第12話 パンケーキ
桜木町の駅で待っていた。
あたりにはJR桜木町駅から飛び出してきた人たちがバスロータリーやクイーンズスクエアへと続くエスカレーターへと進む人たちで溢れかえっていた。
時刻は7時49分。そこまで速いわけでもなければ遅いわけでもない。そこそこいい時間だ。
今日は休日だからか、ボク以外にも待ち合わせているであろう人たちが立っていた。
「リュウ君。おはよう。」
目の前に天使が現れた。
純白のワンピースを着た赤城会長はまさに天使と言うべき姿であった。普段見かけるセーラー服とは打って変わってワンピースを選んだ赤城会長は少し伸びた綺麗な足に体に密着したワンピースの布、肩に掛けられた二本の細い肩紐姿はまさに良家のお嬢様と言うたたずまいだった。
どうしてこんなにも赤城会長は可愛いのだろうか?
その答えは一生出てこないだろうが、太陽を浴びたことのないであろう真っ白な足と腕はか弱そうでもありながら、どこかしら美しい強さがあった。
ああ、赤城会長。やっぱり今日も麗しい……
「会長、おはようございます。」
「おはよう……リュウ君今日はズボンなのね……」
「ええ、まあ会長のスカート以外のスカートは持ってないですから……」
今日のボクはズボン姿だった。朝起きた時はスカートで言った方が赤城会長も喜ぶんじゃないかと、ふと思ってしまった。だけど、よくよく考え見るとボクは赤城会長のスカート以外を持っていない。というか、女物の服を持っているわけがない。
最悪、母さんの服を着ればいいけど、それはさすがにおばさん趣味と言うか、昭和世代過ぎてボクであったとしてもたぶん合わないと思う。きっと母さんみたいな成熟した女性がきっと似合うのだ。
「だから……今日はリュウ君に私が服を買ってあげるわ!!」
笑顔でこっちを振り向いた彼女の姿は本当に尊かった。こんな姿をなんでボクが見ていい物だろうか??
こんな素晴らしすぎる光景はボクではなく犬塚さんが見るべき姿だろう。
ん?
服を……買う……ボクに??
「えっと……会長??どういう事ですか??」
「え、そのままよ。今日は!!私がリュウ君に可愛い服を買ってあげるの!!」
「に、似合わないですよ……ボクには……」
「実際試してみないと分からないじゃない。ほら、行きましょう!!」
右手首を捕まれると、そのままエレベーターへと赤城会長は走り出した。
赤城会長の柔らかい手の感触がダイレクトに体へと伝わってくる。女の子の体ってなんでこんなにも柔らかいのだろうか?つかまれた右腕の柔らかさとグイグイ前に進む赤城会長の後ろ姿は元気いっぱいでいつもの落ち着いた大人な感じの会長とは違って、少しあどけなさの残る普段とは別の姿を見せていた。
「今日はどこに行こうかしら??」
「そうですね。桜木町はいろいろありますからね。」
「そうね……そうだ!!私、前からパンケーキ食べて見たかったの!!」
「じゃあ、まずはそこに行きますか。」
ショッピングモールへと続く歩く歩道の上で赤城会長は普段の凛々しい姿とは違う景色をみせていた。笑顔を四方八方に振りまいていて、元気なその笑顔は見ているだけで元気を貰えた。
今日は髪形を変えて、後ろに結ばれた髪からは春も過ぎて少しづつ夏が近づいてきている5月の太陽が照らした首筋と束ねられた髪の毛。
首筋から香ってる甘く柔らかい夏ミカンのような赤城会長の香り。
愛おしくて香ばしくて、もしもボクが女の子だったら今すぐにでも抱きしめてしまいたい。
嗚呼、神様はなぜボクを男なんかに産んでしまわれたのだろうか??
出来る事なら女の子に産まれたかった。
「ここですね。かなり人が並んでますが大丈夫そうですか??」
「ええ全然!!むしろこの時間帯なのにこんなに人が並んでいるってことはそれだけ美味しいってことよ。」
「まあ確かにそうですね。赤城会長は朝ご飯は食べてきましたか?」
「軽くトーストは食べてきたけど……でも、これは別腹。」
口元へと持ってきた指を当てながらこっちに向かってしゃがみ込むようにして理解を求めてきた。
なんて可愛いのだろうか??
パンケーキ屋さんはテレビでも流れるくらい人気のパンケーキ―屋さんでふわふわのパンケーキが何段にも重なっていて、その上から大量の生クリームが乗っけられているものだ。
「会長はここのお店、入ったことはあるんですか?」
「いいえ、初めてだわ。リュウ君はあるの?」
「数は少ないですけど、一応ありますよ。」
「そうなのね!初めてのお店で少し心配だったけど、これなら安心だわ。」
嗚呼、この時間が永遠に続けばいいのに。
そう思えるくらい赤城会長と過ごす時間は楽しかった。そして軽くいろんなことを話していたら、店内に入ることが出来た。
「広いのね。ねえリュウ君。この白いのと赤いのって何??」
「これはパンケーキに掛けるジャムシロップで白はココナッツミルクで赤いのは確かストロベリーだったと思いますよ。」
「へ~そうなの。美味しそうね。」
ハワイを模した店内には活気があふれていて、薄緑を基調とした壁に包まれた席にボクと会長は座った。
ボクが淡々とメニューを広げるなか、赤城会長は興味深々と言った感じで店内を見渡していた。
「会長、どれを食べますか?」
「私はこれね。」
「結構量ありますけど、大丈夫ですか??」
「甘いのは別腹なので大丈夫よ!!」
食べきれるか心配だったけど、そんな言葉を聞いてしまったからには注文しない訳には行かなった。臨戦態勢に入った赤城会長は今か今かとパンケーキが来るのを待ちわびていたのだった。
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