第18話 高倉さんと雨音さん②
相も変わらず高倉さんと雨音さんは美しい姿を保ったまま、口づけを交わしていた。
本当に仲がよさそうだ。だけれどもボクたちをも興味すらなさそうな感じで自分たちの世界へと没入したまま、愛し合っていた。
どうした物だろうか??
「ねえ、知ってる?昔は高倉さんと雨音さん、あんまり仲良くなかったのよ。」
「そうなんですか!?」
「えぇ……中等部の頃は吹奏楽部の仲の悪い先輩と後輩で、何度も殴り合いのけんかをしては先生に止められて、中等部の生徒会長だった私が仲を取り持とうと何度頑張ったことか……」
ため息を吐いたお姉様は中等部の頃の記憶を思い出すかのように下を向きながら二人のことを眺めていた。お姉様にしてみれば、中等部の頃は何度も何度も喧嘩をして、もう本当にこの二人は修復不可能なんじゃないかと思うようなことだってあったはずだ。それをどうにか糸を手繰り寄せる様に繋いでいった結果が、この光景なのだ。
つまり今の高倉さんと雨音さんがお互いにキスをし合うような関係でいられるのはきっとお姉様のおかげなのだ。
「凄いですね!!」
「特に3年前のこと……つまり私と高倉さんが中等部2年生で、雨音さんが1年生だった時に吹奏楽部でね、聞いた話だと高倉さんが雨音さんのことをチビって煽ったらしくて、それを雨音さんが怒ったらしくて突然殴り掛かって来て、それで雨音さんが馬乗りになって高倉さんを……」
「ど、どうやって解決したんですか??」
「えっとね……昇降口で二人で手を握らせて『二人は仲良し世界一!』って言わせたわ。」
「……うわぁッ!!な、なにしてるんですか!?絶対生徒たち結構いたでしょ!!」
「ああ、そう言えばいたわね。まあでもそれで仲良くなれたから結果オーライよ。」
「お姉様は悪魔か何かの生まれ変わりなんですか??」
「酷いわね。こんなにも可愛いのに……」
まあ確かにそうだけど……でもやっていることが酷すぎる。公衆の面前で手を握らせて『二人は仲良し世界一!!』って言わせるってなかなかの鬼畜だ。
やっぱりお姉様は少し抜けている……少し??と言う科これは抜けているというよりかは抜け落ちてしまってそこには何もないと言った方が良いのではないのか?
まあ、でもそんなことを気にしている意味は特にない。
「そうそうそれでね。そのあと二人とも私と合うと何故か顔を赤らめていて、それからなぜか知らないけどだんだん仲良くなっていって、最終的には姉妹になったらしいわ。」
「うん、手を握って『二人は仲良し世界一!!』って言わされた日のことを思い出していますよね!というか、なぜか知らないんですけどボクの脳内に高倉さんと雨音さんがあの日のことを思い出しながらお姉様の悪口を言ってて、それから試練を乗り越えた二人がだんだん仲良くなって行ったってシナリオが浮かび上がるんですけど!!」
「さすがリュウ君、ものすごい想像力ね。」
え、なに?これをただのボクの百合脳だと片づけてしまっていいのだろうか??
確かにボクの百合脳は想像力豊かで100歩先を読んでくれる。でもだからと言ったって、なぜか知らないけど、お姉様が2人にしたことを考えて、そのあとから仲良くなったって話を聞くと、あの出来事で与えられた試練を2人で乗り越えたから、仲良くなったって言う風に思えて仕方ない。
……いや、それ自体は問題ないのか?
いや、問題大ありだ!!そもそもとしてお姉様がやったことは酷すぎる……
「でも憧れるわ。高倉さんと雨音さん。喧嘩していくうちにだんだんと仲良くなっていって……良いわよね、そう言う関係。」
「そうですね。確かにむかし敵だった人間同士が最終的にくっついて、仲間になる展開って良いですよね。」
そんな他愛のないことを話しいていた時だった。2人のイチャイチャは最高潮に達していて、それを見つめていたお姉様は感染したのか知らないが、ボクの方を向いてきた。
「黙っていれば、きっとわからないよね。」
「……え??」
お姉様はボクのお腹に手を回すと、服の中に指を回しこみ、そのまあ抱き着いてきた。そして、身体接触を増やすと体と体を合わせ始めた。
ボクの体は力が入らなくて、お姉様になすがままにされてしまった。お姉様の腕でボクの体はお姉様に抱き寄せられて、斜めに引き寄せられた。
まるでキスをするみたいだ。
「ねぇ、リュウ君。良いわよね。」
「……ッハ!?」
「キスしてもいいわよね……」
それだけ言うとお姉様はだんだん顔を近づけて来て……
そしてボクはお姉様を拒否した。
近づけてきた顔に手を伸ばして、無理やり顔から遠ざけた。
「……酷いわ。ねえどうしてそんなことするの??」
お姉様の顔は泣きそうな顔をしていて、けれども怒ったかのような怒りに満ち溢れて行った顔をしていた。
「――ごめんなさい。でも、ボクじゃダメなんです。ボクじゃ……」
「あなたで良いって私は何度も言っているわよね。ねえ、君は何で私を拒否するの??男の子だから??私は男だろうが女だろうが関係ないわ。あなたは私の義妹なのよ」
「そうだとしても!!ボクには無理なんです。お姉様とキスをして良い人間じゃないんです!!」
「酷いわ……本当に酷いわ……」
それだけ言うと、お姉様は逃げ出してしまった。
慌てて追いかけたけど、全速力で図書室から走り出したお姉様はいつの間にかどこか遠い場所へと行ってしまっていた。
「お姉様お姉様どこ!!」
まるで逃げられた恋人を追いかけるかのように執念を燃やして、ボクはお姉様を追いかけた。
そして学校中を探したとき、ようやくお姉様は見つかった。
「あら、リュウ君じゃない……遅いわよ……」
「すみません……」
「まあいいわ。私の泣き顔を見られなかったもの。」
お姉様の顔には涙あとが付いていて、ボクの心は罪悪感で溢れていた。
校庭の小さな池、普段はあんまり生徒のいないその場所にお姉様はぐったりと座っていた。
「お姉様ごめんなさい。」
「いいえ許さないわ。」
お姉様はすっかり拗ねてしまったご様子で、頬を膨らませていた。
ああ本当に可愛い。涙の痕を隠しながら膨らんだ頬を見せたお姉様の様子はまるで小さな可愛い天使のようだった。
「じゃあ、これならいいです……??」
「ちょ……手を取るってまさか……」
「ええそうですよ。お姉様も一緒にお願いします。『二人は仲良し世界一!!』」
顔をカァーっと赤らめたお姉様はボクの顔すら見れないまま手を握られて立ちすくんでいた。
「これ意外と恥ずかしいわね。」
「ほら、お姉様ご一緒に。」
「……しょうがないわね。」
「「二人は仲良し世界一!!」」
そんな言葉をつぶやく二人は夕焼けに照らされて真っ白のセーラー服は夕焼けオレンジに染まっていた。
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