第43話 学園長室
それから俺たちは豊橋先生から全体説明を受けたのち、ひとりひとり個別に講習を受けることとなった。
俺と
豊橋先生の話だと、学校への収入申告で一千万円を超える人たちがまず集められて講習を受けることなっていて、そのためにあの手紙を書いて机に入れたのだという。
文面が当たり障りのないものだったのは、他の誰かが中を読んでも高額収入者が集められていると知られたくなかったからだそうだ。
それがラブレターと誤解されることを意図したものではなかったのだが、あまりにも配慮が行き届きすぎてああなったらしい。
それなら現代文の先生に書いてもらったらよかったのではないだろうか。
俺たちは兄弟でも合わせた年収は一千万円に満たないと申告しているので後回しとなる。
ただ収入と経費の確認をしたいから、銀行口座の明細と必要書類を持ってくるように言われた。
ネット銀行の取引記録と、e−Taxで行なった昨年の確定申告の控えと、住民税の課税証明書を持っていけばいいだろう。
結局のところ、ラブレターというほど華やかなものでもなく、学園側としてはごくごく普通の収入確認をしたかっただけである。
講習を受ける番となる前に、俺たちは学園長室に呼び出された。
動画配信者として正式に芸能事務所へ所属してみてはとのことだった。
俺としてはそれよりも経営者としての学園長の手腕を知りたい欲求のほうが強い。
この
それでも経営が順調なところはじゅうぶんに興味深い。
「それで磐田くんには兄弟で葛望大学へ進学してもらいたい。私が推薦を出すし、取り寄せた資料によると、とくに
「ですが、それは事務所に席を置いてからということでしょうか。それとも今から所属して推薦枠を行使してくれるということでしょうか」
学園長はニコニコした表情を崩さない。
「もちろん所属してもらってから推薦させてもらうよ。靖樹くんも推薦を得られるだけの勉学でのサポートもしていく予定だからね。だから靖樹くんはもう少し勉強に身を入れなさい。それがうちの事務所に入る条件だよ」
「それって絵梨香ちゃんも一緒にってことですか」
「まあマネージャーを付けるから出社する必要はない。勉学もそのマネージャーが見てくれるよ」
「できれば絵梨香ちゃんと一緒に勉強したいなあ」
「靖樹、お前今から中三の勉強をしてなんになる。高一なんだから高校の勉強をするべきだぞ」
靖樹の態度を見て学園長は笑っている。
「いや、確かに勉学は一緒にはできないが、事務所の行事もあるから接触する機会はあるはずだよ。ただし、彼女がアイドルをやっているうちは下心のある人は近づけるつもりもないけどね。商品価値が下がってしまうから」
それには同意する。
おそらく事務所の稼ぎ頭は彼女であり、もし彼氏がいるなどと噂を立てられたらマスコミが殺到するだろう。
それに彼女のファンは同世代だろうから、彼氏がいるというだけで離れられかねない。商売をするうえで田中絵梨香はたいせつに育てたいところである。
「靖樹も少しは感情を抑制しろよ。もし事務所に入ってスキャンダルなんて起こしたら、多額の賠償金を支払わなければならないかもしれないからな」
「お、清樹くんはかなり注意深いね。そのとおり。彼女のスキャンダルはうちの事務所の命運を左右しかねない。友達としてなら接触してもいいが、付き合おうという下心があるのであれば、即座に退所してもらうからね」
「それはむごいですよ、学園長。せめて一緒の時間が週に一日は欲しいです」
靖樹は条件について粘っている。
「じゃあ君もアイドルをやってみるかい」
「なれるんですか。それならやってみたいです」
ずいぶんとノリノリな反応をしているようだけど。
「お前なあ。アイドル活動といっても最初は下積みからだし、売れない期間が続いてしかも俺たちは葛望大学へ進まなきゃならないんだぞ。やることだらけでゲーム実況なんてしている暇がなくなるんだ」
「ああ、そういうことか。ゲーム実況をとるか売れないアイドルをやるかの二者択一ってことになるんですね」
それでも学園長は朗らかだ。
「やはり清樹くんは察しがいいね。そのとおり。アイドルになるのならゲーム実況はさせられない。肖像権の問題もあるからね。ゲーム実況や動画配信をするときのバックアップもできなくなる。それでもアイドルをやってみたいかい」
「とりあえず保留させてください。ゲーム実況が振るわなくなったらアイドルへって見込みでもいいんですよね」
「それは否定しないよ。ゲーム実況で話題になってテレビなどに出るようになってから、アイドルへ転向しても遅くはないでしょう」
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