第32話 俺たちが犯人!?
そこまで考えが及んだとき、一番に浮かんだ差出人候補は田原だった。
俺と
もしこれが関係者のすべてであれば、そのすべての情報を知っていた田原が最も怪しいと思われる。しかし本人を目の前にしてあからさまに「田原が怪しい」とは言えない。こんなことで友情にヒビが入るのも嫌だしな。
「田原っていつもいろんな情報を拾ってくるけど、勉強もしっかりやっているんだよな」
「まあ葛望大へエスカレーター式に進むとすれば、日頃の成績次第だからな。きちんと勉強して傾向と対策はバッチリだ」
「そのうえで情報網を整備している、と」
「知らないことがあると気になって勉強が手につかなくなるからな。人脈を築いておけば、あとは人づてで情報はいくらでも集められる。なんだ
ここではぐらかしても時間が無駄になるだけだ。
「ああ、ちょっと疑っているのは確かだ。なぜこんなにいろんな情報を知っているのか。もし田原が仕掛けたのなら納得もいくからな」
「いくら俺でもそんな捏造をする意味がない。もしお前が昨日手紙を見つける直前に、絵梨香ちゃんが灰色の封筒を持ってうろうろしていた、って言えばお前はきっとラブレターだと思ったはずだ。でも実際にはお前が封筒に気づいたのがいつかわからないから、別れ際に絵梨香ちゃんの情報を出したとでも言うのか」
ちょっとへそを曲げたかな。
「いや、すべてが昨日の出来事だから、昨日のうちに情報を知っていた人物が怪しく見えるというだけ。田原がこんなたちの悪いいたずらをするとは考えられない。だから疑念は湧いたけど差出人としては見ていないから」
順繰りと田原を諭していく。
「それにどうせ田原が捏造したのなら、お前を介さずに情報が僕に直接渡るようにするはずだ。お前を介して情報のやりとりが進んでいたら、あまりにもあからさまで目につきすぎる。きっと誰かが僕に忠告のひとつもしてくるはずだからね」
佐伯くんが口を開いた。
「手紙を入れたのは俺たちと同じ高三じゃないのか。磐田の弟と田中絵梨香には下級生に指示を出せば済む話だしな」
「それなら逆に言うと、田中さんと同じ中等部三年生だとしたら、上級生に頼まないといけないからかなり難しくなるね」
「磐田の弟なら、中三に頼んで絵梨香ちゃんの机に入れさせ、自分はもらったことにし、高三の俺たちは磐田から渡された。と解釈すれば推理は成立するような気もするんだが」
佐伯くんの言うように、俺と靖樹が組んでいれば今回のことは比較的簡単にできるだろう。
とくに俺と靖樹以外であれば、芸能界やスポーツ界絡みで有名人という共通項が見えてくる。そうなると、俺が仕掛けた可能性がいちばん高くなるわけだが。
「だとしたら、お前がいちばん怪しいことになるわけだな、清樹」
「お前、兄弟で動画配信をやっているんだろう。そのネタ作りで仕掛けたんじゃないのか」
佐伯くんが顔を近づけてにらんできた。ここで目を逸らせば後ろ暗いところがあると思われる。目線は絶対に外せない。
「そう考えるといちおうの筋は通るわけか。磐田くんがこの手紙を仕掛けたのだとすれば、僕たちはそれに踊らされていたことになるんだね。これは先生に報告してくる案件かな」
「僕も靖樹もこんな手の込んだまねはしないよ。もし僕たちが仕掛けたのであれば、動画配信のときに田中さんと佐伯くんと結城くんの名前も出さないとおかしいだろう」
「それは今日の配信で言及しようと思っていた、ということも考えられるな」
「もし磐田が絡んでいないのなら、弟が仕組んだのかもな。磐田でも弟をすべて把握しているわけでもなかろうし」
このままでは犯人は俺か靖樹もしくはふたりで仕組んだいたずらにされてしまう。
反論したいところだったが、各教室へ生徒たちが入り始めている。どうやら五限の休み時間は終わりそうだ。
「磐田、お前がもし仕掛けたのであれば、絵梨香ちゃんに七限後までに犯人を突き止めると豪語した理由にもなるってことを忘れるなよ」
佐伯くんがそう言い残すと教室へと立ち去っていく。
「それじゃあ僕たちも戻ろうか。おそらく磐田くんじゃないだろうと僕は思っているからね。そこまで悪評がある人ではないから。動画配信で稼ぎたいからと、手の込んだことはしないだろうし」
「結城くん、ありがとう。なんとか七限が終わるまでに差出人を突き止めてみるよ」
だが手がかりがなさすぎる。
もし靖樹のやつがこんなわざわざ手の込んだことを仕掛けたのであれば、俺のメンツも丸潰れだ。
そういえば、昨日の配信前にサプライズで開封の儀をやりたいと言い出したのは、そもそも靖樹が仕掛けていたからなのか。
こうなると靖樹も差出人候補ということになるだが。
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