第24話 まさか受取人とは
三限の英語が終わり、タブレットPCを整理していると後ろの席の田原に女子が話しかけている。
「ありがとう。助かったよ」
女子に礼を言うと、俺に話しかけてきた。
「
「マネージャーがなんで学園にいるんだよ」
ずいぶんと都合のいい話ではあるな。マネージャーも登校しているのだろうか。
「言っただろう。彼女の事務所の社長は、うちの学園長だって」
「ということは、事務所そのものも校舎の中にあるのか」
「いや、事務所は学園の敷地外だ。ただ歩いてすぐのところにあるがな」
「呼び出せばすぐ駆けつけてくるわけか」
「まあアイドルとはいえ中学生だからな。勉強が第一で、芸能活動はあくまでも副業。将来高卒か大卒で本格的にプロデビューするはずだ。それまでは学園でたいせつに育てようって腹だろう」
田原は妙に芸能界に詳しいな。
「実は俺も学園長から声をかけられたことがあるんだよ。そのとき仕組みだけは聞いておいたんだ」
「田原ももしかしたら芸能人だったわけか」
「いや、俺、芸能活動には興味なかったんだよ。あくまでも芸能業界に興味があってさ」
「芸能レポーターにでもなりたいのか」
「うーん。入手した情報を飯のタネにするのも気が進まないんだよなあ」
「じゃあどうして知りたがるんだよ」
「そりゃ、隠されたものがあると知りたくなるものだろう。知りたい情報が手に入らなかったら気持ち悪いからな」
このぶんだと田原はやはり刑事に向いているかもしれない。国が違えば私立探偵でもやっていけそうだ。少なくとも情報収集能力は図抜けたところがあるし、その情報網を逆用すれば今回のようにアポイントもとれるのだから。
お手洗いから戻ってきた長田がすたすたと近寄ってくる。
「ちょっと小耳に挟んだんだが、お前たちが生配信で出した手紙は何名かに配られたものらしい」
「というと」
「例の絵梨香ちゃんももらったらしいんだよ」
思わぬ情報だ。手紙の差出人ではなく受取人だったとは。
「その情報、どこから仕入れたんだ」
田原が食らいついた。こいつにとっては内容より情報源のほうが重要なのか。
「靖樹の友人からだ。靖樹に絵梨香ちゃんに会えるかもしれないぞって言いに行ったら、それを聞きつけた友人が寄ってきたんだ」
「しかし絵梨香ちゃんが受取人のひとりだとはな。これで手紙の差出人探しは振り出しに戻ることになるな。どうする
「せっかくのアポイントだから会うよ。差出人でなくても、いつどのように受け取ったのかを知れば、差出人の見当もつけられるからな」
「差出人探しのためには、どのくらい受取人がいるのかと、その種類を調べなければならないからな」
「種類って」
「有名人へ手当たり次第に出した可能性もあるからな。その場合、うかつに差出人を探すとやぶ蛇になりかねない」
「つまり」
「有名人の弱みを握って金品を要求する輩に突き当たるかもしれないってこと」
聞いていたふたりが顔を見合わせた。
「だから手紙の受取人が名乗り出ないのか。じゃあ悪事を企むやつがうちの学校にいることになるけど」
長田の疑問はもっともだ。悪事とはいかないまでも、なにかを企んでいるやつがいるのは間違いないだろう。
ということは大っぴらに差出人探しをすると、よからぬことを招いてしまうかもしれない。
「だとすれば、相当慎重にならないといけないな。田中さんはマネージャーが守ってくれるだろうけど、俺と靖樹は守ってくれる人がいない」
「つまり狙われやすいってことか。もしかしたらお前たち兄弟を最初から狙っていて、撹乱するために他の生徒にも手紙を出している、とか」
これはうかつなことをすると墓穴を掘りかねない。こちらに近づいてこようとする人物が好意的とは限らないのだから。
靖樹はラブレターだと浮かれているが、実際にラブレターである可能性が低い以上、犯人に狙われやすいターゲットだと判断されているかもしれない。
「じゃあどうする、清樹。絵梨香ちゃんと会う約束、今ならキャンセルできると思うけど」
「いや、会おう。靖樹が彼女と会えば、もし陥れようとするやつがいたら接触してくるはずだからな。この際そのリアクションに期待しよう」
「じゃあ俺の情報網を展開しておこう。背後で誰が動いたか、お前も知りたいだろう」
「犯人を追及するのに便利だから、ぜひお願いするよ」
「よし、それなら昼休みに総動員して背後関係を突き止めてやるよ。お前ら兄弟と絵梨香ちゃんのためにもな」
「ちなみに他の受取人探しはどうなるんだ」
確か情報網には他の受取人探しを依頼していたはずだ。
「お前たちの会談の後にってことになるな。まあ調べないわけじゃないんだから安心しろ」
これから四限だというのに、これからすることの多さに思わずため息が漏れてしまう。
どれだけの変事が待ち受けているのだろうか。すべては田中絵梨香に会ってから動き出すことになりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます