第7話 姉妹の儀2
「ここはね。姉妹の儀を行う場所よ。綺麗でしょ。」
窓からは横浜の海が一望出来た。丘の上にあるメリアらしい綺麗な景色が広がっていた。
「じゃあやりますか。」
右手に分厚い聖書を持った夕夏先輩がマリア様の肖像画の前に立った。
「汝、赤城聖愛は中村竜太郎を義妹としていついかなる時も慈しみ、姉妹として愛し合うことを誓いますか?」
「誓うわ。」
結婚式の夫婦の誓いのような文章に誓いを立てた赤城先輩は両手を握ってマリア様に祈りを捧げながら誓っていた。
窓から入って来た光に照らされた赤城会長は可愛かった。落ち始めた太陽の夕焼けに赤城先輩のセーラー服のセーラーカラーと背中との間は暖かそうで、ふと
「汝、中村竜太郎は赤城聖愛を義姉としていついかなる時も慈しみ、姉妹として愛し合うことを誓いますか?」
「…………誓います。」
誓うことはあまりにも短くも、あまりのも重い物だった。
誓うことを拒否することはもはや不可能だということは分かっていたつもりだった。でも、実際にその現場に立つとどうしても認めたくない、拒否したい気持ちがまだあった。
ああ失格だ。
こんな覚悟が無いのに誓いをしてしまうなんて、義妹としても百合を愛するものとしても失格だ。それに今まで何十年と伝統を紡いできた人たちに申し訳ないなとも思っていた。
「さ、誓いが終わったからスカート交換しましょうか。聖愛ちゃん!」
「いきなり公衆の面前で脱がそうとしないの。やめなさいあやめ。」
「痛っ~い!!そんな殺生な!なんて酷いことを言えるのですか!?」
誓いが終わった瞬間、突如としてスカートを脱がそうとして来たあやめ先輩に右手を振り下ろしてチョップの制裁を加えていた。
赤城先輩は脱がされそうになったスカートを付け直した。
ああそうだ。
今の姉妹の儀はスカートを交換するのだ。ってか、何度も思ったがやっぱりスカートじゃなくてズボンなのにスカート交換が成立するのだろうか?疑問は尽きない。
「じゃ、スカート交換していきますか。」
「そうね。あなた、ズボンを脱いでくださいね。そして私のスカートを交換しましょう。」
「ちょっと!何してるんですか??さっきとやってることが別じゃないですか!!」
赤城会長がいきなりスカートを脱ごうとホックに手をかけた。分厚いスカートの布がこすれる音がひそかに響く。ついさっきまであやめ先輩が脱がそうとしてきて、それを嫌がっていた赤城会長と対比して真逆、対偶と言っていいほどに180度真逆の行動を取っていて、ボクは一瞬赤城会長は狂ったのではないか?と思ってしまった。
こういうのが女子校特有の意識の低さなのだろうか?実際に教室でも男子の目が無いからか、本当に自由な行動をする女の子も多い。思い出すだけでも、スカートをめくり合ったり、体を触り合ったり、スカートからパンツが丸見えなガサツな座り方をしたり……etc
「あら、別に困ることないじゃない。女の子同士じゃないの。」
「男の子で~す~!!」
「ほらさっき夕夏ちゃんも言ってたけど、君は今日から女の子なのだよ。」
「――――女の子……」
あやめ先輩がさっきの夕夏先輩の言葉を引き合いに出して、ボクに女の子に成れと言って来た。嗚呼どうしようか?世界一可愛い女の子と、可愛くない男が義理の姉妹として結ばれようとしていたのだ。
……今この状況から導かれる、一番いい方法はボクが女の子になる事ではないのか?
何とも風情もない合理的な判断だが、この状況下で出来ることはボクが女の子になることなんだ。しょうがない。女の子になるか……
「ぐふふ。僕が君が女の子にしてあげるよ。」
「な、何をする気ですか!?」
「うふふ、ナニを落とすと、お、も、う?」
「なんてこと言ってるんですか!!」
あやめ先輩は突然爆弾を投下してくるな。ちょっと気を付けないといけない人なんだろう。と言うか、絶対そうだ。
「リュウ君がスカート穿いて女の子になるんだったら、私はリュウ君のズボンを穿くから男の子になるのかしら??」
「――赤城会長が男の子……ってか、何ですかリュウ君って?」
「竜太郎だから、リュウ君だよ!」
赤城会長のセンスは犬塚さんと近しい物があるのかもしれない。やっぱりこの二人は近づけた方が良い。そう強く思った。
「ま、スカートとズボンを交換するだけだよ。さっさとしな。」
「夕夏先輩は恥じらいとか無いんですか!?」
「ん?別に体育の時に体操着に着替えるのと変わらないだろ。」
「これだから女子校生は……」
やっぱり感覚がどこか連れている。ボク以外の三人は見ている感じ的に中学時代からメリアの生徒なのかもしれない。いや、もしかしたら小学校や幼稚園もメリアなのかもしれない。
「ほら、君も早く脱ぎなさい。君のお姉様はもう脱ぎそうだぞ。」
「リュウ君脱がないと交換できないじゃなの。」
「お姉様とスカート交換しようとしない義妹ちゃんは僕が脱がしてあげるよ。」
「あ、ちょっと!!やめて!」
変なおじさんがボクのズボンに手をかけてくる。
ボクはただモジモジとその場から動けなかった。
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