第23話 打診
田原が自慢の情報網を使って、俺たち以外に手紙を受け取った者を探し始めた。指示を出し終えた田原が戻ってきた。
「昼休みが終わる頃には報告が来るだろう」
これで何名の人物が引っかかるのか。それによってなんのために出したのか。その狙いも明らかになるはずだ。
いったい誰が手紙を出したのか、を調べるためには判明している受取人が少ない。とくに俺と
もし田中絵梨香がかかわっているのだとしたら、芸能事務所への勧誘かもしれなかった。今や人気の配信者の多くが芸能事務所に所属しているのだ。フリーの俺たちに勧誘があっても不思議はない。
田中絵梨香の芸能事務所がどこなのかはわからないが、勧誘を企図して接触してきた可能性はあるだろう。
「田原なら当然知っているよな。田中絵梨香の所属事務所のこと」
ふとした言葉に不意を突かれたようだ。きょとんとした態度をとっている。
「あ、ああ。うちの学園長が社長を務める芸能事務所だな」
意外な言葉が返ってきた。
「なんだって。それじゃあ田中絵梨香は昨日、事務所の社長に会いに行っただけかもしれないじゃないか」
「あ、ああ、そういえばそうだな」
田原はようやく合点がいったようだ。
「これで田中さんはこの件から除外していいだろう。そもそも彼女が持っていた封筒がどのようなものかわからない以上、俺たち宛かはわからないのだから」
「そういえばそうだな。灰色の三つ折り封筒かどうかがわからない以上、同一のものと判断するのは早計だ」
「絵梨香ちゃんが何色でどのくらいの大きさの封筒を持ってうろうろしていたのか。確かにたいていは茶色い封筒だろうし、お前たちに届いたのも学園指定の封筒と便箋でもなかった」
彼女が持っていた封筒と、俺たちが受け取ったものとが同じ種類であれば可能性はあるのだが、状況証拠では今ひとつ決定打とはなりえない。
「それなら本人から直接話を聞いてみるか。中等部だが接触する機会を作るくらいはできるはずだが」
確実に田中絵梨香が捜査線から消えるのであれば、直接会って話を聞いたほうがいいだろう。
だが俺だけが彼女と接触すると
「靖樹と三人で会えるのなら、それでもいいんだけど」
「靖樹と一緒にって。どうしてだ」
「あいつは田中さんのファンで、付き合いたい有名人の一位に挙げているからな。相談せずに彼女と会っていたことがバレたら後始末がたいへんだ」
「靖樹も昨日の配信で言っていたな。確かにファンでもないお前が彼女と二人で会っていた、なんて聞いたら機嫌を悪くするだけならいいが、嫉妬されるかもしれない」
「わざわざ兄弟ゲンカを起こす必要はないからな。だから会えるように手を打ってくれるなら、俺と靖樹と三人でってことで。もし怖いようなら彼女以外に誰か連れてきてもいいという条件で」
「それなら会いやすくなるかもしれないな。よし、ひとつ伝言ゲームといきますか」
先ほど話していた女子をつかまえた田原は「中等部の田中絵梨香ちゃんに、ゲーム実況をしている人たちが会いたがっている。封筒について聞きたいので今日の昼休みに中等部校舎で会えないか、と伝えてくれ」と頼み込んだ。
その様子を見ていた長田がため息をついた。
「田原のやつ、よくもまあここまで顔が利くものだ。これで中等部の絵梨香ちゃんに会えたらたいしたものだよ。下級生とはいえアイドルだからな」
「情報網を組織するだけでも、とても高校生の手腕とは思えないな。悪のシンジケートが欲しがりそうだ。いや刑事になっても活かせるか。独自の情報屋を抱えれば、巨悪を逮捕するのに役立ちそうだからな」
「田原自身は葛望大への推薦を確保するって言っていたから、刑事スタートのキャリア採用なら道はないわけじゃないか」
「どんな未来になるのやら。田原に推理力があれば、よい刑事になれそうだが」
「誰が刑事になるって」
いつの間にか田原が戻ってきた。
「お前の情報網の構築と伝達能力があれば、刑事として大活躍しそうだと思ってな」
「ははは、俺は推理力が皆無だからあまり意味もないだろうな。推理力でいえば
まるで名探偵の推理に感心しているような口ぶりだ。
「いや、まだ確定じゃない。彼女が持っていた封筒と手紙の中身の裏取りをするために田中さんと会って話がしたいだけなんだ。重要参考人として、な」
まあ彼女から話を聞けば解決するような謎ではなかろう。接点のないアプローチをしてくる輩が現れるはずだからだ。
「もし彼女が出したのだとすれば理由もわかるし、違えば別に犯人がいるということが確定する。逆にいえば彼女の話を聞かずにこれ以上は推理できないってことでもあるんだけど」
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