2章 赤城会長……いや、お姉様

第11話 お姉様とは呼べない





生徒会が始まって数日、特に問題自体はそんなに無かった。

ホームルームが終わったら生徒会室に犬塚さんと向かって、それから放課後まで庶務に取り組む。そして5時が過ぎたら帰宅する。文面にすると淡々としたものだが、実際はかなり濃ゆい時間を過ごしている。


何せ学校一、いや日本一……それでも足りないな、世界一だ!世界一可愛い生徒会長。それと学校一カッコいい女の子にふわふわとした変人の少女に誰とでも仲良くなってしまうギャル。

そんな少女たちとボクが日常を共にしているのだ。ただ駄弁っているだけ……そこにはJKの日常が、なんとも言えない少女と少女のあどけない関係性が生み出す美しさ、永久に見ていられるその光景を見ることが出来たのだ。


よくよく考えたら赤城会長も夕夏先輩もあやめ先輩も犬塚さんも全員JKなのだ。

アニメや漫画に出てくるあの子もあの子も、彼女たちと同い年なのだと考えるとどこかしら感慨深いものがある。

瞼の後ろに投影した百合作品を右眼だけ開いて見比べると犬塚さんが赤城会長に向けてスマホを見せていた。どうやら好きなユーチューバーの話をしているらしい。へぇー以外だ。犬塚さんは四六時中、TikTokかインスタでも見ているものだと思っていたが、案外ユーチューバーの動画も見ているんだ!?


まあ、とは言えきっとボクが好きそうな動画とは全く持って違うような動画なのだろう。まあ、きっとメイクとか美容系の動画だろ、犬塚さんみたいなギャルが見る動画なんてそうレパートリーがあるわけないだろう。きっとそうだろう


閉じてる左目はまぶたで百合を見ていた。ギターが好きな陰キャ少女が明るく元気な少女に手取り足取りギターを教えてバンドを組むその作品をボクは大好きだ。主人公の少女たちを左目に映すと、メリアが舞台じゃないのに主人公たちはメリアの生徒のように感じた。

アニメでは新しい雰囲気で描かれていた学校がノスタルジックな雰囲気の聖メリア変わっていったとしても、セーラー服の制服じゃない、シャツにセーターを着た少女たちであったとしても似合っていた。


そしてその子たちと犬塚さんと赤城会長は対比したかのように見事に重なっていた。


明るく元気な犬塚さんとしっかりとした、でも少し人を引きつけるけど近づけさせない鋼の生徒会長、二人はどこか似通う部分があってボクは今一度この二人を結ばなければならないと心に決めた。


と、こんなことを考えていたら時間も結構前に進んでいた。壁に掛かった時計は右下を指していた。どうやら5時は過ぎたらしい。ボクと言う邪魔者はさっさと御退出するのが一番だ。

 まあ、今日はもう百合百合しい光景を見れないのは残念だが、ボクがいなくなればその分前に進むに違いない。さあ、乙女たちよ!!自らの手できらめく星をつかみ取るのだ!!


「じゃあ、ボクはこの辺で。」

「ねぇリュウ君、最近すぐに帰っちゃうけど大丈夫??」

「あ、会長。ボクなら大丈夫ですよ、ハッハ。まあボクが居なくても赤城会長なら大丈夫ですよ。」

「も~会長じゃなくてお姉ちゃん!!何度も言ってるのにいつになったら呼んでくれるの??」


頬をムスッと膨らませて両手を腰に当てた赤城会長がこっちの方を向いて聞いてきた。少し印象が悪かっただろうか??

確かに最近ボクと赤城会長の関係性は薄い。そりゃそうだ。ボクが犬塚さんと赤城会長を結び付けようとしているからだ。


「リュウ君、スカート姿さまになって来たじゃない。学校生活はどんな感じ?」

「そうですね。いいですよ。犬塚さんもいますし、スカートを着るのも慣れてきました。赤城会長もズボン姿似合ってきましたね。」

「私は一体いつになったらお姉ちゃんて呼ばれるのかしら??本当にリュウ君は頑固者ね。」

「それは……」


赤城会長はご立腹だった。ボクは黙ることしかできなかった。確かにボクはいまだに赤城会長のことをお姉ちゃんと呼べていない。聖メリアではエスになった義妹は義姉に対してお姉様と呼ぶのが習わしだとネットには書いていた。だけど、最近はどうやらお姉ちゃんや親しいところだと“○○姉ちゃん”や“ねえねえ”と呼び合ったり種類も増えたそうだ。


赤城会長のことをボクがお姉ちゃんと呼んでしまうと、赤城会長がボクのことを捨てずらくなってしまうんじゃないか。そう思っていた。だから呼べなかったけど、どこか心がチクリともしていた。


どうしてだろうか?


「ねえ、リュウ君今度の土曜日空いているかしら?」

「ええ、空いていますが……」

「じゃあ決まりね。土曜日に一緒にお出かけに行きましょう!!まだ姉妹になってから一度もどこか行けてなかったじゃない。私、義妹とどこか行くの夢だったのよ。」


静寂を破ったのは赤城会長の方からだった。さっきとは打って変わって、優しいいつもの声でボクを誘ってきたのだ。

有無を言わせない強権的な姿勢はまるでボクと赤城会長が音楽室で出会ったときにエスにすると決めた時にそっくりだ。


どこかその何でもできるお嬢様感あふれる振る舞いはやっぱり赤城会長らしかった。


「まだ行くと決めたわけじゃ……それにどこに行くんですか??」

「暇なんでしょ、だったらいいじゃない。ちゃんと来てよね。桜木町に8時集合で。」


どうやら週末の予定は赤城会長とのデートに決まったらしい。デート自体は楽しみだ。

けど、これが犬塚さんと赤城会長の関係にどう影響してくるか……


何も考えずにボケっとスマホを眺めている犬塚さんを見ながらそんなことを思った。

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