第31話 一周回って

 マスコミ対策についてふたりに聞いてみるか。

「佐伯くんはチームからマスコミ対策は講習を受けていますよね」

「ああ、入団初日と月イチで講習会があるな。それがどうしたんだ」

「詳しくはあとで。では結城くんはどうかな。誰かからマスコミ対策は習ったことがありますか」

「いえ、とくにこれといっては。でもどうしてそういうことになるんですか」

 やはりマスコミ対策は呼び出す人が真逆だ。


「僕が今考えたのは、マスコミ対策の講習を受ける人と受けない人の差だったのですが」

「それなら絵梨香ちゃんと俺は事務所やチームですでに受けているよな」

「僕はまだ誰からもマスコミ対策は教えてもらっていないんだけど」

「問題はそこなんです」


 田原が首をひねっている。

「特別にマスコミ対策をしなくてもよい人を呼び出して、対策をしたい人は呼び出さないで手紙だけ。これっておかしいですよね」

「ああ、おかしいな」

「言われてみれば確かに」

 これはわかりきったことではあるのだが。


「そして、マスコミ対策をしなくていい人にも手紙を出したいのなら、田中さんと佐伯くんの二人だけでなく生徒全員に出すべきなんですよ」

「あ、そうか。あえて二人に出さなければならない理由が他にあったということか」

 田原も合点がいったようだ。


「そういうこと。マスコミ対策をしなくていい人にあえて施したいのなら、田中さんと佐伯くんが選ばれた理由としては筋が通るんだけど。それはふたりではなく全生徒に教えるべきもの。だからこの推理は外れたと見ていいんです」

「しかし休み時間があまりないぞ。そろそろ正解にたどり着かなければ、七限後に絵梨香ちゃんを呼び出して推理を披露する機会を逸するぞ」

「いや、僕は推理探偵ではないから、別にメンツが潰れてもかまわないさ。ただ、弟は失望するかもしれないけどね」


 マスコミ対策という線はかなり強いと思ったのだが、五人とその他を区別する線としては弱い。なにか別の目的を持って出されたものなのか。


 ここまで来ると一周回ってラブレターかファンレターの線も否定しないほうがいいかもしれない。少なくとも同じ文面であればラブレターはありえない。

 しかし現在は性的マイノリティーが権利を主張する世の中だから、女性が田中さんにラブレターを書いた可能性もありうる。


「これは最初に誰もが考えたことなんだけど、ラブレターという線が浮かんでいます。田中さんが高等部校舎をうろうろしていた理由としては一理あるからです」

「それは田原くんが最初に主張していたことですよね。今さらそこへ戻るんですか」

「単なる消去法です。考え出せる案をすべて出して、ひとつずつ可能性を潰していく。明確な真実が見えないときは、こうするのがいちばん手っ取り早くて確実なんです」


 右肘を窓枠に引っ掛けながら、右手の人差し指でこめかみを叩いてみる。古い記憶を呼び起こそうというのだ。


「僕が手紙を受け取ったとき、最初に思い浮かんだのはラブレターだった。だから田原に隠れて持ち帰り、もしなにか重要なことが書かれてあったらまずいと思って中を確認した。するとラブレターとは思えないような文章が綴られていた。で、ゲーム実況で公開しても差し障りはないだろうと思っていたら、弟が同じものを先に披露してしまったんだ」

「そして翌日、俺がきよに、昨日田中絵梨香ちゃんが灰色の手紙を持って高等部校舎をうろうろしていたと告げたことから、ラブレターの線を消したんだよな」

 田原は自分の出番はしゃべりたいらしい。


「それでファンレターの線を考えついたのだけど、僕と弟と田中さんの他にも同じ灰色の手紙をもらった人がいるかどうかが知りたくなったんだ」

「で、俺が方々で聞いてもらったんだ。そうしたら佐伯くんと結城くんが受け取ったとの情報が手に入ったんです」

「その間に僕は田中さんとマネージャーさんに会って、あの手紙を出したかどうかを確認しました」


「磐田くんは田中絵梨香さんと面識があったんですか」

「いえ、まったく。この田原にセッティングしてもらいました」

 田原は黙って頷いている。


「彼女から聞いた話では、持っていた手紙は受け取ったものであって、出してはいないとの証言を得ました。彼女が嘘をつく理由はありませんから、それは真実でしょう。ではあの手紙はなんなのか。彼女の手紙には高等部校舎の生活指導室へ行くように指示するコピー用紙が付いていたと言います」

「俺がもらったものと同じか」

 頭を掻きながら佐伯くんは言葉を漏らした。


「そう。で、そのコピー用紙が付いていないものを僕と弟、そして結城くんが受け取っているんです」

「確かに。僕のものにはそんな指示は付いていなかった」


「話は前後するのですが、田中さんから話を聞き終えて取り急ぎ戻ってきたところで、田原から佐伯くんと結城くんのふたりも灰色の手紙をもらっていたと知ったわけです」

「で、僕たちから話を聞いて、謎は解けたのかな、磐田くん」

 何度もこめかみを叩いていると、ある考えが浮かんできた。


「万人を納得させる回答としてはファンレターがいちばんしっくりくる。もちろんファンレターの可能性が高そうだけど、誰からなのかはさっぱりわからないんですよね。そして二種類の形にする意味もわからない」

「そうなると、五人に共通するものがあることになるけど。やはりファンがいる、という線が最も濃厚だよね」


「でもふたつの種類つまり、田中さんと佐伯くんのパターンと、僕と弟と結城くんのパターンの違いを探さないといけない。単なるファンでこのふたつのパターンに分かれるものかどうか」




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