第32話 お泊り会⑨ お風呂とお腹




 

 お姉様をボクの膝の上に乗せている。

 その事実はボクの頭の中を混乱させるのには十分すぎるほどの爆弾だった。

 

 「どう?私の体は軽くて柔らかくて……最高でしょ。」

 「そうですね。乗せても気にならないほど軽くて小さいですね。」

 「も~リュウ君は本当にすぐそう言うこという~……これじゃあきっと女の子にモテないわよ。」

 「別にモテなくていいですよ~ボクにはお姉様がいますから。」

 「………ッ!!」

 

 お姉様の顔は少し赤らんでいた。

 そして急に黙ると、しばらくボクの薄い胸板に頭を当てると、そのまま擦りつけてきた。

 

 少しこしょばったい。

 変な気分だ。お姉様の髪がボクの体に擦れてそのまま嫌がらせみたいにくねくね蛇みたいに頭を擦りつける。

 

 「お、お姉様止めてください……!!ちょっとキツイです!!」

 「後輩なんだから、少しは先輩が頭を当てて休んでいるんだから耐えなさい。」

 「じゃあ、うねうね動かすのやめてください。髪が当たって辛いです。」

 「リュウ君の胸板。触り心地がいいのよ。だからしばらくやらせないさい。」

 「そうですか……」

 

 ボクは諦めることにした。

 お姉様のこういうわがままは正直何をやっても解決しない。出来ることはそう……必死に耐えることだけだ。

 

 ふと下を見る。

 そこには猫みたいに緊張の解けた顔でほっぺたをスリスリとボクの胸板に当ててきているお姉様の顔があった。

 

 当然のことだけど、お姉様は何も着ていなくて、全身はお風呂の水で滴っている。お姉様自慢の髪もシャワーの水ですっかり水浸しになっている。

 きっと、絞れば雑巾みたいにたくさん水が降ってくるのだろう。

 

 全身の体の肉付はあまりいい方だとは言えない。

 シャープなスッキリとしたお姉様の体は彫刻家が創り出した代表作の彫像だと言っても過言ではない。いや、お姉様は神様がきっとお姉様のことをおつくりになられたんだ。

 この世の中にお姉様のような美しい人間を生み出し、きっと世界をもっと彩ろうとしているのだろう。

 そうに違いない。

 

 「リュ、リュウ君……??ちょっとつかむ力強すぎるよ……痛いわ。」

 「あ、お姉様!?ごめんなさい。そこまで強く握ったつもりは無いんですけど……」

 「お腹のところにリュウ君の腕が食い込んで……私のお腹、柔らかかったでしょ。」

 「確かに柔らかいですね。ぷにぷにで……」

 「ティ!!ちょっと私のお腹を揉まないの!!これは脂肪じゃなくって内臓だから!!」

 「そうなんですね。触り心地のいい内臓なんですね。」

 「デリカシーがないわね。これでも私36㎏なのよ!!」

 「……36㎏……140㎝で36㎏。そうですね。若々しい体形でいいと思います。」

 「絶対今小学生、いや幼稚園児みたいな幼児体形しているなコイツって思ったでしょ!!」

 「ソ、ソンナコトアルワケナイジャナイデスカ!!」

 「棒読み!!」

 

 どうやら築かないうちにお姉様のお腹に腕が食い込んでいたらしい。

 ボクは正座してお姉様がその上に座って、その上から両手でジェットコースターの安全バーの様にがっちりと握りこんでつかんでいた。

 一応、ある程度の隙間は空けておかないといけないという常識はあったので開けていたが、気づかないうちに徐々に狭くなっていって、最終的には食い込んだみたいだ。

 

 お姉様に指摘されてそのことに気付いた。

 それからすぐに開けたけど、ちょっと意地悪した。

 

 お姉様のお腹を軽く一握りして、つまんでみた。

 

 当然のことながら、チーズのように伸びるわけでは無い。

 お姉様のお腹は柔らかい感触を残しながら、少しだけお腹は引っ張られた。

 ぶっちゃけた話を言えばきっともっとぷにぷにで柔らかい人はいるのだろう。

 

 でも、それはきっとお姉様のように芸術的な美しさではない。むしろただ触り心地だけがよいだけの存在かもしれない。

 それに比べたら、お姉様はスレンダーで触り心地はあまりいいわけでは無いかもしれない。だけど、美しい芸術的な肉体がお姉様の肉付きなのだ!!

 

 ああヤバい。頭が壊れてしまいそうだ。

 

 お姉様は生まれたままで、ボクもありのままなのだ。

 

 「リュウ君の体はやっぱり硬いわ」

 「そりゃ、男の子ですから……」

 「でも、そんなリュウ君が私は好きなのよ。」

 「……嬉しいです。」

 

 お姉様に褒めらるのはやっぱり嬉しい。

 ボクにとってもはやお姉様は大切と言うレベルを超えている。もはやなくてはならない、愛していると言ってもいいレベルにまでなってしまっているのだ。

 

 ボクの脳内にはお姉様に出会ったあの時のピアノの音色、一緒に行ったデートで食べたパンケーキの味。そしてあの時着させられた服。

 当時はお姉様とみじかが姉妹になるだろう。ボクとお姉様が姉妹関係を結んだのは一時の気の迷いで、すぐに捨ててくれるものだと思っていた。

 

 ぶっちゃけて言えば当時のボクはきっとお姉様のことを何も知らなかった。

 だからこそ舐めていたのだろう。

 

 その代償を今支払おうとしている。

 

 ……そう。こんなにも今すぐ両手でお姉様を掴みたいと思うようになるとは思わなかった。

 理性を保つだけでこんなにも大変だとは思いもしなかった。

 

 お姉様の優しい体、スタイルのよくて学校中の女の子から注目される体、滑らかな曲線が描かれて放物模様の真ん中にある、小ぶりなお姉様の胸。

 

 美しいその体と、お姉様のボクのことを大切にしてくれる性格。

 包容力。

 そのすべてがボクの心から冷静さを奪い去っていた。

 

 お姉様のことをいっそのこと一思いに押し倒してしまえばどれほど楽なのだろうか??

 

 ボクの頭の中にはそんな未来が浮かんでくる。

 でも、そのたびに今までボクが守り誓ってて来たみじかの顔が浮かんでくる。

 

 そうだ。ボクはお父さんみたいにはならない。

 この世から、母さんみたいな人をもう2度と産み出さないと決めていたじゃないか!!

 

 それなのにここで、もしボクがお姉様のことを押し倒したらどうなるんだろうか……??

 

 それはきっとお父さんとやっていることが変わらない。最低な行動に違いない。

 

 ボクは今冷静じゃないんだ。

 

 だから……

 

 ボクがここでとるべき選択肢は一つだ。

 

 「お姉様、ごめんなさい。ボクはちょっともう限界みたいです……先上がらせていただきます……」

 「え、ちょっとリュウ君!?」

 

 お姉様の驚愕の声を無視して勢いよくバスルームのドアを開けた。

 そしてそのまま、閉めるとバスタオルでさっさと髪を拭って、出て行ってしまった。

 

 後ろは全く覗かなかった。

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