第19話 じっちゃんとカクテル
まあドラマや映画と混同しているようだから、現実を知れば考えも改まるだろう。
「でも、僕たちのところに来た手紙の差出人を捜査し推理する権利くらいはあるんだよね」
「それはあるけどな。俺たちは当事者なんだから。誰からの手紙かわからない以上、差出人を見つける権利はある」
「それなら頑張って必ず見つけ出してやる。じっちゃんの名にかけて」
「おい、俺たちのおじいちゃんってまだ死んでないだろう。それにしがないサラリーマンだったぞ。定年退職はしたけど、たいして有名でもないし」
「いいんだよ、気分が出れば」
この調子で差出人が見つかるものだろうか。
まあ捜査して頭を悩ませる経験をすること自体は悪くないだろう。頭の体操にもなるからな。
だが、とっかかりがまるでない状態から捜査し推理するのは得策とはいえない。
「まあ、まずは物証である手紙を調べてみるんだな。あの文面を書くのはどういうやつなのか。そこから捜査をスタートしないかぎり、差出人の候補すら絞れないからな」
「わかった、兄貴。じゃあこの手紙を調べればいいんだな。炙り出しとかかな、水で濡らすと浮き出てくるとかかな」
懐から例の手紙を取り出した靖樹は、コピー用紙を日にかざして透かして眺めている。
「忍者のような細工はしていないと思うぞ。気づかれずに捨てられたら意味がないからな」
「それもそうか。じゃあ書かれた言葉に秘密があるとか。どんな秘密があると思う、兄貴」
「まあよくあるパターンは縦読みだな。一文字目や最後の文字を縦に読むと別のメッセージが隠されているようなやつ」
「縦読みか。どれどれ。一文字目は『いおこあ』、最後の文字は『すすかい』か。なんだろう。古語かな」
いや、こんな古語は見たことがない。スマートフォンでとりあえず検索してみると「いおこあ」は「おこわ」がヒットする。
「『いおこあ』は、おこわがヒットしたけど、おこわを持ってこいという意味だろうか」
「いや、おこわを持ってこさせてなにをしようというのか。これはちょっと考えづらい。そもそもおこわを持ってこさせたいのなら『おこわ』と直接書けばいいんだから。もうひとつのほうを調べてみるか。たしか『すすかい』だったよな」
「すすかい」を検索したところ、「マンゴーのススカイ」というものがトップヒットした。どうやらカクテルの名前のようだ。
「カクテルねえ。僕たちは未成年だからカクテルを持ってこいなんて不可能に近いけど」
「そういえば構成員にカクテルの名前を付けた極悪組織っていうのもマンガであったな。ということは俺たちをヒットマン「ススカイ」が狙っているから気をつけろ、ということだろうか。こちらも今ひとつ決定打に欠けるな」
「じゃあ誰がなんの目的でこんな文面の手紙を出したんだろう。とりあえず縦読みでないのは確定したようなものだけどね。他にも斜め読みとかあるけど、どうも違うような気がする。もっとシンプルでないと、高校生の僕たちには解読できないはず。すぐに思いつく暗号でもないかぎり」
靖樹の言うとおりだ。渡した相手が高校生であることがなんらか暗号を解く鍵になっている可能性はある。
「まずは文章を読んで、引っかかるところがないか調べてみよう。とっかかりがなければ推理のしようもないからな」
「わかった。じゃあこの手紙を調べるだけ調べてみるよ」
「靖樹、勉強を優先させろよ。手紙に気をとられて成績を落としたなんて、笑い話にもならないからな」
「了解。じゃあ休み時間にでも考えてみるよ。兄貴もなにか気づいたことや新情報があったら僕のところに来てくれないかな」
「そうすることにしようか。まあ一年より三年のほうが情報を集めやすいのも確かだしな」
靖樹は足早に階段を降りていく。じきに休み時間が終わる。こちらも次の授業の準備をしておかないといけないな。
教室へ帰ってくると、田原と長田が待ち構えていた。
「靖樹、なんだって」
「差出人を突き止めようってさ。昨日中学生アイドルの田中絵梨香が、高等部校舎で封筒を持ってうろうろしていたのを聞いたみたいで。俺は田中絵梨香じゃないぞと言ったら、差出人の推理を始めるんだと」
「へえ、あの弟くんは探す気満々だな。これは
「気がついたことや新情報を教えてほしいんだとさ。どうせ冷やかしなんだからほうっておけばよいものを」
「
「そういう焚きつける言葉を聞くたびに、お前が犯人なんじゃないかと思ってしまうわけだが」
田原の両目をにらんでみた。
「まあ俺の情報網で関連情報を探してやるさ。本当に絵梨香ちゃんが差出人なのか、他の誰かの仕業なのか。いたずらなのかファンレターなのか、本当にラブレターなのかもな」
「それがわかるには、先に犯人を特定しないと駄目だろう」
「言われてみれば、そうだよな。出した人物がわからないのに、出した理由を知るなんてできようはずもない、か」
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