第22話 リュウ君の過去

 

 

 

 

 「――あなた、どうして……私たち愛し合っていたじゃない!それに……竜太郎だっているのに……」

 「お前が自分ばっかりだからだよ!少しは俺の気持ちも考えてみる!毎日夜遅くまで仕事しているんだぞ!」

 「夜遅くって……あなたがやってるのは仕事じゃなくて不倫じゃない!!」

 

 小さい頃の記憶。

 ボクが6歳くらいの頃だろうか?お父さんとお母さんが喧嘩した。

 理由としてはお父さんが女の人と遊んでいたらしい。それも5年以上付き合っていたらしくて、毎日仕事終わりに遅くまで遊んでいた。

 

 「そもそもな。お前が俺のことを構わないから、しょうがなく俺はあの女のところに行っていたんだよ。」

 「構わないって……子育てもして私の仕事もして家事もして……これ以上どうすればいいの??」

 「仕事はお前がしたいって行ったからやってるんだろ。それに家事は女として当然のことだろ。」

 

 ボクのお父さんは古い人間だったらしい。家事もボクの世話も全てお母さんがやっていて、そのうえお母さんは仕事もやっていた。それなのにまったくお父さんは手伝わずにお母さんは苦しそうだった。保育園でボクを迎えに来るとき、ボクを心配させまいと笑顔で迎えに来たけど、門を過ぎた瞬間、どこ悲しそうな苦しそうな虚無の表情をしていた。

 

 「私よりも会社の後輩の……若い女の方がよかったのね。もう私達終わりにしましょう……」

 「もうとっくに終わっていただろう。そんなの。」

 「あなたにとって私って何だったの……??」

 「昔好きだった女。」

 

 母さんの話だとお父さんは結局会社の後輩の若い女のところに言ったらしい。この二人はボクが生まれて母さんがお父さんに構ってあげれなくなったころから、夜な夜な食べに行ったりする関係から始まり、飲みに行くようになって親密になって行き、家に遊びにも行くようになり、最終的には出張の時に同じベットで寝ていたらしい。

 

 母さんはそれをお父さんから直接聞いた。どうやらお父さんはもうそろそろボクが小学校に入学するから、分かれるなら今のうちだと思って離婚届を渡したらしい。

 

 言うまでもないが、お父さんはクズだ。

 ズタボロに傷つけられたお母さんは捨てられたあと何日も泣いていた。幼稚園児だったボクにはお母さんを抱きしめることしかできなかった。

 

 「いい、リュウちゃん。リュウちゃんはお父さんみたいになっちゃダメよ……」

 「もちろんだよ、母さん。」

 「リュウちゃんは女の子を幸せにしてあげてね……」

 

 母さんはよくボクにお父さんに捨てられたときの話をした。自身の間違いを反面教師としてボクが間違いを起こさせないように。昔好きだった男の話をするときの母さんの顔はやつれていて、今でも引きずっている様子だった。

 

 そしてボクは頑張った。母さんには仕事もあるから、出来る限りのゴミ捨てや洗濯はやった。料理にも挑戦した。そしてやっていくうちに思った。

 

 やはりお父さんはクズだと。

 

 自分で家事をするようになってから、より鮮明にあの頃の母さんがどんな気持ちでこんな大変な作業を。それも仕事終わりの疲れた体でやっていたのかと思うと、涙も出てこなかった。

 

 「リュウちゃんはお父さんみたいになっちゃダメよ……」

 「もちろんだよ、母さん。」

 「リュウちゃんはお父さんみたいになっちゃダメよ……」

 「もちろんだよ、母さん。」

 「リュウちゃんはお父さんみたいになっちゃダメよ……」

 「もちろんだよ、母さん。」

 「リュウちゃんはお父さんみたいになっちゃダメよ……」

 「もちろんだよ、母さん。」

 

 そんな言葉を何回も繰り返しているうちにふと、思った。

 

 ボクの体にもあの男の醜い血が混じっているのだと。

 

 手首を見ると太っい血管が通っている。その中にはお父さんという欠陥品が産み出した穢れた血液が混じっているのだ。

 いや、そもそもとして、これはボクだけの問題だろうか……

 世の中には母さんみたい一方的に男に捨てられて悲しんでいる女性もいる。それ以外にも無理やり襲われたり、痴漢したりと男と言う生き物は人間的に劣った生き物ではないか……

 

 いつしかそんなことを考える様になって来た。

 

 ボクはそんな劣った生命体なのだ……そう考えていると一つの結論に達した。女性は男性などと言う醜い存在と付き合うべきではなく、女性同士で付き合うべきなのだと。

 

 そしていつしか、ボクはそんな女性同士が付き合うために努力すべきなどだと思うようになって来た。

 その頃だった。百合と言う存在を知ったのは……

 百合の主旨とボクが考えていることとはきっとたぶん一致していないのだろう。けれども、百合を見ていると心が清められているような気がした。

 

 そしてこんな風景がどこでも見れるようにするために頑張らないといけないと、改めて自分の誇り高き使命を心に刻んだ。

 そんな誇り高い使命を全うする第一歩として聖メリア女学院で男子生徒が女子にくっつかないようにするために3年間を捧げようと思って門をたたいた

 まあ、結局男子はボクだけだったけど、それはそれでボクが自らを律するという修行が出来る最高の道場に行けたのだと思うと頑張ろうと心が熱くなった。

 

 

 

 だから……

 

 ボクはお姉様のそばにいることが出来ないのだ……

 お姉様のそばに居る事。それ自体が罪なのだ。

 

 お姉様のそば相応しいのは穢れた男であるボクではない。宝石に相応しいのは同じ宝石だけなのだ。

 

 ボクは自らの始まりを……なんでこの学校に入学したのか、その初心を思い出すと、お姉様の目を見つめた。

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