甘えてしまう。求めてしまうのだ。
「リュウ君、それでどうかな??私リュウ君のことをお兄ちゃんとしてちょっと扱って見たい。」
「……分かりましたいいですよ。」
いろいろな感情が交差しまくってもうよくわかっていなかった。
だから、もうどうにでもなれと思ってとりあえずお姉様の提案を受け入れてみることにした。
それにいつもの調子だったら、どうせ断ったところで最終的にはお姉様がやりたいようにやるんだろう。
それだったら、一思いに受け入れてしまった方が楽だ。
「それでお姉様、何をするんですか??」
「普段の逆をしましょう。つまりリュウ君が私のことを義妹扱いして、私がリュウ君のことを本当のお兄ちゃんのように扱うわ。」
「普段の逆ですか……そうですね。ボクがお姉様このとを義妹としてあやしたりとかですかね……??」
「そうね、リュウ君は今から私のことをお姉様と呼んではいけません。これからは聖愛と呼びなさい。それで私はリュウ君のことをお兄ちゃんだったりお兄様だったり呼ぶから、本当の義妹の様にあつかってよね。」
「それはもちろんです。」
「じゃあ、ここに座って。私から話しかけるから、そしたら義妹として扱ってね。」
「分かりました。」
お姉様に両手を引きつられて、床に座る。
ボクはあぐらをかいたまま座っていて、お姉様は四つん這いの状態で近づいてくる。
お姉様の髪の毛のうなじが目に入ってくる。それに床に触れそうで触れないピンクの寝間着にいい香りを放ちながら無防備な胸元を見せながらボクの方へとやって来た。
やっぱりお姉様は美しい。
見るたびに美しさに気付いてしまう。
飽きることは無くて、どれほど見渡しても汚いところなんて何一つなく、すべて美しかった。
「お兄ちゃん……」
ボクの心は崩れ落ちた。
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